2017年02月25日
あした
「あした」は,
朝,
明日,
と当てる。「あさまだき」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/442024908.html?1474144774
で触れたように,
「あさ(朝)」が「アシタの約」
であり,『大言海』には,
「アは,明くの語幹,明時(あけした)の意…(東(あずま)も明端(あけつま)なるが如し)。あした,又約(つづま)りて,朝(あさ)となる。雅言考(橘守部)アシタ『明節(あけしとき)の略也。時節などを,古く,シタと言ふ』」
とあり,「した(だ)」は,
「時の意にて,今行きしな,帰りしな,起きしななどいうシナ」
とあり,『日本語の語源』をみると,
「しだ(時)がシナ(時)に転音」
とある「夜明け時のことを古くは『アケシダ(明け時)』と言い、この『アケシダ』の『ケ』が脱落して『アシタ』になり、さらに変化して『アサ』になった」もののようなので,「アシタ」は,
アサ,
を指している。すでに,「夜」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/442052834.html
で触れたように,『古語辞典』によると,上代には,昼を中心にした時間の言い方と,夜を中心とした時間の言い方とがあり,
昼を中心にした時間の区分,アサ→ヒル→ユフ,
夜を中心にした時間の区分,ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ,
と,呼び方が分けられている。前者がヒル,後者がヨル,ということになる。アサとアシタは同じ「朝(あした)」である。だから,「あした」は,
ユウの対,
なのである(『古語辞典』)。「アシタ」について,『古語辞典』は,
「上代は昼を中心とした時間の言い方と,夜を中心にした時間の言い方とがあり,アシタは夜を中心にした時間区分のユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタの最後の部分の名。昼の時間区分の最初の名であるアサと同じ実際上は時間を指した。ただ『夜が明けて』という気持ちが常についている点でアサと相違する。夜が中心であるから,夜中に何か事があっての明けの朝という意に多く使う。従ってアルクアシタ(翌朝)ということが多く,そこから中世以後に,アシタは明日の意味へと変化しはじめた。」
とある。語源は,『大言海』で尽きているかもしれないが,手元の『語源辞典』は,二説を載せる。
説1は,「ア(明ケ)+シタ(シナの転・シダ・シタ)」。夜の明け方,明けての朝の意。
説2は,「早朝」古語アシタが,明日の意に変化した。変化は中世以後。
しかし,後者は,前者があって後のことなので,「語源と見るのは疑問」(『日本語源広辞典』)と言う通りではないか。だから,「アス」は,
「朝の音韻変化」
で,
「アシタ(朝)がアシタ(明日)に転用されたのと同じ関係…アサがアスに転じた」
とされる。アシタもアスも,それぞれ別系統で,いずれも,「アサ」を意味する言葉から,「明日」に転じた,ということになる。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/a/ashita.html
は,「アシタ」について,
「もとは『朝』の意味で、『夕べ』に対する語として用いられた。 鎌倉末期頃から『何かあっ た日の翌朝』の意味でも用いられ、平安末期以降、現在と同じ『明日』の意味をもつよう になった。 語源は、『夜が明ける』などの『明け(あけ)』に、奈良時代の東国方言で『時』 を意味する『しだ』で、『あけしだ(明時)』が転じたと考えられる。」
とし,「アス」については,
http://gogen-allguide.com/a/asu.html
「『あかす』の略。また『あさ(朝)』の転と考えられる。『あす』も『あした』も語系は同じであるが、用法的には、『あす』は『明日は我が身』のように『近い将来』も意味し、今日を明かして後の日を表している。」
と,やはり,「アサ」からの転としている。
しかし,『日本語源大辞典』は,「アシタ」について,諸説の中で,
「アシタ・アサ・アスは,語根を等しくする(『時代別国語辞典』)。Asitaのasは,asa(朝)・asu(明日)のasと共通で,夜明けを意味した語根(『岩波古語辞典』)。アシタのアシはアス・アサなどと同根であり,タはカナタ(彼方)・ハタ(端)・シタ(下)などのタに通ずるもの(『小学館古語大辞典』)」
を挙げ,
「アサ,アサッテ,アシタ,アスは,/as-/の部分を共通項としてもっているから,何らかの関係をもっている可能性がある。その点で,(この)説が有力か」
としている。さらに,
「アサには『明るい時間の始り』の意識が強い(『朝まだき』『朝け』)のに対し,アシタには『暗い時間帯の終り』に重点があった。そのため,前夜の出来事を受けて,その『翌朝』の意味で用いられることが多く,やがて,ある日から見た『翌日』,後には今日から見た『明日』の意に固定されていく。アサが専ら『朝』を示す単独語となり,ユフベが『昨夜』を示すようになった。」
と付記する。これは,古代の,
ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ,
のアシタの意味から切れていくことを意味する。『日本語の語源』の説明は,いつも独特だが,「アサ」が,ヨクアサ」になり,「アシタ」へと,意味を拡大,というか一般化して行く流れは,逆に良くわかる。
「〈あが面(おも)の忘れんシダ(時)は〉(万葉)とあるが,夜明け時のことをアケシダ(明け時)といった。『ケ』を落としてアシタ(明日)になった。さらにシタ[∫(it)a]が縮約されてアサ(朝)になった。
〈あか星のアクルアシタはしきたへの(敷妙)〉(万葉)。アクルアシタ(明くる朝)の語はアシタ(翌朝)に省略され,やがて,アシタ(明日)に転義した。語尾を落としたアシは母音交替[iu]をとげてアス(明日)になった。『アシタ』の語に『朝』『翌朝』『明日』の三義がある所以である。」
文脈依存の「アサ」は,夜の明ける意味であった。それが拡大しても,あくまで,その夜の朝(翌朝)でしかない。そういう文脈から切れて,「アシタ」となるには,あるいは,漢字「明日」を当てて以降なのではないか,という気がする。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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