2017年02月24日

杓子定規


杓子定規は,

(杓子の曲がった柄を定規に利用したところから)正しくない定規ではかること,
一定の標準で敷いて他を律しようとすること,形式にとらわれて応用や融通のきかないこと,

という意味である(『広辞苑』)。一般には,後者の,

形式にとらわれて融通のきかないこと,

の意味で使われる。しかし,前者が語源だとすると,ちょっと変だ。

誤った定規ではかること,
と,
形式にとらわれて融通のきかないこと,

は,意味が全く違う。前者は,

そもそも基準が間違っている,

意であり,後者は,

ひとつの基準で形式的に推し量ろうとする,

という意だ。語源がもし,

杓子の曲がった柄を定規に利用したところから,

というなら,形式的とか融通のきかない,とは真逆の,

融通のきかせすぎ,

となるのではないか。しかし,多く,

曲がっている杓子を定規代わりにすること、正しくない定規ではかることの意から(『デジタル大辞泉』)
古くは杓子の柄は曲がっており、定規にならないのを定規の代用とするということから(『大辞林』)
曲がっている杓子の柄を無理に定規の代用とする意から。「杓子」は汁や飯などを盛ったりよそったりする道具。古くは柄が曲がっていた(『新明解四字熟語辞典』)

等々,同じ説をとる。さらに,手元の『四字熟語辞典』には,

杓子を定規にする,

という言い方もあるとし,やはり,

まがっているひしゃくの柄を,無理に定規として用いようとすること,

としている。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/si/syakushijyougi.html

も,

「杓子は汁をすくったり飯を盛ったりするのに使う道具で、古くは杓子の柄は曲がっていた。 そのような柄の曲がった杓子を、真っ直ぐな定規の代わり に使うところから、無理に基準に当てはめたり、融通のきかないことを『杓子定規』というようになった。」

と説く。管見では,唯一,手元の『日本語源広辞典』が異説を説く。

「語源は『尺四をもって定規とする』です。栗木細工の定規は,必ず,一尺四寸でなければならぬという規則にこだわること。形式にとらわれて融通のきかないこと,などの意です。『曲がった柄を定規に』というのが古くからの通説ですが,疑問。」

と。これなら,まさに杓子定規の意味に重なる。さらに,「杓子」の語源について,二説挙げる。

説1は,「杓+子(接続詞)」が語源。勺・杓は水を汲む器具で,しゃくる(噦る・掬う)物の意です。
説2は,「尺四(一尺四寸)」。吉野の栗木細工のシャクシの長さを語源とするものです。近畿では昭和初期まで,この杓子が主流でした。

この場合,栗木細工の尺(長さ)を指す,というわけだ。いずれも,「しゃくし」から来ていることには違いない。

「しゃくし」は,

「しゃくしはひさご(瓠)のなまった言葉で,その原型はひさごを縦割りにしたものとされている」(『世界大百科事典』)
「(杓子の杓は)古語,ひさご(瓢)の転の,ひしゃくの略」(『大言海』),

とあるが,『日本語の語源』には,「猫も杓子も」の「しゃくし」について,

「ネギ(禰宜)は神官の位階の名称であり,シャクシ(釈子)は,『釈迦の弟子』という意味で僧侶のことをいう。<釈子に定めましましけれど,いまだ御出家はなかりけり>(盛衰記)。『誰も彼もみな』というとき,『禰宜(神官)も釈子(僧侶)も』といったのが,ギ(宜)が母音交替(io)をとげてネコモシャクシモ(ネコモシャクシモ)になった。

どうやら,「杓子」は「釈」とつながるらしい。ということは,「しゃくし」と言っていても,

杓子,

とは限らないのである。その連想で,「笏」を思い出した。「笏」は,『日本語源大辞典』には,

「『笏』の漢音『こつ』が『骨』に通うのを忌み,
(イ)笏もものを測るものであるところから,『尺』の音シャクを借りたもの(日本釈名・大言海),
(ロ)笏の長さは一尺であるところからシャクといったもの(嘉良喜随筆・箋注和名抄),
(ハ)材料の木の名をもって呼んだもの(東雅)。」

