2017年04月05日

つぶやく


「つぶやく」は,

呟く,

と当てる。

ぶつぶつと小声で言う,ひとりごとを言う,

という意味だが,似た言葉に,

ささやく,

がある。「ささやく」は,

囁く,
あるいは,
私語く,

と当てる。

声をひそめて話す。ささめく,ひそひそと噂話をする,

と,『広辞苑』にはあるが,『大言海』には,「つぶやく」の意味に,

独り,くどくど物云ふ,

とともに,

囁,

が載る。『大言海』の「ささやく」は,

私語,
耳語,

と当てて,

小声にてひそひそ話す,

とある。敢えて,違いを際立たせれば,「つぶやく」は,ひとりごとで相手はいらず,「ささやく」は,相手なしで成り立たないが,「ささやく」に,私語くと,「私語」を当てているところからすると,「つぶやく」との原義の差は,なくなるように見える。『類語例解辞典』

http://dictionary.goo.ne.jp/thsrs/10742/meaning/m0u/

にも,

「『呟く』は、小さな声でひとりごとを言う意。聞き手は必要としない。一方、『囁く』は、周囲に聞こえぬよう、相手だけに小さな声で話す意。」

とはある。しかしどうも,由来が違うように見える。

『古語辞典』には,「つぶやく」は,

つぶめく,

で載る。そして,

「粒と同根」

と載る。『大言海』には,

「委曲(つぶつぶ)と云ふ意」

としている。『日本語源広辞典』は,

「ツブ(小さくまとまる)+やく(動詞化)」

とし,『日本語源大辞典』は,

ツブツブ(委曲)という意(和訓栞・大言海),
ツブツブ(粒々)とササヤク(細語)の意(和訓栞),
ツボヤカ(粒)の義(名言通),
ツフイヤク(粒弥)の義(言元梯),

と挙げ,「粒」とつながるらしいと見当が付く。しかし,「つぶ(粒)」の語源は,『大言海』は,

「つぶら(圓)の義」

とし,『広辞苑』も,

「つぶら(円)の意か」

としているし,『古語辞典』も,

「ツブシ(腿)・ツブリ・ツブラ(円)・ツブサニと同根」

としている。さらに『日本語源広辞典』も,

「円らなるもの」

の意で,粒のこと,としているが,『日本語源大辞典』にある,

粒になるときの音からか(日本語源=賀茂百樹),
丸いものは一所にとどまらずころがるところから,ウツブクの義か(和句解),

という擬態を言い表す状態表現であったのではないか,という気がしてならない。それは,「ささやく」が,

細小(ささ),

と関わるとして,『大言海』は,「ささ(細小)」の項で,こう述べている。

「形容詞の狭(さ)しの語根を重ねたる語。孝徳紀,大化二年正月の詔に『近江の狭狭(ささ)波』とあるは細波(ササナミ)なり,神代紀,下に,狭狭貧鈎(ささまぢち)とあり,又陵墓を,狭狭城(ささき)と云ふも同じ,イササカのササも,是れなり。サとのみも云ふ。狭布(けふ)の狭布(サヌノ)。細波(さざなみ),さなみ。又ササヤカ,ササメク,ササヤクなど云ふも,同じ」

と。しかし,それは,「狭し」と「狭」の字を当ててからの解釈で,『古語辞典』は,「ささめく」の「ささ」は,

「息まじりの低音を写した語」

として,擬音語とする。そして,「ささめく」は,

さやさやと音を立てる,

という意味であり,

さざめく,

と関わる。「ざざめく」は,

ざわざわ,
がやがや,

の音がすることであり,そこから考えると,「ささめく」は,その少し静かな音ということになる。その音に準えて,

私語く,

と,人の小さな声に転用した,と考えるのが順当ではあるまいか。例えば,『日本語源広辞典』は,「ささやく」を,

「細,小の意のササ+動詞を作るヤク」

とし,「ささめく」を,

「ササ(細・小の意)+めく」

としておいて,「さざめく」は,

「サザ,ザザ(擬声・波音)+めく」

とする。それなら,「細・小」を当てはめた「ササ」も,元々は擬音でなくては,一貫しない。「細・小」を当てはめた前の「ササ」の由来こそが大事なのではあるまいか。文字をもたないわれわれが,「ささ」を「細小」とするはずはないかのではあるまい。むしろ逆だ。擬態語・擬音語から始まった言葉に,漢字を当てはめることで,抽象化に成功したのではないか。『日本語源大辞典』は,

「『ささ』は擬声語で,類義語『さざめく』は『さざめく』ともいい,がやがやと大声を挙げる意であるのに対して,「ささめく」は,ひそひそと小声で話す意」

とする。「ささやく」の「ささ」だけが例外とは思えない。

因みに,『擬音語・擬態語辞典』は,「ささ」は,

弱い風が吹いて立てる音,
水が軽やかに流れる音,

であり,「さざ」は,

水が勢いよく流れたり,降りかかったりする音,
とする

こうみると,と,「つぶやく」の「つぶ」も,擬音語・擬態語由来と思えてならない。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

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