2017年03月23日

つっころばし


「つっころばし」は,

「つきころばし」の促音化である。「つきころばし」の動詞「つきころばす」は,

突き転ばす,

と当て,

ついて転ばす,つっころばす,

という意味だ。「つきころばす」の「突く」は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448009954.html?1489609221

の項で触れたように,

ツク(付・着)と同源,

で,

「強く,力を加えると,突くとなります。ツクの強さの質的な違いは中国語源によって区別しています。」

としている。その区別は,

「突」は, にわかに突き当たる義,衝突・猪突・唐突,
「衝」は,つきあたる,折衝と用いる。また通道なり,
「搗」は,うすつくなり,
「撞」は,突也,撃也,手にて突き当てるなり,
「築」は,きつくと訓む。きねにてつきかたむるなり,

と,『字源』にはある。となると,すべては,「付く」に行き着く。「付く」の語源は,

「『ツク(付着する)』です。離れない状態となる意です。役目や任務を負ういにもなります。」

とある(『日本語源広辞典』)ので,「付く」は「就く」でもある。『日本語源大辞典』には,「付く」は,

粘着するときの音からか(日本語源),

とあるので,擬音語ないし,擬態語の可能性がある。そこから,たとえば,『広辞苑』によれば,

二つの物が離れない状態になる(ぴったり一緒になる,しるしが残る,書き入れる,そまる,沿う,注意を引く),
他のもののあとに従いつづく(心を寄せる,随従する,かしずく,従い学ぶ),
あるものが他のところまで及びいたる(到着する,通じる),
その身にまつわる(身に具わる,我がものとなる,ぴったりする),
感覚や力などが働きだす(その気になる,力や才能が加わる,燃え始める,効果を生じる,根を下す,のりうつる),
定まる,決まる(定められ負う,値が定まる,おさまる),
ある位置に身を置く(即位する,座を占める,任務を負う,こもる),
(他の語につけて用いる。おおくヅクとなる)その様子になる,なりかかる(病みつく。病いづく),

と,その使い分けを整理している。

どうやら,二つのもの(物・者)の関係をいっていた,「つく」が,

ピタリとくっついて離れない状態,

から,その両者の,

それにぶつかる状態,

にまで広がる。その意味で,

転ばす,

と,

突き転ばす,

では,人為的な「突く」行為が入っている,ということになる。ところが,「つきころばし」を転訛させた,

つっころばし,

となると,まったく別の意味になる。『広辞苑』には,

歌舞伎の役柄の一。極端に柔弱な色男の役,

とある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%A3%E3%81%93%E3%82%8D%E3%81%B0%E3%81%97

には,

「つっころばしは、歌舞伎の役種の一。上方和事の、柔弱でやや滑稽味を帯びた立役をこう呼ぶ。具体的な役としては『夏祭浪花鑑』の玉島磯之丞、『双蝶々曲輪日記』の与五郎、『河庄』の紙屋治兵衛、『廓文章』など。
その語源が「肩をついただけで転びそうな」というところから来ていることからもわかるように、本来は優柔不断な若衆役であり、たいていは商家の若旦那や若様といった甲斐性なし、根性なしで、さらに劇中で恋に狂い、いっそう益体のないどうしようもなさを露呈することにある。そのさまは、特に紙治や伊左衛門に特徴的だが、あわれであると同時に、それを通りこして滑稽でさえあり、でれでれとした叙情的な演技が一面から見れば喜劇味をも含むという不思議な味いがある。
江戸和事の二枚目や、上方和事のつっころばし以外の二枚目との決定的な違いは、まさしくこの滑稽味、喜劇味の有無にあり、さらにいえばその原因となる性格造形の違いにあるといえるだろう。つっころばしは気が弱く、女に優しく、そのくせいいところの御曹司であるがために甲斐性や根性には欠け、なんとなくたよりない。これに対して江戸の二枚目は、表面上はつっころばしに似つつも、その芯の部分にはげしい気性や使命を帯びているために、どこかきりっとした部分が残るのである(それゆえに恋に狂っても喜劇的にはならない)。
つっころばしは上方独特の役種で、演技の巧拙以上に役者の持味、舞台の雰囲気に左右されることが多い。しばしば上方歌舞伎は型よりも持味、心情、雰囲気を重視するといわれるが、なかでもつっころばしはその典型的な例であるといえる。」

とある。ただ,

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12111328052

には,

「『つっころばし』ってのは江戸弁では今でも生きてる。ただし、意味は歌舞伎の世界と下町言葉じゃ全然違う。下町じゃ『乳母日傘で育って、ツンと指でつついたくらいでも転ぶような』『正真正銘のお嬢ちゃんお坊っちゃん』を指すんだよ。誰かさんたちが言うような『なよなよしてて、こらえ性も自分もない』っていう意味じゃない。」

とある。江戸ッ子が,歌舞伎の言い回しを真似たのか,歌舞伎が,江戸での言い回しを歌舞伎が真似たのかは,わからない。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/436936674.html

で触れたように,江戸ッ子は歌舞伎を気取ることが多いのだから,江戸風俗を歌舞伎が真似たとばかりは言えないのである。

つっころばし.jpg

(つっころばしの役与五郎 『双蝶々曲輪日記』7代目尾上菊五郎の与五郎)


参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/modules/kabuki_dic/entry.php?entryid=1207

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 05:22| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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