2016年12月19日
乃公
乃公は,
だいこう,
あるいは(呉音訓みで),
ないこう,
と訓む。昨今は,あまり使われない。『広辞苑』には,
「汝の君主の意」
として,
わが輩,おれさま,
といった意味で,男性が,
自分自身を尊大にいう言葉,
らしい。つまり,相手に対して,
「乃(=汝、お前)」の「公(=主君)」
と位置関係を設定して,上から目線で言う言葉らしい。
乃公出でずんば蒼生を如何せん,
といった使い方をする。
「このおれさまが出ないで,他の誰ができるものか」
という意味である。相当に背負った言い方である。「蒼生」は人民の意なので,
「この自分が出馬して行動しなければ、世の人民はどうなるであろうか。世に出ようとする者の気負いを表す言葉」
であるらしい(『大辞林』)。『大言海』は,「だいこう」の項に,乃公の他に,
逎公,
而公,
も当てている。そして,
「漢の高宗の自称に基づく。逎,而は,乃に同じ。」
とある。そして,『史記』の「留侯世家」の注に,
「乃公,高祖自称也」
とあることを引用している。
つまり,逎も而も,「汝」という意味ということになる。「汝」は,『広辞苑』には,
「ナムチの転」
とあり,
同等以下の相手を指す語,
つまり,お前,そち,という意味になる。「なむち(汝)」は,
「ナ(吾)にムチ(貴)のついた語」
とある。『語源辞典』には,
「『な(汝)+ムチ(貴)』の音韻変化です。なんぢ,が古語の仮名遣いです。本来は尊称の対称です。」
とあり,『大言海』には,
「元は,ナの一音ナリ。ムチは,貴の義なりと云ふ。キムヂなど云フモ,キは君なり」
とある。そして,尊族(めうえ)に対していた,
なれ,いまし,みまし,おんみ,きみ,あなた,
という意味が,卑族(めした)に対する,
わぬし,おまへ,そなた,そち,
という意味に転じたとする。『古語辞典』は,「なむぢ(汝)」の項で,
「ナは古い一人称代名詞。ムヂは奈良時代には清音のムチで,スメムツカムロキなどのムツとと同根。貴く,むつましく思う対称。したがって,ナムチは,我が貴くむつましい人の意が原義。後に,相手を対等に,または低く見て使う語。ナムヂは漢文訓読系で用いる語で,平安女流文学系では男子が用いる。」
とある。こうした二人称の尊称から,対等,目下への使い方の変化については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/442523895.html
で触れた。
念のため,「乃公」の「乃」の字に当たると,指事文字で,
「耳たぶのようにぐにゃりと曲がったさまを示す。朶(ダ だらりとたれる),仍(ジョウ 仍やわらかくてなずむ)の音符となる。また,さっぱりと割り切れない気持ちをあらわす。接続詞に転用され,逎とも書く。」
とある。
http://xn--i6q76ommckzzzfez63ccihj7o.com/honbun/zoukan-4735.html
によると,
「弓の弦をはずした形と思われる。弦を張らずに、そのままおくことをいう。」
とあり,
乃父(だいふ)
という言い方があり,
父が子に対して自分のことをいう語,
他人の父。また、一般に父,
という意味になる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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