2016年12月24日
東
「東」は,『広辞苑』には,
「ヒムカシの転,ヒンガシの約」
とある。手元の『語源辞典』には,
「日+向カ+シ(風の方向)」
とあり,つまり,
日の出る方向,
であり,
日向処,
日向風,
という意味とある。『古語辞典』も,「ひむがし」の項で,
「日向(むか)しの意。シは風の意から転じて方角を示す語。上代ではヒムカシと清音。平安時代にヒムガシ,鎌倉時代以後ヒンガシからヒガシにと音が変化した。」
とある。『大言海』も,「ひむかし」の項で,
「日向風(ヒムカシ)の義にて,風の名を本とするかと云ふ。シは風なり。あらし,つむじ,の如し。天孫人種の西より東へ遷移せし語に出づるなるべしと云ふ。琉球にて北をニシと云ふも,亦天孫民族の南進したるに因るなるべし。約めて,ヒガシと云ふ。」
とする。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/hi/higashi.html
は,整理して,
「東は、『ひんがし』の音変化した語。『ひんがし』は『ひむかし』が転じた語で、『ひむかし』『ひむがし』『ひんがし』と音変化して、『ひがし』となった。『ひむかし』は太陽が登る方角を意味する『日向処(日向かし)』が語源とも言われるが、『し』は『あらし(嵐)』の『し』など『風』を意味する言葉で、『日向風』の意味とする説が有力である。漢字の『東』は『木+日』の会意文字で、木の間か日が出る様子を表しているといわれていたか、現在では誤りとされ、漢字『東』の正しい由来は、中心に棒を通し、両端を縛った袋を描いた象形文字となっている。」
しかし,『日本語の語源』は,
「ヒムカフルチ(日迎ふる方)は,フルを脱落して,ヒムカチ・ヒムカシ・ヒンガシ(東)・ヒガシ(東)に転音した。」
だから逆に,「西」は,
「ヒイヌルチ(日往ぬる方)は,ヌチに省略され,ヌシ・ニシ(西)に転音した。沖縄では『日入り』の省略形のイリ(西)である。」
とする。
日が向かう,
のと
日を迎える,
とで,どちらが実態に近いか,というと,
迎える,
方ではあるまいか。「シ」が「風」として,元々は,
日向風,
というのは,どうもこじつけっぽくないか。常識的に考えて,
日に向かう風,
を,方角の,
東,
に転じるというよりは,はじめから,
日の出るのを迎える,
の方が自然な気がする。漢字の「東」は,『語源由来辞典』が言う通りである。
「象形文字。中にしん棒を通し,両端を縛った袋の形を描いたもの。『木+日』の会意文字という旧説は誤り。囊(ノウ 袋)の上部と同じ。太陽が地平線をとおしてつきぬけて出る方角。『白虎通』五行篇に,『東方者動方也』とある。」
では,「西」はどうか。
『広辞苑』は,
「『し』は風の意か」
と,「ひがし」の「し」の延長で考えている。『大言海』は,
「日の往(いに)し方の義と云ひ,或は和風(にぎし)の約にて,風を元とする語か(荒風(あらし),旋風(つむじ)の類)とも云ふ。共にいかがか。」
と書く。『語源辞典』は,
「イニ(去ぬの連用形)」+シ」
の,「母音iの脱落によりニシとなった」
とする。いずれも,「シ」を風とする説だが,確かに,「し」は,「複合語になった例だけに見える」ものではある。しかし,
「しな戸の風の天の八重雲を吹き放つ如く」(「祝詞大祓詞」)
や
「ひむか(日向)しの野にかぎろいのたつ見えてかへり見すれば月傾きぬ」(柿本人麻呂)
という例が載っているが,「ひむか(日向)し」を,何も東と置き換えなくても,東向きの風で十分意が通じる。とすれば,「風」語源と考えなければ,
日を迎え,
日が往く,
というのが方角の語源として自然ではあるまいか。
因みに,「あづま」は,『広辞苑』に,
「景行記に,日本武尊が東征の帰途,碓日峯(ういひのみね)から東南を眺めて,妃弟橘姫(おとたちばなひめ)の投身を悲しみ,『あづまはや』と嘆いたという地名起源説話がある。」
という注記があるが,『語源辞典』には,
「ア(明)+ツマ(端)」
で,夜の明ける方向,または地域を指す,とする。『大言海』も,「あづま」の項で,
「アは明(あ)くの語根。明端(あけつま)の意(朝(あした)も明時(あけしとき)),夜の明くる方(かた)の意。」
とある。「あず(づ)ま」が,明ける方角を言うのなら,やはり,「ひむかし」も,風ではなく,方向を最初から示している,と考えるべきではあるまいか。
参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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