「根」は,『広辞苑』『古語辞典』ともに,「ね」について,
「ナ(大地)の転。大地にしっかり食い込んでいるものの意。」
とする。いわゆる「木の根」の意味の他に,
立ち,または生えている物が他のものに付く部分。もと,ねもと,例えば「歯の根」,
地の中,地下,例えば「根の国」,
物事の基礎・土台。根本,例えば,「舌の根」,
事のおこるもと,物事の元をなす部分,たとえば,「悪の根」,
海底などの岩礁のあるところ,例えば,「根掛かり」,
腫物の下の固い部分,例えば,「おできの根」,
心の底, 例えば,「心根」,
人の本性,生まれつき,例えば,「根はやさしい」,
名詞の下に添えて,地にはえている意を表す語,例えば,「垣根」,
等々の意味がある(『広辞苑』等々)が,いわば,「根っこ」という意味のメタファとして,さまざまに外延を広げている,ということになる。中には,今は消えた,
髻(もとどり),
の意味でも,「根」を使ってたようである(『大言海』)。『江戸語大辞典』では,「根」で,
髷の根,髻の俗称,
が最初に来る。時代である。そんなことで,「根」に係る,
根に持つ,
根も葉もない,
根を下ろす,
根を差す,
根を生やす,
根を張る,
等々と,意味を広げた言い回しは沢山ある。
これは,漢字「根」も同じらしく,「根」の意味から,
「転じて,物の下部,つけね」
と広がったようである。漢字「根」は,
「艮(こん)は『目+匕(ナイフ,小刀)』での会意文字で,小刀で目の周りにいつまでも取れない入墨をすること。あるいは,視線を小刀で突き刺すようにひと所にとめることをあらわす。目の穴のように,一定のところにとまってとれない,の意を含む。眼(目の玉の入る穴)の原字。根は『木+音符艮』で,とまって抜けない木のね。」
で,
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A0%B9
によると,
植物の一部分で、地中で養分や水分を吸収する部分→球根、根冠、大根、根元
ものごとの始まり、源→息の根、根源
拠り所→根拠、根城、無根、屋根
根絶やしにする→根絶
物事に耐え抜く力→根気、根性、精根
等々と,意味を広げている。ただ,中国語では,
六根,
と,
目・耳・鼻・舌・身・意,
知覚を生ずる元,という意味まで広げている,例の,
六根清浄,
の六根である。ただし,「根」は,漢音・呉音とも,「コン」と訓むが,
平方根,
の「根」,
根気,
の(気力の意味の)「根」は,我が国だけの使い方のようである。ところで,『老子』に,
谷神(こくしん),死せず,
是を玄牝(げんぴん)と謂う。
玄牝の門,
是を天地の根(こん)と謂う。
綿々として存するが若(ごと)く,
是を用いて勤(つかれ)ず。
ここで「根」は,
「『天地の根』の『根』は,男根・女根の『根』と同義で性器をいう。ここは,道が天地万物を産み出す生命の根源であることを女性の性器の生殖力になぞらえていったのである。」
と。「根」のもつ根元,物事の根元,という意味で,
国産み神話,
を思い起こす。『古事記』には,
「ここにその妹、伊耶那美命(いざなみのみこと)に問ひたまひしく、『汝(な)が身はいかに成れる』と問ひたまへば、答へたまはく、『吾(わ)が身は成り成りて、成り合はぬところ一處あり』とまをしたまひき。ここに伊耶那岐命(いざなぎのみこと)詔(の)りたまひしく、『我が身は成り成りて、成り餘れるところ一處あり。故(かれ)この吾が身の成り餘れる處を、汝が身の成り合はぬ處に刺し塞(ふた)ぎて、國土(くに)生み成さむと思ほすはいかに』とのりたまへば、伊耶那美命答へたまはく、『しか善けむ』とまをしたまひき。」
とある。「根」である。
参考文献;
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A0%B9
福永光司訳注『老子』(朝日文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
ラベル:根