2017年03月17日
はたらく
こういう説があるらしい。
「『働く』の語源は『傍(はた)を楽にする』だともいわれています。『はた』というのは他者のことです。他者の負担を軽くしてあげる、楽にしてあげる、というのがもともとの『働く』の意味だったんです。」
と,ご本人は大真面目である。全く,傍迷惑な説である。「はた(端・傍)」とは,
わき・かたわら,
そば,
という意味で,確かに他人には違いないが,無縁の人ではない,
側杖を食う,
の「そば(側・傍)」の意である。
http://www2.kobe-c.ed.jp/bch-ms/?action=common_download_main&upload_id=2534
にも,
「『はた』というのは他者のことです。他者の負担を軽くしてあげる、楽にしてあげる、というのがもともとの『働く』の意味だったのです。『働く』という言葉は、今は大人の人がお金を稼ぐための労働のことをイメージすることが多いと思いますが、昔はもっと広い意味で使われていたようです。家族を楽にすることも『働く』。地域のために掃除をするのも『働く』。お金をもらわなくても、誰かのためにがんばることは『働く』だったそうです。」
とある。人は,社会的存在であるから,人との関わりなしに自己完結して動くことはないが,かつて共同体の中でしか生きられない時代,共同体のために働くこと,共同体に資することが,そこで生きるために不可欠だったからで,発想は真逆である。こういうのを,ためにする議論,という。
働くとは,実存主義的に言えば,
自己投企,
である。ハイデッガーではないが,
人は死ぬまで可能性の中にある,
つまり,自分自身を未来へと投げかけていくことになる。働くとは,常に,
自分自身の発見であり,創造である,
となるし,フォイエルバッハやマルクス流に言えば,働くとは,
自己を対象化すること,
であり,それは自己実現に他ならない。その意味で,
未来へと投げかける自己,
も,
対象化される自己も,
自己自身の実現である。本来,働くとは,そういうことである。
「はたらく」は,もともと,
動く,
という意味であり,『古語辞典』をみると,
動作をする,
(情意などが)活動する,
積極的に活動する
出撃して戦闘する,
(資本などが)活用される,
等々の意味しかない。『日本語源大辞典』には,
①体を動かす,行動する,
②精出して仕事をする,
の,①が本来の意味。そこから②の意味が派生し,その意味を表すために「働」の字を作字した,とある。その意味では,動くこと,すべてについて,「はたらく」と言っていた。だから,戦闘も,奔走も,出仕も,すべてを言っていたということになる。『江戸語大辞典』には「働き」で,
生活能力,甲斐性,
とあるので,今日の意味に転じているのがわかる。今日だと,
仕事をする。労働する。特に、職業として、あるいは生計を維持するために、一定の職に就く。
という意味が最初に来る(『デジタル大辞泉』)。まだ,「動く」意味が強く残っているので,
機能する,また作用して結果が現れる(「引力が働く」「機械がうまく働かない」)
精神などが活動する(「知恵が働く」「勘が働く」),
という意味でも使われる。語源は,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ha/hataraku.html
には,
「はた(傍)をらく(楽)にするからという説が広まっているが、これは言葉遊びで語源ではない。 働くの語源は、『はためく』と同様に『はた』という擬態語の動詞化であろう。 本来 は、止まっていたものが急に動くことを表し、そこから体を動かす意味となった。 労働の意味で用いられるのは鎌倉時代からで、この意味を表すために「人」と『動』を合わせて「働」という国字がつくられた。」
とある。『日本語源広辞典』には,三説載る。
説1は,「ハタ(擬音)+らく」。パタパタ動きまわって仕事をする意,
説2は,「畑+らく」。畑で仕事をする意,
説3は,「ハタ(果た)+ラク(動詞化,動く)」。成果を目指して動く意,
と。しかし,『日本語源大辞典』には,
身をせめハタルの意(和訓栞),
ハタル(課)の義(名言通),
ハタラク(端足動)の義(柴門和語類集),
ハタハタと動揺する音から(俚言集覧・語簏),
ハタメクと同様,擬音語ハタからの派生語(小学館古語大辞典),
マチュラク(両手動)の義(言元梯),
等々があるが,「はためく」が擬音語であり,そのハタと関連付ける説がリアリティがある,と思う。あとは,「傍(はた)を楽にする」と目くそ鼻くその語呂合わせに見える。「旗」そのものが,
はためくのハタ,
か,
織るときのハタハタ,
という擬音語から来ているのが参考になるように思える。
因みに,「動」の字は,
「重は『人が地上を足で突く形+音符東(つらぬく)』の会意兼形声文字。体重を足にかけ,足でとんと地面を突いたさま。動は『力+音符重』で,もと,足でとんと地を突く動作。衡(どんとつく)や踊(とんとんと上下にうごいて重みを足にかける)と近い。のち広く,静止の反対,つまり動く意に用いられる」
この「動」と区別して,人の活動を表すために,
「人+音符動」
を作ったようだ。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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