2017年02月06日

わずか


「わずか」は,

僅か,
纔か,

と当てるが,他にも,

微か,
些か,

とも当てる。実は,

僅か,

は,

はつか,

とも訓み,『広辞苑』の「わずか」の項には,

「ハツカの転か」

とある。意味は,

数量・程度・価値・時間などが非常に少ないさま,ほんのすこし,
やっと,かろうじて,かつかつ,
身代の少ないこと,みすぼらしいこと,

という意味が並ぶ。程度を表す状態表現が,そのこと自体の価値表現へと転じているのが,うかがえる。前二つの状態表現は,用例が,たとえば,

「わづかなる木陰のいとしろき庭に」(『源氏物語』)
「すべなく待たせわづかなる声聞くばかり言ひ寄れど」(『源氏物語』)

平安時代なのに対して,三つ目の用例は,

「わづかなる板びさしをかりてしのび住ひ」(『好色五人女』)

と,江戸時代のものなのも,記載例の偶然かもしれないが,変化をうかがわせる。『古語辞典』をみると,「わづか」について,

「量の少ない意。極めて少量しかない意から,かろうじて,やっと,せいぜいの意。類義語ハツカは,ハツ(初)と同根の語で,物事の最初の部分がちらりとあらわれるさまの意」

とあり『広辞苑』とは違い,

はつか,

は,同根ではあるが,別系統と見なしている。『大言海』は,「わづかに」の項で,

「ハツカニの転」

とする。手元の『語源辞典』も,

「ハツカニ(ハツハツの意)」

としている。その他,

「ハツカ(初)の義。カはカタ(方)の義(『名言通』)。初めは何事も幽かであるところから(『和句解』),
「ハツカ(端東)の義か(『俚諺集覧』),
「ハツカ(端所)の義(『言元梯』),

等々,いずれも「ハツカ」を前提に,その謂れを云々している。『日本語源大辞典』は,

「ワシルとハシルのような類例もあるが,ワヅカとハツカは第二音節の清濁も異なり,意味も開きがあるので,派生関係はないと思われる。ハツカはハツハツと同根で,物の先端からちらりと見えるといった,対象の不確定・不十分な認識を表すのが本来の意。ワは分ける,ヅは約まるの義とする説もあるが,従い難い。」

と,『古語辞典』と同趣旨の意見である。『広辞苑』の「はつか」は,

わずか,いささか,

と意味を載せるが,同じ「僅か」と当てたことで,混同するようになったのではあるまいか。

「はつか」の「はつ」は,『古語辞典』には,

「ハツハツ・ハツカのハツと同根。最初にちらりと現れる意」

とあり,『大言海』は,

「端之(はし)の義か,又,上之(うわつ)の略か」

としているが,手元の『語源辞典』は,

「『初は,端,果と同根』です。仕事や講堂のいとぐちの端がハツ(初)です。仕事や行動の結びの端のハテ・ハツ(果)に対します。」

とある。その他に,

端出の義(『和訓栞』),
ハツ(端)の義(『言元梯』),
ヘトク(辺疾)の義(『名言通』),
ハジメ(始)の義(『国語の語幹とその分類』),
ハヤトクの反(『名語記』),

等々,どうやら,「はつ」は,「初」か「端」に行きつく。「端」は「初」でもあるのだから,似たようなものと言えば言えるが,文脈依存の和語から,想定すれば,

初めて見える「初」,

端にのぞく「端」,

は,区別されていなかったのではないか。「端」「初」の字で初めて,区別がつくが,口頭で,発話するかぎり,当事者には,わかっていたのだから,敢えて区別する必要はない。

他の辞書には載らないが,「はつはつ」は,『古語辞典』に,

「ハツ(初)とハツカと同根」

として,

ちらっと,

という意味が載る。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
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posted by Toshi at 05:07| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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