2016年12月25日
南
東西については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/445195300.html?1482525355
で触れた。続けて,南北について考えてみたい。
南
は,『語源辞典』には,二説載る。
説1は,「ミ(水・海)+ナミ(南min)+ami」で,海の南方の意,
説2は,「水+並み」で,海上遠く,波が続く意,
である。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/mi/minami.html
は,
「南は、皆の見る方の意味で『みなみ(皆見)』とするものが多く、この説は、南が『みんなみ』とも言うことからであるが、意味としては説得力に欠ける。その他、海の見える方向という意味で『みのみ(海の見)』とする説。『ひなみ(日並)』『まのひ(間の日)』『まひなか (真日中)』など、太陽と結びつけた説。祈り願うことを意味する『なむ・のむ(祈む)』と関連付け、神に祈る方角の意味で『みなむ(神祈む)』とする説などがあるが、語源は未詳。
漢字の『南』の原字は、納屋を描いた象形文字で、草木を暖かい納屋に入れて栽培するさまを表したところから、『囲まれて暖かい』という意味を示した。転じて、『暖気を取り込む方角(南方)』の意味となった。」
とする。『大言海』は,
「日光明らかなる意と云ふ。北は暗黒(きたなし)の意ならむ。易経説卦『離也者明也。万物皆相見。南方之卦也』。北方ヲ玄武と云ふ。黒亀ノ義。冬を玄冬と云ふも,色に配すれば北は黒なり。倭名抄16塩梅類「呼黒塩,為堅塩。堅塩,木多師」。神代紀上「黒心(キタナキココロ)」とも見えたり。後撰集13恋5「人はかる心の隈はきたなくて、清き渚をいかで過ぎけん」ともあり。又、太平洋を満波(ミナミ)、日本海を波黒しと云ふ説もあり。」
とある。
http://tatage21.hatenadiary.jp/entry/2016/02/17/223010
によると,『日本語源大辞典』には,語源説は,
❶ミナミ(皆見)の義〈和句解・日本釈名・志不可起(しぶがき)・国語蟹心鈔(かいしんしょう)・類聚名物考・和訓集説・名言通・和訓栞・紫門和語類集・大言海・語理語源=寺西五郎〉。
❷ミノミの義。ミノミは海の見える方の意〈東雅〉。海ヲ見ルの転。また上ノミハ見ユルの略〈蒼梧随筆(そうごずいひつ)〉。
❸ミノミ(水之実)の義。水の中心の意〈国語の語根とその分類=大島正健〉。
❹マヒナカ(真日中)メリの反〈名語記〉。
❺マノヒ(間日)の義〈言元梯〉。
❻ヒナミ(日並)の義。ヒとミは通ず〈和語私臆鈔〉。
❼メノモの義で、メ(目)の方、モ(面)の方の意〈神代史の新研究=白鳥庫吉〉。」
等々あり,
メノモの義で、メ(目)の方、モ(面)の方の意
とする白鳥説を,更に詳しく,
「四方の名は、前後左右および日の位置で定める。三韓時代には南を aripi といった。16世紀頃には南、前を alp 、後を tui 、現代は前を ap という。モーコ語でキタを khoito というは『後方』の義だから、国語キタ(北)はカタ(肩)の意だが、ミナミ(南)は、モノモ(面の方)またはメノモ(目の方)の意だろう。国語や朝鮮語で方をモというは、オスチャク語で角(スミ)を mur というに当るだろう。漢字『顔』のヴェトナム音は nham だから、これからも、ミナミは『顔(面、目)の方』の意と知れる。もしそうでなければ『日の方』の意で、日を意味する次の語と関係あるか、と。チベット語、マニャク語 nyima 、シェルパ語 nimo 、マガル語 nam-khan、リムブ語、キランティ語、ロドン語、ヤクハ語、グルンギァ語、ロホロン語、バラリ語、ドュミ語、クハリン語 nam 、トフルンギァ語 nem 、チェパン語 nyam 、ヴァユ語 nomo 、numa 、ブフタニ語 nyim など(主なもの以外は略した)。なお南の字を広東やヴェトナム(越南)で nam と読むが、これがミナミのナミで、ミは方向の意(安田徳太郎氏)とか、面(ミン)の意(松村任三氏)とかともいう。台湾の高砂族は南を min-amis という(坪井九馬三氏)。モーコ語では南、前方、胸を emüne という。」
と紹介する。南は,「モノモ(面の方)またはメノモ(目の方)の意」「日の方」とするのにこれだけ贅言を費やしている。しかし,『日本語の語源』は,
「大和あたりでサムキカタ(寒き方)といったのが,キタ(北)に省略され,環海の南方をミナウミ(皆海)といったのが,『ウ』を落としてミナミ(南)になった。」
とあっさり言い切る。しかし,北が,
寒き方,
なら,南は,同じ感覚で,
日の方,
だし,北が,
きたなし,
なら,南は,
まひなか(真日中),
でなくては,合わない。片方が海を指し,他方が,きたなし,では感覚的に合致しない気がする(『古語辞典』は「キタはキタナシ(堅塩)・キタ(北)と同根」とする)。
金思燁の説が,上記白鳥説と並んで載っているが,
「『南』の朝鮮語は『ま』(ma)である。(中略)『ま』(南)は『向かい』の語の『マゾ』(ma-co)の『マッ』(mas)と同原語である。日本語の『前』(麻幣、ma-fe)を『目(マ)の方(へ)』と解しているようであるが、『ま』は『マ』(南、向)と同原語である。朝鮮の古語の中の原始基本名詞には、かならず下に h を付けるので、『南』も『マヘ』(ma-h)となり、『前』(マヘ)の『ヘ』もこれである。『みなみ』は『み』(山)、『な』(所有格のノ)、『み』(前)の複合語、つまり『山の前方』の意を表わした語と思われる。『北』(キタ)は、朝鮮語『トゥイ』(tuj)(後、北)と対応する。」
この方が,統一が取れていて,説得力がある。語呂合わせのような語源説では,前へ進まない。因みに,「南」の字は,
「原字は,納屋ふうの小屋を描いた象形文字。南の中の形は,入の逆形が二線にさしこんださまで,入れこむ意を含む。それが音符となり,屮(くさのめ)とかこいのしるしを加えたのが南の字。草木を囲いで囲って,暖かい小屋の中に入れこみ,促成栽培をするさまを示し,囲まれて暖かい意,転じて取り囲む南がわを意味する。北中国の家は北に背を向け,南に面するのが原則。」
とある。「北」の字は,
「左と右の両人が,背を向けてそむいたさまを示すもので,背を向けて背く意。また背を向けて逃げる,背を向ける寒い方角(北)などの意を含む。」
とある。
参考文献;
http://tatage21.hatenadiary.jp/entry/2016/02/17/223010
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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