2016年12月17日
ぽつねん
「ぽつねん」は,
ぽつねんと座っている,
というように使う。
ひとりだけで寂しそうにしているさま,
という意味である。『語源辞典』には載らないので,
擬音語・擬態語,
と思われる。勝手な想像だが,
「ぽつん」+「然」
ではあるまいか。億説だが,
Potun nenn→potunen
と転訛したのではあるまいか。「然」の字は,
漢音ゼン,
呉音ネン,
なので。
「ぽつん」は,『広辞苑』には,
水滴が一粒落ちて当たる音,またそのさま,
物の表面に小さく丸い突起や穴が一つできるさま,
とあり,その類比から,
他と孤立して存在するさま,
という意味が載る。実は,『広辞苑』には載らないが,「ぽつん」は,他の辞書(『大辞林』『デジタル大辞泉』)には,
ぽつりに同じ,
とあり,「ぽつり」を見ると(『大辞林』),
(多く「と」を伴って)
①雨やしずくが落ちるさま。 「 -としずくが落ちて来た」
②点や小さな穴のできるさま。 「 -と穴があく」
③一つだけ離れてあるさま。 「 -と一人座っている」
④言葉少なに話すさま。また、一言だけ物を言うさま。 「 -と一言つぶやいた」
と意味が載る。『擬音語・擬態語辞典』には,「ぽつり」は,
雨粒などの水滴が一滴落下してぶつかる音,またその様子,
他から孤立して,一人あるいは一つだけ存在する様子,
とあり,「ぽつん」は,
水滴が一滴落ちて何かにぶつかる音,またその様子,
他から離れて一つだけある様子,
とある。正確には,「ぽつり」と「ぽつん」は,
ぽつんと落ちる,
と,
ぽつりと落ちる,
では,微妙に違うのではないか。だから,「ぽつん」の用例と「ぽつり」の用例に差がある。その微妙な違いを表現するために,さまざまに文脈ごとに擬音語を編み出したのだから,その差異にはこだわるべきで,その意味では,『広辞苑』に見識を見る。
「ぽつん」と似た言い方に,
つくねん,
がある。「つくねん」は,
何もせずにぼんやりしているさま,ひとりさびしそうにしているさま(『広辞苑』),
何事もせず物思いにふけっているさま,一人さびしくぼんやりしているさま(『古語辞典』),
という意味であるが,「孤立」よりは,「ぼんやりしている様子」「物思いにふけっている」に焦点が当たっている。『大言海』は,
「つくづくと念じ居る意」
と注記する。『語源辞典』には,
「『ツク(何もしないでじっとする)』に,『然』を加えて漢語らしくした語。」
とある。「つく」は,辞書には見当たらないが,擬態語なのであろうか。
「つくづく」を見ると,
念を入れて,みたりかんがえたりするさま,つらつら,よくよく,
物思いに沈むさま,物さびしくつくねんと,
深く感ずるさま,
という意味が載る(『広辞苑』)。『古語辞典』には,
「尽く尽くの意。力尽き果ててが原義」
とある。で,
力尽きた気持であるさま,気力を失ったさま,
という意味が最初に来る。
『大言海』は,
「就くを重ねたる語」
「物を打ち守る意に云ふ語」
とする。で,
善く善く念を入れて見守る,つらつら,
という意味を載せる。「つく」は,「就く」,つまり,
ある場所にひっつく,
という意か,「尽く」,つまり,
消耗し果てる,
意か,いずれにしても,
ひとところに,居つく,
という状態表現(だから,『語源辞典』のいう「ツク(何もしないでじっとする)」という擬態語なのではあるまいか)を,重ねることで,
つらつら,
とか,
ものさびしい,
という価値表現が加味されてきた,その「つく」の状態が,
つくねん,
ということになる。その意味で,「ぽつん」という状態表現が,
ぽつねん,
で,「さびしさ」という価値表現が加味した謂れと似ていなくもない。
参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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