かたる
言葉を口に出す,という言い回しの,
「言う」「話す」「申す」「述ぶ」「宣る」「告ぐ」
については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/448588987.html?1490905148
で触れた。残りの,「語る」について探ってみたい。「語る」の意味は,ただ,
話す,
のとは違う。『広辞苑』には,
事柄や考えを言葉で順序立てて相手に伝える。一部始終をすっかり話す,
筋のある一連の話をする,
節や抑揚をつけてよむ,朗読するように述べる,
親しくする,うちとけて付き合う,
(物事の状態や成行きなどが)内部事情や意味などをおのずからに示す,
と意味が載る。「はなす」の語源は,『大言海』の述べるように,
「放す(心の中を放出する)」
である。ただ,心の中を「放す」のと,「語る」の差は,
筋のある,
事柄や考えを言葉で順序立て,
というところなのか。ところで,『日本語源広辞典』には,「はな(話)す」の項で,
「物をカタルとか,のカタル(語)が,ダマス(瞞,騙)に使われるようになって,ハナス,に漢字の『話』を当てて生まれた語です。」
とある。「かたる」には,
語る,
ではなく,
騙る,
と当てると,
(うちとけて親しげに『語る』ところから)安心させてだます,だまして金品などを取る,
という意味になる。しかし「語る」の虚実ではなく,そこに欺いて何かしようとする意図があるかどうかを別にすると,「語る」こと自体に差はない。『大言海』の「騙る」の説明がふるっている。
「(虚を語る意か)實(まこと)らしく告げて,欺く。」
と。「語る」については,
「形を活用せしめ(宿(やど)る,頭(かぶ)る,の例),事象を言ふ意なるべし」
とある。『日本語源大辞典』は,諸説を,
カタはコト(言)の転。リは活用語尾(日本古語大辞典),
コトテル(言出)の義(言元梯),
カタ(形)の活用語。カタは事象の意(和訓栞・大言海),
カタアル(形生)の約(国語本義),
カタアル(象有)の約,カタはカタドル意(名言通),
カタ(方)ヲリルか(和句解),
なかなか応諾しない精霊をなだめすかし,克服する際の呪言カツ(克)を再活用させた語(文学以前),
話の別音Kaの入声音Katが転音したもの(日本語原考),
等々載せるが,『日本語源広辞典』は
http://ppnetwork.seesaa.net/article/421029473.html
で触れたように,「語る」の語源を二説載せる。ひとつは,『大言海』の言う,
「タカ(型,形,順序づけ)+る」で,順序づけて話す,
と,いまひとつは,
「コト(物事・事象)+る」で,世間話をする,物事を話す,
の,二説ある。カタリベ,カタライベなどがあるので,随分古い言葉だとされている。『古語辞典』によると,
「相手に一部始終をきかせるのが原義。類義語ツゲ(告)は知らせる意。イヒ(言)は口にする意。ノリ(宣)は神聖なこととして口にする意。ハナシはおしゃべりする意で室町時代から使われるようになった語」
とある。そして,「かたり」の項の中に,
語り,
を当てる語と,
騙(衒)り,
と当てる語を,併せて載せ,
(巧みに話しかけて)だます,
と意味を載せる。どうやら,漢字で当て別けないかぎり,
かたり,
は区別されないが,当事者には通じていたはずである。「騙る」の語源が,
「語る」
であるのは,当然予想される。
「ことば」に関わる,
舌
言
語
詞
辭(辞)
の違いについて,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/401176051.html
で触れたことと少し重なるが,「語」の字を調べると,
「吾」は,「口+五(交差する意)」からなるが,「五」は,指事文字。×は,交差を表す印。五は,「上下二線+×」で,二線が交差することを示す。片手の指で十を数えるとき,→の方向で(親指から折って)五の数で,(今度は指を立てて,逆の)←方向に戻る,その転回点にあたる数を示す。で,「吾」は,AとBが交差して話し合うこと。後に,吾が我(われ)とともに一人称を表す代名詞に転用されたので,「語」がその原義を表すことになった,
という。
で,「言(言葉)+吾(交差する)」は,互いに言葉を交わし合う,という意味。その意味で,「語る」と「騙る」の差はない。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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