2016年12月22日

ひがむ


「ひがむ」は,

僻む,

と当てて,

ねじける,
ひねくれる,

という意味で,

「特に物事をすなおに受け取らず,自分に不利であると歪めて考える」

とある(『広辞苑』)。実は,

僻(ひが),

のみで,接頭語として,

正当ではない,または事実にたがう意,

をあらわす。『古語辞典』には,

自分自身の片寄った能力や思い込みによって,事実を取り違えたり,誤解したりする意を表す,

とある。この場合,

僻(ひが)こころ,
僻(ひが)目,
僻(ひが)聞き,

等々と使う,その「片寄り」である。

『語源辞典』は,「ひがむ」について,

「ヒガ(僻・ゆがみ・曲り)+ム(動詞化)」

とする。『大言海』も,

「僻(ひが)を活用す。拉(ひし)げ屈むの意」

としている。動詞「僻む」には,自動詞と他動詞があり,『大言海』は,別項を立てている。自動詞だと,

ゆがむ,かたよる,ねぢく,

という意味となり,他動詞だと,

ゆがむようになす,曲ぐ,

という意味になる,という。そこで,上記の,

「ヒガ(僻・ゆがみ・曲り)+ム(動詞化)」

の「ム」が問題になる。どういう意味なのか,浅学の自分にはよく分からない。助動詞とすると,基本的に動詞について,使役,完了,存続,打消,推量,回想等々表現し別けるために使うものだから,基本接頭語「僻」につかないはずである。では,「む」は何か。常識的には,

逆恨み,

の逆(さか)は,動詞化すると,

逆ひ,

となる。

片端,

の片(かた)は,動詞化すると,

片し,

となる。

大騒ぎ,

の大(おほ)は,形容詞化の例だが,

大(おほ)し,

となる。何か動詞化の規則のようなものがあるかと考えてみたが,「僻」の動詞化「僻み(む)」との共通点は,思いつかなかった。仮に,「む」が助動詞とするなら,『古語辞典』は,助動詞「む」を,

一人称につけば「…よう」「…たい」と話し手の意思や希望を表し,二人称単数の動作につけば,相手に対する催促・命令を表し,二人称複数の動作につけば勧誘を表す。三人称の動作につけば予想・推量を表す。

という。しかし,『日本語の語源』は,

「オモフ(思ふ)の省略形のモフ(思ふ [m(of)u])を早口に発音するとき,ム(む)に縮約された。これを活用語の未然形に接続させて推量・意志の助動詞が成立した。(中略)『む』の未然形『ま』は助動詞を接続しない。その空間(あきま)性を利用して形容詞化の接尾語『し』を付けたため,『まし・べし・らし』『ましじ・まじ・じ』が成立した。また動詞『あり』を添えたため『めり』が成立した。体言化された『まく』に『欲し』をつけた『まくほし』は希望の助動詞『まほし』になった。(中略)『む』は多くの助動詞の母胎となった根源的な助動詞である。
 『む』[mu]は,平安時代の中ごろから,発音運動の衰弱化の反映として,母韻[u]を落として撥音便の『ん』になった。」

と,「む」の変化を説く。仮に,「む」が,

オモフ→モフ→ム,

と変化したのなら,元来は,動詞「思ふ」なのだから,

僻+む,

には,

片寄り+思い,

という含意がよりはっきりするような気がするのだが。

参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
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