2017年03月16日
つく
「つく」という言葉は,
突く,
衝く,
撞く,
搗く,
吐く,
付(附)く,
点く,
憑く,
着く,
就く,
即く,
築く,
等々さまざまに当てる。当然,文脈依存の和語は,その使われる場面場面で,当事者に意味がわかればいいので,その都度意味が了解されていた。しかし,口頭ではなく,文章化されるにあたって,意味を使い分ける必要が出る。そこで,さまざまに漢字を当てて使い分けを図った,と見ることができる。
辞書によって使い分け方は違うが,『広辞苑』は,
付く・附く・着く・就く・即く・憑く,
と
吐く,
と
尽く・竭く,
と
突く・衝く・撞く・築く・搗く・舂く,
と
漬く,
を分けて載せる。細かな異同はあるが,「尽く」は,『日本語源大辞典』に,
着きの義(言元梯),
ツはツク(突)の義(国語溯原),
とあり,「付く」に関わる。「吐く」は,『広辞苑』に,
突くと同源,
とある。従って,おおまかに,
「付く・附く・着く・就く・即く」系,
と
「突く・衝く・撞く(・搗く・舂く・築く)」系,
に分けてみることができる。しかも,語源を調べると,「突く・衝く・撞く」系の,「突く」も,
付く,
に行き着くようだ。『日本語源広辞典』によると,「突く」は,
ツク(付・着)と同源,
とある。そして,
「強く,力を加えると,突くとなります。ツクの強さの質的な違いは中国語源によって区別しています。」
としている。その区別は,
「突」は, にわかに突き当たる義,衝突・猪突・唐突,
「衝」は,つきあたる,折衝と用いる。また通道なり,
「搗」は,うすつくなり,
「撞」は,突也,撃也,手にて突き当てるなり,
「築」は,きつくと訓む。きねにてつきかたむるなり,
と,『字源』にはある。となると,すべては,「付く」に行き着く。「付く」の語源は,
「『ツク(付着する)』です。離れない状態となる意です。役目や任務を負ういにもなります。」
とある(『日本語源広辞典』)ので,「付く」は「就く」でもある。『日本語源大辞典』には,「付く」は,
粘着するときの音からか(日本語源),
とあるので,擬音語ないし,擬態語の可能性がある。そこから,たとえば,『広辞苑』によれば,
二つの物が離れない状態になる(ぴったり一緒になる,しるしが残る,書き入れる,そまる,沿う,注意を引く),
他のもののあとに従いつづく(心を寄せる,随従する,かしずく,従い学ぶ),
あるものが他のところまで及びいたる(到着する,通じる),
その身にまつわる(身に具わる,我がものとなる,ぴったりする),
感覚や力などが働きだす(その気になる,力や才能が加わる,燃え始める,効果を生じる,根を下す,のりうつる),
定まる,決まる(定められ負う,値が定まる,おさまる),
ある位置に身を置く(即位する,座を占める,任務を負う,こもる),
(他の語につけて用いる。おおくヅクとなる)その様子になる,なりかかる(病みつく。病いづく),
と,その使い分けを整理している。
どうやら,二つのもの(物・者)の関係を言っていた「つく」が,
ピタリとくっついて離れない状態,
から,その両者の,
それにぶつかる状態,
にまで広がる。『広辞苑』は,「突く・衝く・搗く」の項で,
「抵抗のあるものの一点をめがけて腕・棒・剣などの先端を強く当てて,また貫く意」
とするが,これは,上記のように漢字を当てはめて後に,そう言う意が先鋭化しただけで,後解釈に過ぎない。しかし,両者のぶつかりが極まり,
それを突き抜けると,
漬く,
に行く。「漬く」は,
ひたる,
とか
つかる,
状態である。いやはや,「つく」は,和語の特徴をいかんなく発揮した象徴的な言葉だ。口頭で,その場その場で会話している限り,両者には区別がつく。漢字が必要になるのは,文字表現が必要になって以降に違いない。しかし,音を使っている限り,
都伎(古事記),
や
都気(万葉集),
と,音を漢字に置き換えたところから始まる。より抽象度を高めて表現する必要から,
「都伎」は,「付き」
に,
「都気」は,「着き」
に,置き換えられていく。表現の空間の自立と相まって,言語は,文脈を離れて自立をせざるを得なくなる。
参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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