2017年03月05日

ごちそうさま


「ごちそうさま」は,

御馳走様,

と当てるが,

御馳走になったのを感謝する意の挨拶語。日常の食後の挨拶にも使う,

が,ちょうど,

いただきます,

と対で使っている。しかし(丁寧の意の「御」を取った),

馳走,

は,中国由来だが,『デジタル大辞泉』には,

《その準備のために走りまわる意から》食事を出すなどして客をもてなすこと。また、そのための料理。
走り回ること。奔走。

とあり,『大辞林』には,

〔その用意に奔走する意から〕 食事などでもてなしをすること。饗応きようおうすること。また、そのための立派な料理。
走りまわること。奔走すること。
世話をすること。面倒をみること。

とある。しかし,『広辞苑』は,

かけはしること,奔走,
あれこれ走り回って世話をすること,
(その用意に奔走する意から)ふるまい,もとなし,
立派な料理,おいしい食物,

と,言葉の意味の外延が広がる順に意味を並べて,見識を示している。

「馳走」の中国語本来の意味は,

かけはしる,

という意味でしかない。「馳」の字は,

「馬+音符也(横にのびる)」

で,「也」の字は,

「平らにのびたさそりを描いたもの。它(タ)は,はぶひべを描いた象形文字で,蛇の原字。よく也と混同される。しかし,也はふつう仮借文字として助辞に当て,さそりの意味には用いない。他の字の音符となる。」

とあり,「馳」には,

走る,

意の他に,

車馬を走らせる,

という意味がある。「馳」は,

早くまっすぐ走る,

意で,驅(駆)は,

馬を鞭打ちて速く走る,

と区別する。「走」の字は,

「『大股で夭(人の姿)+疋(あし)』で,人が大の字にて足を広げて,足で走るさま。間隔を縮めて歩く,せかせかといくこと。」

とあり,どう考えても,「馳走」には,走るという意味以上はない。「もてなし」の意で使うのは,我が国固有であるらしい。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ko/gochisou.html

は,

「ご馳走の『馳走』とは,本来『走り回ること』『奔走すること』を意味する。昔は客の食事を用意するために馬を走らせ,食材を集めたことから『馳走』が用いられ,さらに走り回って用意するところから,もてなしの意味が含まれるようになった。感謝の意味で『御(ご)』と『様』がついた『御馳走様』は江戸時代後半から,食後の挨拶語として使われるようになった。」

『由来・語源辞典』

http://yain.jp/i/%E3%81%94%E9%A6%B3%E8%B5%B0

は,

「本来、『馳走』は馬を走らせるという意味。それが転じて、客をもてなすため、料理の材料を求めて走り回ることをいい、さらにもてなしのための料理のことも意味するようになった。ちなみに、「馳走」をもてなしの意で用いるのは日本独自の用法である。」

とある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%94%E3%81%A1%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%95%E3%81%BE

に,

「『馳走(ちそう)』とは、元来、『走りまわる』『馬を駆って走らせる』『奔走(ほんそう)する』ことを意味する。古くは『史記』(項羽本紀)にもみられる語である。これが日本にはいったのち、(世話をするためにかけまわるので)世話をすること、面倒をみることといった意味が生まれた。さらに、用意するためにかけまわることから、心をこめた(食事の)もてなしや、そのためのおいしい食物といった意味が、中世末から近世始めにかけて生まれた。これに接頭語『御』付けられて丁寧語となり、接尾語『様』がついて挨拶語となった。日本国語大辞典では初出として『浮世風呂』(1809-1813年)の一節『其節はいろいろ御馳走さまになりまして』を挙げている。」

と,経緯を詳説している。戦国時代に,「馳走」という言葉が,便宜を図った礼や奔走,周旋の意味で頻繁に出てくる。

ただ速く走る,という状態表現の「馳走」を,「奔走」に価値表現へと転じたのは,なかなか慧眼といっていいのかもしれない。その背景となる理由を,『日本語の語源』は,

「酒宴を開くことを中国語で置酒(chih chiu)といい,漢書に『置酒高会』(酒を設けて盛んな宴会を開く)の語が見えているが,わが国ではチシュ(置酒)が母音交替(uo)を遂げたチショが直音化して,チソ・チソウに変化した。」

と説く。是非はともかく,わが国は,馳走も置酒も知っていたことは否めまい。

「奔走」も,本来は,

かけまわる,

という意味に過ぎないが,中国語でも,

運動する,

という意に転じているのに倣った,のかも知れない。「奔」の字は,

「『大(ひと)+三つの止(あし)』。また上部は走の字と解し,『走+二つの止(あし)』とみてもよい。ぱたぱたと急いではしるさまを示す。」

で,やはり走る意を出ない。『広辞苑』の「奔走」を見ると,

走ること,
物事がうまく運ぶように,あちこちかけまわって努力すること,周旋すること,
馳走すること,

と,意味の広がり順になり,最後の意味は,中世末の『日葡辞典』に,

「コトナイゴホンソウデゴザル」

と載っているとある。因みに,『江戸語大辞典』には,「ごちそうさま」は,

饗応になった時の挨拶語,

としか載らない。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
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