2017年01月16日
みにくい
「みにくい」は,
醜い,
と当てるのと,
見難い,
と当てるのと,例えば,『広辞苑』では,別項になっている。「醜い」は,また,『広辞苑』では,
見憎い,
とも当てている。「醜い(見憎い)」は,
見て嫌な感じがする,見苦しい,
容貌が悪い,見目がよくない,
という意味であり,「見難い」は,
見分けるのに骨が折れる,あきらかには見えにくい,
という意味だ。つまり,字の如く,
見るのが難い,
という意味になる。「にくい」は,
憎い,
難い,
悪い,
と,当てるので,
見難い,
と,
見憎い,
は,重なるのではないか,という気がする。『大言海』は,
見悪い,
と当てる。そして,
目で見て嫌はし,容貌(みめ)悪し,
と並んで,
見分け難し,見るに容易ならず,明らかにミルを得ず,
の意味も載せる。『古語辞典』は,
「ミ(見)ニクシ(憎)の意。見る気持ちが妨げられる意。容姿・容貌について言う」
とある。『語源辞典』には,
「『見+ニクイ(難しい)』です。見るのが辛くて難しい」
とある。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/mi/minikui.html
は,
「醜いは『見憎い』とも書くように、語構成は『み(見)』+『にくし(憎し)』で、『見る気持ちがしない』『見るのが嫌だ』という意味。 そこから、そのような感情になるような相手の状態についてもいうようになり、容貌がよくないという意味も表すように なった。」
とある。「にくし」は,
憎し,
とも,
悪し,
とも,
難し,
とも当てる。「にくし」は,
「動詞連用形について,『むずかしい』『たやすくない』の意を表す。」
とある(『広辞苑』)。
~するのがすらすらいかない,~しずらい,
という意味である(『古語辞典』)。「にくし」に当てる,
難し,
は,「がたし」とも訓む。やはり動詞連用形について,
~する必要があっても,なかなかできない,
~したくても難しい,
という意味で,「にくし」とほぼ重なる。この「憎(にく)し」は,「憎し」
憎らしい,
癪に障る,
の意味から転じた。「憎い」という感情表現から,なかなかうまく捗らない,という「状態表現」に転化された,と見ることができる。「難(にく)し」は,「かた(堅・硬・固)し」の,
「カタ(型)と同根。物の形がきちんとして動かず,緩みなく,すきまない意。転じて入り込む余地がなく,事のなし難い意」
と,こちらは,
固い,
しっかりしている,
という状態表現から,それに戸惑う感情(価値)表現へと転じたということになる。いずれも,
見るのがむつかしい,
という意だ。それは,『古語辞典』の,
「ミ(見)ニクシ(憎)の意。見る気持ちが妨げられる意。容姿・容貌について言う」
がもともとだったのではないか。つまり,
(相手を)見る気持ちが妨げられる,
という心情表現,だったものが,
(相手が)醜い,
という価値表現へと転じ,他方,
みるのがむつかしい,
という一般的な状態表現に転じた。とみると,「醜い」の語源を,
見憎い,
見難い,
とだけ見るのは,正確ではない。「醜い」の逆は,
見目好し,
だが,その逆は,
見目悪し,
だから,「醜い」は,どうやら後から当てたものだ。もともと,
見るのを憚る,
といった見る側の心情表現だったのではあるまいか。それが,相手の価値表現へと転じた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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