2016年12月30日
マーケティング
ウィリアム・A・コーエン『ピーター・ドラッカー-マーケターの罪と罰』を読む。
本書の原題は,
Drucker on Marketing
である。序文で,コトラーが,
「ピーター・ドラッカーは現代経営学の父として広く認められている。世間には時折,不用意にも私のことを現代マーケティングの父と呼ぶ人がいる。もしそうだとすれば,ドラッカーは現代マーケティングの祖父と称されるべきだろう。」
と述べている。本書は,そのドラッカーのマーケティングに関する考察を集めたものだ。コトラーは,
「ピーターはマーケティングに関する系統だった論文を書いていないが,顧客第一主義の企業の目的や,利益とリーダーシップの役割,イノベーションと企業家精神の決定的な重要性などについて論じる時,彼の念頭にはマーケティングがあったのだ。」
という。ドラッカーは経営トップに質問を投げかけた。例えば,
われわれのビジネスとは何か?
われわれの顧客は誰か?
顧客は何を価値と見なしているか?
われわれの事業は何であるべきなのか?
等々。ジャック・ウェルチは,GE史上最も若いCEOに就任した時,ドラッカーに二つの質問を投げかけられた。
「もしGEにある既にある特定の事業を手がけていなかったとしたら,今,その事業に進出するか?」
「もしその答がノーであれば,どうするのか?」
それを受けて,
「利益は出ているが業績が標準に及ばない事業の廃止を決断した。この経営判断がGEをスリム化させて,成功に導いた。ウェルチは当該市場で首位または2位でない事業は売却ないし清算することを命じた。」
これが,GEの市場価値を就任時の120億ドルから25倍以上にしていく成長の端緒となった。ドラッカーは,
企業の目的は,顧客の創造,
とする。なぜなら。
「顧客は企業の基盤であり,顧客が企業を存続させている。顧客のみが雇用を生み出してくれる。顧客の欲求と要求を満たすために,社会は企業に富を想像する資源を委ねている。」
と。である以上,企業の基本的な機能は,
マーケティング,
と
イノベーション,
の2つしなない,と言った。
「マーケティングとイノベーションは成果を生み出す。その他すべてはコストだ」
と。そして,著者は,こう付け加える。
「販売とマーケティングはほぼ同義だと考えているなら,間違っている。なぜなら,答えの一部しか得ていないからだ。ドラッカーは,販売とマーケティングが別物だということだけでなく,優れた販売は実は優れたマーケティングと対立し得るということを知っていた。
なぜそうなるのか。その答を理解するためには,販売は自分が既に持っているモノを見込み客に買うように説得することと関係しているという事実を思い出す必要がある。これに対して,マーケティングとは,すなわち,潜在顧客が求めているモノを既に持っていることだ。別の商品ならば格段に少ない努力でもっと大量に売れる時に,採算ぎりぎりの商品を売るために販売員を動かすことは,マーケティングと敵対する。」
だから,われわれにはマーケティングは機能と見がちだが,ドラッカーは,
基本的なコミットメント,
として,あるいは,
大きなものの見方,
として捉えていた。だから,こういう問いがなされる(「経営者に贈る五つの質問」)。
①我々のミッションは何か?
②我々の顧客は誰か?
③顧客にとっての価値は何か?
④我々の成果とは何か?
⑤我々の計画は何か?
全てマーケティングに関わる。ドラッカーは皮肉を込めてこう書く。
「もう10年にわたって『マーケティング観』が広く喧伝されてきた。『トータル・マーケティング・アプローチ』という派手な名称を得るまでに至った。この名前で通っているすべてのものが,その名にふさわしいとは限らない。『マーケティング』は流行語になった。しかし,たとえ『葬儀屋』と呼ばれても,墓掘りが墓掘りであることに変わりはなく,埋葬費が高くなるだけだ。多くの営業部長の役職が『マーケティング担当バイスプレジデント』と改名されたが,結局は経費と給与が増えただけだった。」(1964)
だからこそ,
リーダーシップの本質とはマーケティングである,
というドラッカーの視点でみると,上記の五つの質問の意味が新たになるはずである。そして,
マーケティングを組織のすべての階層に浸透させる,
マーケティングと販売の違いを理解する,
教育して指導する,
顧客の観点からビジネスに取り組む,
という,ドラッカーの4つの指示から鑑みるなら,
リーダーシップの本質とはマーケティングである,
は,
マーケティングとはリーダーシップである,
とも言い換えることができる。著者は書く。
「リーダーシップはマーケティングであるというドラッカーの前提を受け入れたら,同じようにマーケティングはリーダーシップだということが事実であることは,驚くにあたらない。」
顧客第一主義とは,スローガンではない。例えば品質も,そうである。
「ドラッカーは,…製品・サービスの品質は,サプライヤーが盛り込んだものではない…。ドラッカーいわく,品質とは,買い手がその製品・サービスから得るものであり,それにお金を払ってもいいと考えるものだという。顧客は自分たちが使えるもの,自分たちに価値を与えてくれるものにだけお金を出すのだ。
ここで『自分たち』というところを強調しておきたい。価値というものは,サプライヤーが考えているものではなく,顧客が考えるものだ。そして品質は価値の一部だ。このため,買い手が同じように定義しないのであれば,売り手が勝手に品質だと考えているものを築くのにお金や時間や労力を注ぎ込むのは愚かなことだ。
さらに言えば,顧客が望むもの,あるいは,望ましいものとして評価しているものでなければ,製品の耐久性やサービスのスピードをマーケターが喧伝するのも同じくらい愚かなことだ。」
こう見ると,まだドラッカーは,まだまだ時代の先にいるようである。
参考文献;
ウィリアム・A・コーエン『ピーター・ドラッカー マーケターの罪と罰』(日経BP社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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