頑固
頑固は,頭の固い代名詞のごとくに言われ,時代遅れの代名詞にもされる。『広辞苑』には,
かたくなで意地っ張りなこと,人の言うことや情勢の変化などを無視して,それまでの考えや態度を守ろうとすること,頑迷固陋,
なおりにくくしつこいこと,
後者は,「頑固な汚れ」「頑固な水虫」等々と,前者をメタファにしただけのことだが,
「ガンコ」
と表記すると,ちょっと揶揄と同時に「仕方がない」と許容される含意が出る。語源は,中国由来である。
「頑(かたくな)+固(かたい)」
で,
「片意地で,他人のことを認めようとしない態度を言います。」
とある。類語は,
意地張り,
頑冥,
固陋,
強情,
意固地(依怙地),
片意地,
狷介,
石頭,
とろくな言葉はない。しかし,頑固は,性格としての「堅さ」の,
一刻者・一国者・一徹者・ガンコ者・硬骨漢・硬骨の士・石頭・硬直,
と,信念としての「堅さ」の,
頑固者・頑固一徹・カタブツ・職人気質・頑固・一徹・硬骨・一途,
はある面重なる。気質が,そうさせるところがある。しかし,意地を張るという「かたくなさ」は,
意固地(依怙地)・片意地・強情頑固・頑な・意地張り・情張り・情強・意地っ張り・剛情,
とは,微妙に違う気がする。気質,信念は,それを是として,引かない。しかし,意地を張るのは,非と知りつつも,動かない,というところがある。結果は,同じだが。その極端なのが,
へそ曲がり,
つむじ曲がり,
偏屈,
となる。これは非と承知のうえで,手古でも動かない。へそ曲がりについては,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/442986147.html
で触れた。へそ曲がりは自称するが,頑固者と自称するのは,よほどのへそ曲がりである。
http://ppnetwork.seesaa.net/article/415870196.html
で触れたが,孔子は,「狷介」について,
中行(ちゅうこう)を得てこれと与(とも)にせずんば,必ずや狂狷か,狂者は進みて取り,狷者は為さざる所有るなり,
と,「子路篇」で言っていた。この「狷者」とは,
「絶対妥協しないところがある」
ところを取っていた。「狷介」の「狷」は,意志を曲げない,「介」は,堅い意,である。因みに,「頑固」の反対は,
妥協,
であるらしい。
頑固の「頑」の字は,
「元は,人の形の頭のところにしるしをつけた形を描いた象形文字で,まるい頭のこと。元は『はじめ』の意味に用いられるようになったので,元の原義はこれに頁(あたま)をそえた頑の字であらわす。頑は『頁(あたま)+音符元』。まるい頭の意から,転じて融通のきかない,ふるくさい頭の意となった。」
で,頑丈,頑健の「頑」でもあるが,頑迷,玩弄,頑強,頑愚,頑迷等々,ろくな意味はない。頑なさが強固,ということになる。実は,「頑」の字は,
丸(まるい)と同系,
とされるのが面白い。
「固」の字は,
「古は,かたくてひからびた頭蓋骨を描いた象形文字。固は,『囗(かこい)+音符古』で,周囲からかっちりと囲まれて動きのとれないこと。」
である。で,
「枯(かたく乾いた木)・各(かたくつかえる石)・個(かたい物)などと同系」
とある。堅固・固辞・固持・固陋等々と使われるが,
君子固窮,
と『論語』にある。
http://ppnetwork.seesaa.net/article/442986147.html
は,強情と比較して,
「強情」は「自分の非を認めずにあくまでも強情を張っている」「強情に口をつぐんでいる子」など、人の言葉を聞き入れないさまを表す意で広く使われる。
「頑固」は「頑固おやじ」「頑固に伝統を守る」など自分の考えを積極的に通すという意で多く用いられる。
と対比し,
「意固地」は、「意固地になって反対する」など意地を強く張る場合に、「かたくな」は、心を閉ざしたような頑固さを表す場合に用いられる。
と書く。意識して,頑なに突っぱねるのも,意地であったり,信念であったり,性格的であったり,行きがかりであったり,理由はともかく,
道に両手を広げて立ちはだかる,
頑固一徹,
になるか,耳を塞ぐ,
頑迷固陋,
になるかは,紙一重。漱石が名を取った,
漱石枕流,
は,中国の六朝時代、晋の孫楚が「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを「石に漱ぎ流れに枕す」と言い間違ったが、「石に漱ぐは歯を磨くため、流れに枕するは耳を洗うためだ」と言い張って誤りを認めなかったという由来に拠る。これは依怙地というべきだ。
頑固一徹,
は,非常に頑なで、一度決めたら自分の考えや態度をどうしても変えないこと,またそのような人,をいう。しかし,時代の行き掛かりで,会津の容保のように,引くに引けなくなった場合もある。立場によって,それを,
狷介不羈,
狷介孤高,
とも言うが,
狷介固陋,
とも言う。
時代に掉さす,
を由とするか,
時代に逆らう,
を由とするか,いずれも,人の言ではなく,おのれの事でしかない。海舟ではないが,
行蔵は我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず,我に関せずと存候,
であろう。嗚呼,だから,頑固と言われるわけか。しかし,漢創業時,高祖(劉邦)に従った周昌について,司馬遷は,『史記』で,
周昌は頑固で樹木のようにまっすぐな人,
と記した。しかし,
「学識はなく,(同じく創業時,高祖に従った)蕭何,曹参,陳平とはとても比べられない」
と記す。頑固と称される者に一流の人はいない,ようである。
参考文献;
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)
中村一男編『反対語大辞典』(東京堂出版)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
田部井文雄編『四字熟語辞典』(大修館書店)
大野晋・浜西正人『類語新辞典』(角川書店)
小川環樹・今鷹真・福島吉彦訳『史記列伝』(岩波文庫)
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