2017年04月09日
うた
「うた」は,
歌,
唄,
と当てるが,「うたう」は,
歌う,
唄う,
謳う,
謡う,
詠う,
吟う,
等々と当てはめる。しかし,漢字によって区分する以前は,すべて(後世出現の「詩」も含め),
うた,
であり,
うたう(ふ),
である。口頭での会話を想定すれば,当人たちには,何の「うた」かはわかっている。それで充分であった。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/u/uta.html
は,「うた」の語源を,
「『うたふ(訴)』の語幹とする説や,思いを写すことから『写す』の約転など数多くの説がある。中でも,『うたふ(歌)』の語幹で『うたふ』は手拍子をとって歌謡することから,『打ち合ふ(うちあう)』を語源とする説が有力とされている。」
とする。『日本語源広辞典』も,
「手を打ち合う」
を取る。しかし,『古語辞典』は,
「『拍子を打つ』のウチの古い名詞形ウタから起こったとする説(類例,ナヒ(綯),ナハ(縄),ツキ(築),ツカ(塚)など)があるが,ウタ(歌)とウチ(打)とは起源が別。ウタ(歌)は,ウタガヒ(疑)・ウタタ(転)のウタと同根で,自分の気持ちをまっすぐに表現する意」
とする。「うた(転)」に,
「ウタタ(転)・ウタガヒ(疑)・ウタ(歌)のウタと同根」
として,
無性に,
の意味が載る。「うたた(転・漸)」の項には,
「ウタウタの約。ウタは,ウタ(歌)・ウタガヒ(疑)のウタと同根。自分の気持ちをまっすぐに表現する意。副詞としては,,事態がまっすぐに進み,度合いが甚だしいさま。『うたたあり』の形でも使い,後に『うたて』と転じる」
とある。この『古語辞典』の説を傍証するのは,『日本語の語源』の「うたげ(宴)」の語源の説明である。
「『手を打ち鳴らし声を髙くはりあげる』という意味のウチアグ(打ち上ぐ)は『宴会をする。酒宴をする』という意である。〈このほど『名付ケ祝イの間』三日ウチアゲ遊ぶ〉(竹取),〈七日七夜豊の明り(宴会)してウチアゲ遊ぶ〉(宇津保)。名詞形のウチアゲ(打ち上げ)は,チア(t(i)a)の縮約でウタゲ(宴)になった。…行事などが終った後の振舞事をウチアゲ…という。」
『日本語源大辞典』は,諸説を挙げている。
ウタフ(歌)の語幹。ウタフは手拍子をとって歌謡することから,打チ合フを語源とする(国語の語幹とその分類),
ウタフ(訴)の語根。これからウタフを経過して,ウタヒとウタヘとに分化した(万葉集講義=折口信夫),
心情を声にあげ,言にのべてウタヘ(訴)出ること(日本語源),
ウタガヒ(疑)・ウタタ(転)のウタと同根(『岩波古語辞典』)
ウツス(写す)の約転。ウツスは思いを写すこと(名言通),
ウーイタイヒ(唸痛言)の義(日本語原学),
アゲトナフ(挙称)の約(和訓集説),
ウは歓喜を意味するヱの転。タは事物を意味する接尾語トと通じる。歌謡の呼称からウタゲ(宴),ウタヒ(歌)などの語を派生した(日本古語大辞典),
息をいうウタチ(憂陁那)の略語(和語私臆鈔),
「謳答」の別音U-taで,歌謡,合唱の義(日本語原考),
どう考えても,語呂合わせは取れない。打ち合う,とともに,文脈から語源と想定できるのは,
ウタフ(訴)の語根,
心情を声にあげ,言にのべてウタヘ(訴)出ること,
ウタガヒ(疑)・ウタタ(転)のウタと同根,
辺りだが,古代,「うた」は特別な意味,神事や呪術性という意味を持っていると考えると,
ウタフ(訴),
ではないか,という気がする。「うた」の語源から考えれば,
ウタフ(ウ),
は,『大言海』の言うように,色ふ,境ふ,等々と同趣で,
「歌を活用せしむ」
でいいと思うのだが(『日本語源広辞典』も同様),それがまたそう一筋縄ではいかない。「ウタ」を,
ウタガヒ(疑)・ウタタ(転)のウタと同根で,自分の気持ちをまっすぐに表現する意,
とした『古語辞典』は,
「ウタ(歌)アヒ(合)の約で,もとは唱和する意か」
とする。しかし,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C
は,
「『うた・歌う』の語源は、折口信夫によれば『うった(訴)ふ』であり、歌うという行為には相手に伝えるべき内容(歌詞)の存在を前提としていることもまた確かである。徳江元正は、『うた』の語源として、言霊(言葉そのものがもつ霊力)によって相手の魂に対し激しく強い揺さぶりを与えるという意味の『打つ』からきたものとする見解を唱えている。」
と載せている。このとき,言葉のもつ霊力を期待している,と言っていいのかもしれない。
「うた」の語源としてはどうかと思われるが,「打つ」は「うたう」行為の中で意味を持ってくるのかもしれない。つまり,「歌」の語源としてではなく,「うたう」場面で,「打つ」の意味が出てくるのかもしれない。手を打つは,柏手がそうであるように,呪力があるはずだからである。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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