わくわく


「わくわく」は,

ワクワク,

とも表記する擬音語あるいは擬態語である,と思われる。『広辞苑』には,

「期待・喜びなどで心がはずみ,興奮気味で落ち着かないさま。」

とある。これが今日の我々の語感に近い。『語源辞典』にも,

「『擬態語ワクワクです』。興奮して心が落ち着かず,胸が躍る状態表現を表す副詞です。」

とある。しかし,『大言海』は,

「悶えて心の落ち着かざる状,」心の動揺する状に云ふ語」

と,若干ニュアンスが異なる。用例に,

「疾しや遅しの道すがら,心わくわく急きかくる,跋提河にぞ着き給ふ」(元禄,近松門左衛門『釈迦如来誕生会』)

を挙げる。さらに,『江戸語大辞典』となると,

「おそれや口惜しさなどのために,わなわなと震えるような気持であること」

と更に乖離する。用例に,

「考へれば 考へる程,口惜(くや)しくって焦れッたくつて,ほんに何(ど)うしたら宜(よ)からふと,気持ちがわくわくしてくるよ」(天保十年『娘太平記』)

とある。つまり,江戸時代までは,どちらかというと,喜びよりは,

不安や苛立ち,
口惜しさ,

の意味の「わくわく」で,同じく興奮でも,動揺の意味だったらしいのである。

『擬音語・擬態語辞典』を見ると,

「期待や喜びのために,心が落ち着かない様子。」

とした上で,江戸時代の,

「あまりのうれしさに気がわくわくしてあゆみにくい」(洒落本『契情買虎之巻(けいせいかいのとらのまき)』)

を挙げて,

「現代ではプラスの意味で使われることが多いが,不安などで心が落ち着かない様子や胸騒ぎがする様子などのマイナスの意味を表すこともある。」

として,有島武郎の『生まれ出づる悩み』から,

「心が唯わくわくと感傷的になりまさるばかりで,急いで動かすべき手は却って萎えてしまう。」

を載せる。どうやら,マイナスの表現はいつの間にか消えてしまったものらしい。そして,語源として,

「中から外へ激しく動いて現れる意を表す『湧く(沸く)』から作り出された語だろう。江戸時代には『わくわくする』の意で,『わくつく』という語もあった。」

として,

「ふっと見た時から胸はわくつけど」(『契情買虎之巻』)

を載せる(『江戸語大辞典』に「わくつく」は載らない)。この語源説は,

http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%82%AF

でも,

「ワクワクの語源は『沸く(わく)』という単語と推測されていて、現在も『心が沸く』『興味がわく』のように使われている。」

としているので,「わく」の語源を調べておくと,『語源辞典』は,

「『ワ(曲)+ク』です。曲流地で,ミナワ(水泡)が上がってくるのが語源です。転じて,湧き水がわく(湧く),湯がわく(沸く)。」

とし,『大言海』も,

「曲(ワ)となりて上がる意か」

とする。

『語源由来辞典』も,

http://gogen-allguide.com/wa/wakuwaku.html

同じく,

「ワクワクは、水などが地中から出てくるさまや、物事が急に現れるさまを意味する『沸く( わく)』から生まれた言葉と考えられる。 『沸く』は、『興味が沸く』など感情などが生じる際にも使われ、心の中から外へ激しく現れる感情やその様子を『ワクワク』と表現したものであろう。江戸時代は,『わくつく』という語があり、『ワクワクする』という意味で使われていた。」

としつつ,「わくわく」について,

「中国の東(東シナ海)には『ワクワク島』という島があり、『ワクワクの木』という樹木のアラビア伝説がある。
 『ワクワク島』は、その位置から日本とする説もあるが不明。
 ワクワクの木とは、春になると椰子や無花果の実に似た実がなり、その実から若い娘の足が生え、初夏になると可愛らしい女の子が髪の毛でぶら下がり、熟しきると『ワクワク』と悲しげな叫び声をあげながら枝から落ちて死んでしまうというもの。このワクワクの木は、所幸則の写真集など芸術の世界でも題材として扱われている。」

と解説する。「ワクワク」について,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%82%AF

で,

「ワクワク (アラビア語: الواق واق‎, 英語: al-Wāqwāq) は、中世アラブ世界で、東方の彼方にあると考えられていた土地である。ワクワク島、ワクワクの国、ワークワーク、ワクワーク、ワーク、ワクなどとも呼ばれる。日本の古名倭国(わこく)に由来するとする説がある。」

として,

わくわく.jpg


(イドリースィーによる1154年の世界地図(南が上、東が左)。地図の東(左)端、アフリカ南部から東に延びる陸地の先端に الواق واق(アル=ワークワーク al-Wāqwāq)と書かれている。)


「アラビア語およびペルシア語の地理書では、『ワークワーク』( الواق واق al-Wāqwāq )ないし『ワクワーク』( الوق واق al-Waqwāq)と呼ばれる地域がたびたび言及されている。
ワクワクに関する現存最古の文献は、9世紀半ばに著されたイブン・フルダーズベのアラビア語最古の地誌『諸道と諸国の書』(Kitāb al-Masālik wa al-mamālik 『諸道諸国誌』とも、Book of Roads and Kingdoms)、およびイスタフリー( Estakhri )の同名の地理書『諸道と諸国の書』(Kitāb al-Masālik wa al-mamālik)である。
それによると、ワクワクはスィーン(al-Ṣīn、支那 = 中国)の東方にある。黄金に富み、犬の鎖や猿の首輪、衣服まで黄金でできている。また黒檀(実際はインド原産)を産し、黄金と黒檀を輸出している。さらに、シーラ (Shīlā) という国がカーンスー(Qānṣū、杭州か揚州)の沖にあり、やはり黄金に富むという。」

という。やはり,何やら「ジパング」を思わせる。これは,「わくわく」という言葉とは別系統の話ではあるが。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%82%AF

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