と諸説あるが,『大言海』が面白いことを書いている。

「笏の音は,忽(こつ)なり,骨(こつ)に通ずるを忌みて,笏も物を量れば,尺の音を借りて云ふとぞ,或いは云ふ,笏尺の略にて,一笏は一尺なりと,多くは,一位の材を用ふ,これ,一位は,極位なれば,その縁に取る,飛騨の国の一位の木,亦,くらゐに取る。釋名『笏,忽也,君有敬命,及所啓白,則書其上,備忽忘也』」

とある。

笏も物を量れば,尺の音を借りて云ふ,

というのが目を引く。「笏」については,こうある。

「又,さく。束帯のとき,右手に持つもの。牙(げ),又は,一位木(いちいのき),或いは,桜・柊,等の薄き板にて,長さ一尺二寸,上の幅二寸七分,下の幅二寸四分,厚さ二分,頭を半月の形とす,即ち,上圓,下方なり。尚,位に因りて差あり,元は君命,又は申さむとする所を記して,勿忘に備ふるものなりしと云ふ。」

と。『日本語源大辞典』は,

「天皇は上方下円,臣下は,上円下方で,裾窄みを例とした。材質は,礼服は象牙又は犀角,朝服は木笏で,イチイ,サクラなどを用いる。」

とする。

ところで,「杓子」の「子」は,

帽子,
扇子,
調子,

等々,物の名に添える助辞(『広辞苑』)で,『大言海』は,

「(宋音なり)漢語の下に添えて,意なき語」

として,

台子,
金子,
様子,
払子,
鑵子,

等々を挙げている。「笏」を

「笏子」

といったかどうかは定かではないが,添えてもおかしくはない。

『有職故実図典』には,

「元来,笏は板の内面に必要事項を記載して忽忘に供えるのを本義とし,手板と称して具足した唐制をそのまま伝えたものである。『こつ』の音を忌んで「しゃく」と呼んだ。令制では,唐制と同様,五位以上は牙笏(げしゃく)と規定しているが,牙が容易に得難いところから,延喜の弾正式には,白木を以て牙に代えることを許容しており,こうして礼腹(らいふく)の他は,すべて木製となって近世に至った。」

とあり,杓子定規の見本のような有職故実に,「杓子定規」の「しゃくし」の出典を認めたい気がしてならない。例の忠臣蔵の一件も,有職故実や礼儀作法に精通しているとして高家肝煎とされた「三高」の一家,吉良義央との確執がなければ起きなかった。これは臆説であるが。

さて,笏の起源は,

http://d.hatena.ne.jp/nisinojinnjya/20130122

によると,

「笏の発祥は中国で、前漢の時代に著された『淮南子』(えなんじ)に、『周の武王の時代、殺伐とした気風を改めるため武王が臣下の帯剣を廃し、その代わりに笏を持たしめた』とあるのが笏の起源と云われています。笏が中国から日本にいつ伝わったのか、その正確な時期は特定できませんが、絵画に於いては、聖徳太子や小野妹子が描かれている画像等に見られる笏が今のところ最も古いとされている事から、推古天皇の御代に六色十二階の冠制が創定された時期に日本でも笏が使われるようになったのではないか、と推定されています。但し、笏を使用する事が国の制度して公式に明文化されたのは、推古天皇の御代から約1世紀後の文武天皇の御代に成立した大宝令からで、公式には、この大宝令が、日本での笏の起源となります。」

とあり,中国発祥らしい。

笏については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%8F

に詳しい。笏紙(しゃくかみ),

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%8F%E7%B4%99

というものがあるらしい。

参考文献;
田部井文雄編『四字熟語辞典』(大修館書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
鈴木敬三『有職故実図典』(吉川弘文館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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