2017年01月20日

いさぎよい


「いさぎよい」は,

潔い,

と当てるが,

たいそう清い,汚れがない。また,すがすがしい,
潔白である,汚れた行いがない,
未練がない,悪びれない,
小気味よい,

という意味が載る(『広辞苑』)。どうやら,まずは,

事物・風景などが清らかである,

といった状態表現から,その清さ,汚れがないをメタファとして,

潔白である,

という人の振る舞い,大度の状態表現に転じ,さらに,その状態を,

未練がましくない,

と価値判断する価値表現へと転じたと,見ることができる。

潔しとせず,

という使い方は,

自分の誇りや良心が許さない(『大辞林』),
自分が関わる事柄について、みずからの信念に照らして許すことができない(『デジタル大辞泉』),
自分の良心や誇りから,受け入れにくい(『広辞苑』),

と,価値表現を前提にしている。語源は諸説あり,

イタキヨシ(甚清)の音転か(『大言海』),
イサミキヨシ(勇清)の義(『名言通』),
イ・サキヨシ(真清)の義(『日本語源』),
イサは発言,キヨシはキヨシ(吉)の義(『古語類韻』),
イヤキヨシ(弥清)から(『言元梯』),
アサキヨシ(朝清)の上にイサを添えたもの。イサは勇の義から転じて,語勢を強め純の義をしめすもの(『国語の語幹とその分類』),
イサは神聖の意を表すイササの約。イはユ(斎)と同語で,ササは清爽の意(『日本古語大辞典』),

等々。確かに,『大言海』は,

「甚清(イチキヨ)しの音転なるべし(腐(くた)る,くさる。塞(ふた)ぐ,ふさぐ。段(きざ),きだ),

と同様の音転例を挙げる。つまり,

甚だ清し,

という意味だ,というのである。転じて,

志操清々(すがすが)し,腹ぎたなくなし,廉潔,

となり,再度転じて,

卑怯(きたなび)れず,甚だ勇まし,精悍,

と,転意を示す。この意味の転じ方は説得力がある。『日本語の語源』も,

「イタキヨシ(甚清し)はイサギヨシ(潔し)に転音した。」

と同じ語源説をとる。

他方,『古語辞典』には,

「イサは勇ミのイサと同根で,積極果敢なこと。キヨシは汚れがない意。積極的で清浄という男性的感覚が根本の意味。日本書紀の古訓には,『清』『明』『潔』などにイサギヨシとあり,漢文の訓読にも例があるが,平安期の女流文学では普通この語を使わない。」

とある。しかし,

「『清』『明』『潔』などにイサギヨシとあり」

というのなら,あくまで状態表現ではないのか。現に,『古語辞典』自体,意味に,

きれいで澄んでいる,

を第一に載せ,続いて,

潔白である,
気分が清々しい,
思い切りがよい,さっぱりしている,

と,「勇む」語意は出ない。手元の『語源辞典』も,

「『イサ(勇,イサムの語幹,積極性がある意)+清い』が語源です。『潔白ですがすがしい』意です。」

とするが,勇ましさが,どう転じたかが全く見えない。

http://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%84/%E6%BD%94%E3%81%84-%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%8E%E3%82%88%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%AF-%E6%84%8F%E5%91%B3/

も,

「潔いとは、勇ましい、功(いさお)しなど、積極的であるという意味の『いさ』に、きれいである、澄んでいるという意味の『きよい』がついたものであるといわれているように、もとは、風景を前にしたり、人物と接したときの『とても清らかである』『とてもすがすがしい』という気分を言い表した言葉である。現代では主に人の性格について、心が清く正しく、未練がましいところがないという意味で、『武士なら潔く切腹せよ』『言い訳ばかりしていないで潔く罪を認めろ』『この試合で彼らは負けたが、卑怯な手は使わず潔かった』などと用いられる。つまり、あきらめが早い、キレやすい、口べたである、勝負弱い、戦略や戦術に乏しく無計画であるといった性格を言っているのである。」

と,同じ説を唱える。どうも,この説明では,「イサ(勇)」の意味は,元々なかったと言っているようなもので,後世の「潔し」の意味に引きずられた解釈ではないか。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/i/isagiyoi.html

は,意味は,

「潔いとは、思い切りがよい。卑怯なところや未練がましいところがない。 清らかで気持ちが良い。汚れがない。潔白である。日本的な美意識を代表する語。」

とし,語源は,

「潔いは、『いさぎよし』の口語。 潔し(潔い)の『ぎよし(ぎよい)』は、『 きよし(清し)』の連濁。潔いの『いさ』は、程度の甚だしいさまを表す『いた・いと(甚)』、『いさむ(勇む)』の語幹とする説や、『いさ(勇)』の意味から転じて語勢を強めたものなど諸説あり断定はし難いが、古く、『潔い』は心の潔白さだけではなく、自然や風景が澄んでいるさまを表していたことから、『いさ』は『いた・いと(甚)』で『いたきよし(甚清)』の転訛と思われる。
現代では、『責任転嫁をしない』『卑怯なところがなく立派である』といった意味に限定して潔いが使われるが、この意味に限定される上で『いさむ(勇)』の語幹が影響したと考えられる。」

と,調節しているが,無理筋ではないか。「勇む」の語源は,

「『いさ』は『いさな(鯨)』『いさまし(勇)』などの『いき』と同源説」

とし,『大言海』は,

「気進(いきすさ)むの約略なるべし(息噴(いきふ)く,いぶく。憤(いきた)む,息含(いきくた)むの約略),

とするし,手元の『語源辞典』も,

「『イキ(息・気)+スサム(進む)』の音韻変化」

とする。「いさぎよい」の「いさ」と結びつけるには,「潔い」の意味の変化との乖離が大きすぎる。やはり,

甚清(イチキヨ)しの音転なるべし,

が一番説得力がある。この「甚(いと・いた)」については,「ど」について,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/444577656.html?1480795927

で触れた折,触れた。「ど」もまた,

「イト(甚)はト・ド(甚)に省略されて強調の接頭語になった。」

ものであった。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
ラベル:いさぎよい 潔い
【関連する記事】
posted by Toshi at 05:26| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください