2017年03月11日

さし


「さし」は,接頭語の「さし」である。

差し,

と当てる。

差し出がましい,
差し出す,
差し伸べる,
差し退く,
差し赦す,
差し渡す,
差し仰ぐ,
差し急ぐ,

等々と使う。ただ,「差し」は当て字だが,

差し合う,

指し合う,

と使い,意味を変える場合があるので,「差し」と総称していいのかどうかわからない。

「差し」は,接頭語で,『広辞苑』には,

動詞に冠して語勢を強めあるいは整える,

とあるが,『大言海』には,

「遣るの意なる差すの連用形。他の動詞の上に用ゐること,甚だ多く,次々に列挙するが如し。一一説かず,差すの條に記したれば,就きて見るべし。又,差しを,指す,擎す,刺すなど,四段活用の動詞に,當字に用ゐることも,多し。其の條條をみよ。」

とある。後から「さし」に漢字を当てたにしても,同じ「さし」でも,区別があったから,異なる漢字を当てたと考えることができる。

『古語辞典』をみると,動詞「さし」について,

「最も古くは,自然現象において活動力・生命力が直線的に発現し作用する意。ついで空間的・時間的な目標の一点の方向へ,直線的に運動・力・意向が働き,目標の内部に直入する意」

とあり,

射し・差し
刺し・挿し,
鎖し・閉し,
注し・点し,
止し,

等々に当てている。上記の意味で,名詞「差し」の意味に,

(「尺」とも書く)長短をはかる具,ものさし,
二人ですること(「さしで飲む」「さしで担ぐ」),
さしさわり,
刺し通すもの(かんざし(釵子),米刺(「刺」「指」とも書く),銭差(「緡」とも書く)),
(普通「サシ」と書く)能の構成要素の一つ。表紙に合わせない謡で,ごく単純な節で言い流す一節,
舞楽・能などで,手を差し出す類の動作,また舞曲を数えるのに用いる語(「ひとさし舞う」)
下級の女官,おさし,

に使われていく端緒が見えなくもない。『大言海』は,「さす」を,

發す,

「發(た)つの音通(八雲立つ,八雲刺す,腐(くた)る,くさる,塞(ふた)ぐ,ふさぐ)

と説明し,

立ち上る,
生(は)ゆ,生(お)い出づ,
髙くなる,

という意味を載せる。

差し昇る,
差し上がる,

の「さし」は,「差し」を当てても,「發(さ)す」から来ている。さらに,

映す,

は,「發す」と同義で,

差し映す,

といった言い方になる。

指す,

は,指差す,という意味になるが,そこから,

その方向へ向かう,
それと定める,
尺にてはかる,

という意味になるが,『広辞苑』には,

「(『刺す』と同源)直線的に伸び行く意」とある。

指(差)し示す,
差し渡す,
差し向かう,

等々という使い方をする。

擎す,

は,「上へ指して上ぐる意」で,

差し上げる,
差し仰ぐ,

といった使い方になる。

注す,

は,「他のものを指して入れる」意味で,『広辞苑』は,

刺す・点す,

として,

「(『刺す』の転義)ある物に他の物を加えいれる」

としている。

差し入れる,
差し入る,
差し加える,

と言った言い方になる。

刺す,

は,「指して突く意」で,『広辞苑』は,「刺す・挿す」として,

「(刺)こことねらいを定めたところに細くとがったものを直線的に貫き通す」
「(挿)あるものをたのものの中にさしはさむ」

刺し貫く,
差し込む,
差し抜く,

等々という使い方になる。

鎖す,

は,「桟を刺して閉ヅル意」ということで,

差し止める,
差し置く,
差し固める,
差し構える,

といった使い方になる。一番多いのは,

差し,

だが,『大言海』には,

「その職務を指して遣はす意ならむ。此語,さされと,未然形に用ゐられてあれば,差の字音には非ず,和漢,暗合なり。倭訓栞『使をさしつかはす,,人足をさすなど,云ふはこの字なり』」

とある。

当てる,遣わす,
押しやる,
突きはる,
将棋を差す,

といった意味で,『広辞苑』には,

「(「刺す」と同源。ある現象や事物が直線的にいつの間にか物の内部や空間に運動する意)

とある。

差し遣わす,
差し送る,
差し送る,
差し入れる,
差しかかる,

といった使い方になる。行動のプロセスそのものの意でもあるので,この使い方が一番多いのかもしれない。

どうやら,

行う,

ことから,

上げる,

ことから,

さしこむ,

ことまで,「さす」は幅広く使われていた。だから,「さし」を加えることで,単に,強調する,ということではないはずだ。

渡す,
のと,
差し渡す,

のとでは,「渡す」ことに強いる何かを強調しているし,

出す,

差し出す,

も同じだ。

貫く,

刺し貫く,

でも,ただ刺したのではなく,ある一点を目指している,という意味が強まる。

仰ぐ,

差し仰ぐ,

では,両者の上下の高さがより強調されることになる。「さし」が,

「空間的・時間的な目標の一点の方向へ,直線的に運動・力・意向が働き,目標の内部に直入する意」

として強調される,ということは,

自分の意思,
か,
他人の意思,

が強く働いている,含意を強めているように思う。

許す,

差し許す,

あるいは,

控える,

差し控える,

と,意味なく,強調しているのではなさそうだ。

ちなみに,おなじ「差し」も,接尾語となると,「ざし」と読ませ,

眼差し,
面座し,
こころざし,

と,ある物の姿,状態を表し,「さし」の,

自然現象において活動力・生命力が直線的に発現し作用する意,

という古い意味をたもっているように見える。

なお,「さす」の当てた漢字の違いは,

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%95%E3%81%99

に詳しい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)


ホームページ;
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今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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