2016年12月29日
しっかり
「うっかり」と「ちゃっかり」と対比されるが(『チャッカリ夫人とウッカリ夫人』),「うっかり」に対比されるのは,「しっかり」ではないか,ということで,「うっかり」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/445308521.html?1482868752
で触れた。で,「ちゃっかり」「しっかり」を,続けて考えてみたい。「ちゃっかり」は,実は,『広辞苑』には,
行動に抜け目がなく,はた目にはずうずうしく映るさま,
と載るが,『古語辞典』にも『大言海』にも載らない。『語源辞典』には,
「語源は,『チャッカリ(擬態)』です。チャッキリ,チャントなどと同源です。」
とある。確かに擬態語として,
チャッカリ,
は載るが,「ちゃっきり」「ちゃっと」は,
素早く,簡単に,
の意であり,『大言海』は,「ちゃっと」は,
て(ちょ)うどの転,
とある。「てうど」の項をみると,
丁度,
の意とある。『擬音語・擬態語辞典』の「ちゃん」を見ると,
三味線を弾く時に出る音,
さまざまな状況のもとで,,それにもっともふさわしい行動をとる様子,
まっとうで恥ずかしくない様子,
そのことの成立することが確実で疑いようのない様子,
とある意味と重なる。しかし,ここからは,「ちゃっかり」の,
抜け目のなさ,
は出てこない。ここから少し飛躍した億説になるが,「臍で茶を沸かす」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/441330515.html
や,「茶々を入れる」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/440686901.html
で触れたように,「ちゃ」には,独特の含意があった。『古語辞典』には,
ちゃり(る)
という動詞が載る。
ふざける,
という意味だが,その名詞は,
滑稽な文句または動作,ふざけた言動,おどけ,
という意味が載る。大言海』は,
「戯(ざれ)の転」
として,
洒落,おどけ口,諧謔,又おどけたる文句,
という意味を載せる。「ちゃ」には,どうも,
ふざける,
含意がつきまとうらしい。「ちゃかす(茶化す)」はその流れにある。この「ちゃ」が,
ちゃっかり,
という言葉の憎めなさにあるような気がしている。「ちゃっかり」を図々しい,と置き換えてしまうと,
「案外ちゃっかりしている」
というときの,憎めない側面が消えてしまうのではないか。
一方,「しっかり」は,『広辞苑』では,
確り,
聢り,
という字を当て,
堅固でゆるぎないさま,
気力が充実していたり精神活動が健全で逢ったりするさま,
量が多いさま,
十分に,また確実に物事を行うさま,
と意味が載る。『大言海』は,
「シッカは,聢(しか)の延」
と載る。『語源辞典』には,
「シカとの語根シカが,音韻変化で,シッ+カ+リ,となった」
と,分解してみせる。『擬音語・擬態語辞典』には,
「『しっかり』の最古の語形は,奈良時代の「しかとあらぬひげ(多くはない髭)」(『万葉集』)に見られる。これは現代でも,『しかと聞く』『しかと見分ける』などのように使われる。この『しかと』の強調形が『しっかと』で,室町時代に,『(扇の)かなめしっかとして』(狂言『末広がり』)という例がある。それが江戸時代になり,『しっかりとした商人のひとりむすこ』(洒落本『辰巳婦言』)のように,『しっかり』の例が出てくる。つまり,『しっかり』は,『しかと→しっかと→しっかり』の順に変化した。」
とある。これで尽きているように思うが,しかし,『日本語の語源』は,「しっかり」は,「悉皆」の変化だとするのである。
「シッカイ(悉皆)は『すっかり。みな。ことごとく。全部』という意味の漢語である。〈悉皆記識し,露布(公布文)を作らしむ〉(北史・楊大眼伝)。仏教の経典に多用されており,仏教用語としてるふされていた言葉である〈草木国土,悉皆成仏〉(涅槃経)。
シッカイ(悉皆)は語尾に子音[r]が添付されてシッカリになり,語頭の『シ』の母音交替[iu]でスッカリになった。さらに多くの語形に転音・転義したので,最初にそれを整理しておくと,(1)全部(すっかり)。(2)完全(すっかり)。(3)確実(しっかり)。(4)多数・大量(しっかり)。(5)大変(しっかり)に分類される。」
として,「しっかり」については,
「近世語や方言では(3)(4)(5)の語義を伝えている。〈草双紙が出るたびに買ひますがつづらにシッカリ溜まりました〉(浮世風呂)。山形・福島・出雲崎・関東・山梨・静岡・八丈・四国では『シッカリ貰った』『シッカリ食べなさい』という。これらは(4)の語義を伝えているが,(5)の意味を伝えて,愛知県北設楽郡・四国・大分県玖珂郡では『シッカリ働く』『シッカリ美しい』という。
標準語としては(3)の語義を伝えて『この土台はシッカリしている』『都市のわりにはシッカリしている』『シッカリモノ(確り者)』という。(以下略)」
と述べる。これでいくと,
シッカイ→シッカリ→スッカリ→
と転じたことになるが,さらに,これは,変化がつづき,
「そっくり」「すっきり」「すっぱり」「すっぽり」「さっぱり」
等々と転じていくことになる,とする。この転換はここでは省く。しかし,
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q127322777
でも,「しっかり」を「悉皆」の転として,こう述べているのが強力な傍証かもしれない。
「『しっかり』の語源は金沢の加賀友禅。真っ白な反物が着物に仕上がるまで38もの工程があり、それぞれで完結な職人さん達の間を取り持ち、調和を作り出す仕事が 『悉皆(しっかい)屋さん』と呼ばれている。問屋から注文を受け、作家、地染め屋などを巡り、着物のイメージから実際の地色などの相談に乗り、汚れや傷がないかもチェックし、
最終的に責任をもって問屋に届けるという…プロデューサー、ディレクター、営業マン、それでいて芸術家でもある…すべてを兼ね備えていないと出来ない仕事で、そんな『しっかいやさん』が現在の金沢でも『しっかりの語源』と言われています。」
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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