2017年02月05日
ほのか
「ほのか」は,
仄か,
側か,
と当てて,
はっきりと見わけたり,聞きわけたりできないさま,
光・色・香りなどがわずかに感じられるさま,ほんのり,うっすら,
ぼんやりと認識するさま,かすか,
ほんの少し,わずか,ちょっと,
といった意味がある(『広辞苑』)。微かに知覚できる,という状態表現が,五感,認識,意識へと広がり,量や程度が少し,という意味に汎化していったという感じである。
『古語辞典』には,
「光・色・音・様子などが,うっすらとわずかに現れるさま。その背後に,大きな,厚い,濃い確かなものの存在が感じられる場合にいう。類義語カスカは,今にも消え入りそうで,あるかないかのさま」
とある。
『大言海』には,「ほのかに」の項で,
「おほのかにの略。聞くに風,聞見に仄の義」
とある。手元の『語源辞典』には,
「ホノ(ちょっと・少し)+カ(接頭語)」
で,
「実体がありながら,その一部が弱く,薄く,わずかに見える状態」
とある。「おほのかに」は,『古語辞典』には,
おおげさ,大規模,
の意しか載らないが,『大言海』には,「おほのかに」について,
「名義抄に『訥,オオノク,オソシ,ニブシ』(字類抄に『訥,おほめく』)と云ふ動詞あり,オホノクの未然形オホノカを,副詞に用ゐること,オホドクの,オホドカニと用ゐらるるに同じかるべし」
として,「オホドカニに同じ」とある。「おほどかに」を見ると,
「オホドクの未然形オホドカを,副詞にしたる語,オホノク,オホノカニ。さはやぐ,さはやかに,やはらぐ,やはらかに」
として,
「人の性の,寛(ゆるやか)に静なる状に云ふ語」
とある。しかし,意味が違いすぎないだろうか。ここから,「ほのか」の意に転ずる梯子がない。
別に,『古語辞典』には載らないが,『大言海』の「ほのかに」の前に,
「ほの」
という項があり,
「仄かに,幽かに」
の意味が載り,『万葉集』の,
「な立ちそと,いさむるをとめ,髣髴(ほの)ききて,我にぞきたる」
や,『源氏物語』の,
「火はホノ暗に見給へば」
「をちかへり,えぞ忍ばれぬ,ほととぎす,ホノカたらひし,やどの垣根に」
「なをしたには,ホノすきたるすぢの心を」
等々の用例を引く。語源説には,『大言海』の,
オホノカの略,
という以外に,
オホロカ(不明所)の義(『言元梯』),
ホノカ(火香)の義(『和訓栞』『柴門和語類集』),
ヒノコリアエケ(火残肖気)の義,またホニホヒヤカ(火匂肖気)の義(『日本語原学』),
ホノホ(炎)を活用したもの(『俚諺集覧』),
ホノカ(火影)の義(『和語私臆鈔』),
ホドロとも関わるか(『時代別国語大辞典』),
等々の諸説があるが,「ほ(火)」に関わるものが多い。
因みに,「ほのほ(炎)」は,
「火の穂」
で,『日本語の語源』には,
「ヒ(火)をホと発音する例は多い。ホナカ(火中)・ほのほ(火の穂,炎)・ホカゲ(火影)など。ほてる(火照)虫の省略形のホテルがホタル(蛍)になった。」
とある。「ほのか」が,
ホノカ(火香)の義,
ホノホ(炎)を活用したもの,
ホノカ(火影),
と,「ほ(火)」とかかわりが深そうなのは気になる。「ほ(火)」の語源は,
ヒ(火)に通ず(『名語記』『和訓栞』),
ヒ(火)の中国音から(『外来語辞典』),
火の穂の義(『国語本義』),
等々で,
「キ(木)に対して,複合語に現れる『コ』く(木立ち,木の葉)と並行的な関係にある」
とある。
hi→ho,
という音韻変化,というわけである。
「ほの+か」,
の,「ほの」は,
ほのほ,
の「ほ」なのではあるまいか。まさに,火という揺らめく「ほのほ」なのではないか。
因みに,「ほのか」は,擬態語の「ほのぼの」「ほんのり」と,同語源らしく,
「ほんのり」
は,『大言海』は,
「ホノの延」
とあり,『語源辞典』には,
「ホノ+リ」
で,
「ホノカナリの語幹,ホノにリがか加わわり,音韻変化で撥音化して,『ホ+n+ノ+リ』となったもの」
とある。「ほのぼの」は,
「ホノカのホノの繰り返し」
で,
ほんのりと,幽かに暖かみのある,
意とある。やはり,「ホ(火)」に通じる気がする。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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