2017年01月27日

はにかむ


「はにかむ」は,『広辞苑』には,

歯が不ぞろいにはえる,
歯をむき出す,
はずかしがる,はじらう,

と意味が並ぶ。僕の感覚では,

はずかしがる,

という意味しかないが,どうやら,はじめは,

歯の状態,
あるいは,
口元の状態,

を言い表す表現でしかなかったものが,それ自体から,どうしてそれがそういう意味に転じるのかはわからないが,

はずかしい,

という価値表現に転じたものらしい。『古語辞典』には,

歯が重なって生える,
歯をむく,

の意しか載らない。しかし『江戸語大辞典』には,

恥ずかしがる,
恥らい,しぶる,

の意しか載らない。この間に,価値表現へと転じたということになるのだろうか。語源には,

オモハユキ(面映)の意か(『大言海』),
ハヂカムの転か(『大言海』『国語の語根とその分類』),

があるらしい。『大言海』は,

面映(おもはゆ)き意か,又は恥かむの転か,

と両説を載せる。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ha/hanikamu.html

は,

「はにかむは歯が不揃いにはえることをいった言葉であったが、転じて歯をむき出す意味となった。 歯をむき出した表情は、照れ臭そうに笑っているようにも見えることから、 恥ずかしそうにする仕種を言うようになった。 一説には、『はじかむ(恥かむ)』が変化 したとも言われ、歯をむき出した表情から恥ずかしがる意味に転じた際に『はじかむ』が影響したとも考えられる。」

とする。しかし,

「歯をむき出した表情は、照れ臭そうに笑っているようにも見える」

というのは,よく言われる,われわれの表情のことだとすると,

恥ずかしがるとき,歯をむき出している,

というより,

照れ笑いで,歯がのぞく,

程度なのではないだろうか。手元の『語源辞典』は,

含羞む,

と当てて,

「『歯+に+噛む』です。遠慮がちに恥ずかしがる様子が,歯にものを咬むなので,ハニカムの語が自然発生したようです。」

とする。

「歯をむき出した表情」

よりは,

「歯にものを咬む」

の方が,現実感がある。

「恥づ」は,語源的には,

「端+づ」

で,中央から外れている,末端にいる劣等感,を意味する。『古語辞典』にも,

自分の能力・状態・行為などについて世間並みでないという劣等意識を持つ意,

と注記がある。だから,

(自分の至らなさ,みっともなさを思って)気が引ける,

となるし,逆に,

(相手を眩しく感じて)気後れする,

結果として,

照れくさい,

という意味になる,ようである。この場合,「照れくさい」は,

おもはゆい

で触れた,

面映ゆい,

に近い。「おもはゆい」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/446313400.html?1485375492

で触れたように,

内面の評価,

であるが,

外からの視線によってそう感じている,

という含意があり,外と内との価値表現のギャップそのものを言い表しているように見える。「はにかむ」もそれに近い感じがする。状態として,

「端+づ」

にはないが,そう主観的に感じて,恥ずかしがる,ということだろうか。辞書(『広辞苑』)で,「はにかむ」の意味とする,

恥ずかしい,
恥らう(「恥づる」の転),

とは,少しニュアンスが違うのではないか。「恥じる」とき,事実としての「端+づ」があり,それを恥とする。「はにかむ(「てれくさい」も「おもはゆい」もそういう含意があるが)は,貶められときる(マイナス評価)には使わない。自身の自己評価に比べて高いのを「はにかむ(てれる,おもはゆい)」のである。

「恥」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/424025452.html

で触れたが,「恥」の字は,

「恥」は,「心+耳」で,心が柔らかくいじけること,

という意味らしい。中国語では,

羞(恥じて眩く,顔の合わせがたきなり),
恥(心に恥ずかしく思う),
愧(おのれの見苦しきを人に対して恥ずる。醜の字の気味がある),
辱(はずかしめ,栄の反対。外聞悪しきを言う),
慙(はづると訓むが,はぢとは訓まない。慙愧と用いる。愧と同じ),
忸(忸・怩ともに恥ずる貌),

等々と区別し,

「羞,恥じて心が縮まること,『慙愧』と熟してもちいる。辱も柔らかい意を含み,恥じて気後れすること。忸は,心がいじけてきっぱりとしないこと。慙は,心にじわじわと切り込まれた感じ。」

と,語感の違いを示す。「はづ」に「恥」の字を当てたのには意味がある。「はにかむ」とは,含意を異にするのである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:20| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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