2016年12月27日
敗北
「敗北」は,『広辞苑』によると,
「古くはハイホクとも。『北』は逃げる意」
とあり,
戦いに負けて逃げること,敗走,
転じて,争いに負けること,
という意味だが,「北」の字を見ると,意味がよく分かる。「北」の字は,会意文字で,
「左と右の両人が,背を向けてそむいたさまを示すもので,背を向けてそむく意,また,背を向けて逃げる,背を向ける寒い方角(北)などの意を含む。」
とあり,
にげる,
そむく,
という意味がある。『史記』(管仲伝)に,
「三戦三北,而亡地五百里」
とあるらしい。
「三タビ戦ヒ三タビ北ゲテ,地ヲ亡フコト五百里」
と。『戦国策』(斉策)に,
「食人炊骨、士無反北之心、是孫臏・呉起之兵也」
とある。
「人を食い骨を炊ぎて、士、反北の心無し、是れ孫臏・呉起の兵なり」
と。『語源辞典』には,
「敗(やぶれる)+北(にげる)」
としか載らない。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ha/haiboku.html
には,
「敗北の『北』は、方角を表しているわけではない。『北』は、二人の人が背を向け合っているさまを示した漢字で、『相手に背を向ける』『背を向けて逃げる』の意味があり、『逃げる』の意味もある。そこから、戦いに負けて逃げることを『敗北』というようになり、 単に、争いに負けることも意味するようになった。」
゛,
とある。『大言海』は,
「『資治通鑑』,三,注『人好陽而惡陰,北方幽陰也,故軍敗曰北』北は奔なり」
と注記する。「奔」とは,「はしる」意味だが,
走って逃げる,
という意味である。『論語』(雍也篇)に,
「子曰く,孟之反は伐(ほこら)ず。奔(はし)って殿(でん)たり。将に門に入らんとして,その馬に策(むちう)ちて曰(い)う,敢(あえ)て後(おく)れたるには非(あら)す,馬進まざるなりと。」
とある。
「奔而殿」
「殿」とは,殿軍,つまり殿(しんが)りを務めた。それを誇らず,
「馬が走らなかっただけだ」
と言ってのけた,という逸話である。殿軍の功を,孔子が褒めた,というわけである。
さらに『大言海』は,『北史』唐永傳を引く。
「永善馭下,土人競為之用,在北地四年,與賊數十戦,未嘗敗北」
どうやら,「北」が,「逃げる」意なのは,方角の北から来ているらしい。
北面,
とは,
臣の座位,
である。南面は,
君の座位,
である。だから,「北面」は,
臣として事(つか)ふる義,
となる。「北」には,南に背く,の意が,そこにあるのだろう。
北(きた)する,
は,単に,
北の方へ行く,
という程度の状態表現だったのに,いつか,
逃げる,
と価値表現の意味に転じた,ということだろう。そこには,「北」のもつイメージが付加されているということだろう。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください