2017年01月21日

なさけない


「なさけない(し)」は,

情け無い(し),

と当て,

なさけ心がない,思いやりがない,無情である,
つれない,無愛想である,
無風流である,無骨である,風情がない,
あさましい,あきれるほどである,
なげかわしい,みじめである,同情の余地がない,

という意味が並ぶ(『広辞苑』『デジタル大辞泉』)。どうやら,はじめは,ただ,

情がない,

という状態表現であったものが,

無骨,

という状態表現へと転じ,そのことに価値を加えて,

見るにしのびない,
だの,
あさましい,
だの,
みじめ,

だのという価値表現へと転じた,と見ることができる。語源は,

情け+無し,

だから,「なさけ(情け)」を見る必要がある。「情け」は,

人間としての心,感情,
多を憐れむ心,慈愛,人情,思いやり,
みやび心,風流心,
風情,興趣,
男女の情愛,恋情,恋心,
義理,
情にすがること,

等の意味がある(『広辞苑』)。「義理」まで広がるのは,義理を解する心がある,という意味なのだろうか。義理については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/441727637.html

で触れたが,義理は,中国語由来であり,『語源辞典』には,

「『義(我を美しくする)+理(すじみち)』です。人のふみ行うべき正しい道が本義です。日本語では,当然しなければならないつきあいを言います。」

とある。『大言海』が,

義の理,

とする,

対人関係や社会関係の中で,守るべき道理として意識されたもの,道義(『大辞林』),

だから,それをもたないのは,

人としてどうよ,

ということなのだろう。「情け」は,語源として,

中裂の義(『和訓栞』),
ナカサケ(中心裂)の意か(『大言海』),
ナは歎の義,サケは叫の義(『日本語源』),
ナツサヒケの義,ナツサヒはナツク(懐)の義,ケは気の義(『名言通』),
ナスケ(為助)の義(『言元梯』),
ナはナルル(馴)などのナと同語,サは語調を整える語,ケは気の義(『国語の語幹とその分類』),
ナサム(将為)ケ(気)から(『『語源辞典』),
ナサはナス(作為)と同根で,ケは見た目・様子の意の接尾語ケか(『岩波古語辞典』),

等々とある。要は,日本語は文脈依存だから,その文脈に応じて使われ,しかも音韻変化している。語感や音韻ではなく,元の文脈を探らなくてはならないはずだ。

手許の『語源辞典』は,

「ナス(作・為)+ケ(見た目,接尾語)」

で,心遣いが目に見える意,とする。『古語辞典』も同じで,

「他人に見えるように心づかいするかたち,また,他人から見える,思いやりのある様子の意が原義。従って,表面的で噓を含む場合もあり,血縁の人の間には使わない。ナサはナシ(作為)と同根。ケは見た目・様子の意の接尾語ケに同じであろう。ただし,漢文訓読体では,『情』(真情・内情)にナサケの訓をあてたので,平安女流系の用法と相違がある。」

とする。初め,見えている,

状態表現,

であったという意味では,『大言海』が,

「中心裂(ナカサケ)の意かと云ふ」

としているのは,

こころが裂かれている,

というように見える,という意味で,やはり状態表現というべきかもしれない。しかし,少し無理がある。やはり,

ナサはナシ(作為)+ケは見た目・様子の意の接尾語,

という行為として,それが見える方が自然な気がする。因みに,『世界大百科事典 第2版』に,「なさけ」について,

「他にはたらきかけるあわれみ,思いやりなど,人間としてのあたたかい心づかいをいう。もとは,他人に見えるようなかたちを伴う心づかいをいったので,親子,兄弟,夫婦などの間については用いられなかった。のち,人間らしい思いやりから転じて,みやび,情趣,風流などを理解する洗練された心をいうようになり,さらに風情,趣向などをさすことばとして用いられた。また中世以降,男女が惹かれあう心,恋心をいったり,情事や好色の心をさすことばにもなった。」

とある。やはり「他人に見える」が鍵で,それが,見える,

みやび,情趣,風流,

につながるようである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


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posted by Toshi at 05:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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