2016年12月23日

怪談


田中貢太郎『怪談百物語』を読む。

怪談百物語.jpg


ここで取り上げているのは,いわゆる,

志怪小説,

の類である。志怪小説は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/434978812.html

で触れたように,

中国の旧小説の一類,不思議な出来事を短い文に綴ったもの。また創作の意図はなく,小説の原初的段階を示す。六朝東晋の頃より起こった。「捜神記」など,

と言われるものだ(『広辞苑』)。志怪小説は,

「面白い話ではあるが作者の主張は含まれないことが多い。志怪小説や伝奇小説は文語で書かれた文言小説であるが、宋から明の時代にかけてはこれらを元にした語り物も発展し、やがて俗語で書かれた『水滸伝』『金瓶梅』などの通俗小説へと続いていく。」

という。そもそも「志怪」とは,

「怪を志(しる)す」

という意味で,

『列異伝』曹丕の作として伝えられるが、現存するものには後人の作品が混入しており、成立の経緯は不明。
『捜神記』晋の干宝作。
『捜神後記』晋の陶淵明作。「桃花源記」が含まれる。
『述異記』斉の祖冲之作。同題の任昉作の書は地理書的作品。
『異苑』宋の劉敬叔作。劉は江蘇省銅山の人で、東晋の劉毅、劉裕に仕えた。
『漢武故事』作者不詳。班固の作として伝えられて来たが、六朝の作品と見られる志人小説。
『聊斎志異』清の蒲松齢作。

等々と挙げられるが,たとえば,

『捜神記』の『むじな』や『ろくろ首』は,小泉八雲『怪談』の原典

となっていると言われるし,『剪燈新話』の『牡丹燈記』は,

三遊亭円朝の『怪談牡丹燈籠』

の元になっており,上田秋成は『剪燈新話』の構成を借りて,

『雨月物語』の『吉備津の釜』

を著している,という。すでに,江戸時代(寛文年間1660年代)には,

『伽婢子(おとぎぼうこ)』
『狗張子(いぬはりこ)』

が,志怪小説の翻案として,出されている。そもそも,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/432692200.html

で触れたように,

「市中の出来事や話題を記録したもの。稗史(はいし)」

で,稗史は,

「昔、中国で稗官(はいかん)が民間から集めて記録した小説風の歴史書。また、正史に対して、民間の歴史書。転じて、作り物語。転じて,広く,小説。」

を言う。語源を見ると,こうある。

「中国の『稗史』からでたものです。『小(とるに足りぬ)+説(議論)』が語源です。市井の出来事や話題を,書き記したものです。」

日本語では,

物語
咄(囃)

があり,両者の違いは,近世の俳人高田幸佐によると,

「首を斬られた盗人が自分の首を懐に入れて逃げ去った話」

は,「世に噂にもまことしからぬ儀」は,「咄とこそいうなれ」と定義する。他方,

「朱雀院の御宇に起きた平将門の乱の折,将門の獄門首が歯がみをなして声をあげた怪異談」

は,「出書正しき物語」の典型としている。堤邦彦氏は,

「ここにいう『物語』とは,史実と認められる出来事や,原拠の明らかな故事をもとに創り出された話」

を指す。従って,

「それらは時・人・所を明示しえる内容でなければならない」

ということになる。逆に言うと,それを明示して見せることで,「噂」ではないかのごとく見せることができる。

本書の過半は,著者の田中貢太郎が,

物語風,

に,つまり,

時・人・所を明示しえる内容,

に仕立てたものになっているが,正直のところ,全体の一割程度だが,中国由来の作品が,圧倒的に,奥行,スケールともに面白い。中国の「小説」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/444432230.html?1480364327

で触れた,

岡本綺堂『中国怪奇小説集』

に詳しいが,多くは,それとは重ならない。自分の好みでいえば,神をたばかって,寿命を延ばそうとした,

「北斗と南斗星」

「沒くなっ て二十三年も経った」女性と「交往」した男の,

「黄金の枕」

岩見重太郎の狒々の元ネタになったらしい,

「殺神記」

美女を盗んで囲う大猿の話,

「美女を盗む鬼神」

等々,面白い話がいっぱいである。それに引き換え,日本のものはスケールが小さく,

怨み,
だの,
遺恨,
だの
怨恨

といったものに起因するものが多くて,因果を辿りたくて仕方がないらしい。その中では,暴漢を智慧で驚かせた,

「女の怪異」

得体の知れない怪僧の不気味さが残る,

「竈の中の顔」

理不尽な為政者の犠牲の,

「八人みさきの話」

はおもしろい。どうも,

うらみ,
つらみ,

という個人の我執の怪異は,いただけない。

参考文献;
田中貢太郎『怪談百物語』(Kindle版)
堤邦彦『江戸の怪異譚―地下水脈の系譜』(ぺりかん社)


ホームページ;
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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:27| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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