うたげ


「うたげ」は,

宴,
讌,

と当てるが,

ウチアゲの約,

と『広辞苑』に載る。「打ち上げ」は,

打ち揚げ,

とも当てる。ロケットを打ち上げる,の「打ち上げ」でもあるが,確かに,

事業や仕事などを終えること。また,その終了を祝う宴,

という意味で,今日も使っている。折口信夫によると,

「平安期の大饗(おおあえ)と名付けられた饗宴には正客が正席につくと,列座の衆が拍手するのが本式で,宴(うたげ)とは〈うちあげ(拍ち上げ)〉で礼拝を意味したが,時代を経るにしたがって饗宴全体をあらわし,ついには酒宴をさすようになり,これが饗宴の主要部を構成すると考えられるようになったという。」(『世界大百科事典』)

とあるので,「打ち上げ」と「うたげ」は,セットなのかもしれない。『大言海』は,

「掌を拍上(ウチアゲ)の約と云ふ」

とあり,「うちあぐ(打上)」の項には,

「両掌を打ち鳴らす。酒を飲み楽しむ時にすることにて,やがて,酒宴(さかもり)する意となる。宴をウタゲと云ふも,ウチアゲの約なり。」

とある。そして,

「顕宗即位前紀,新室の宴に『酒酣,云々手掌摎亮拍上賜(タナソコモヤララニウチアゲタマヘ)』,釋紀『打上賜者,飲酒之義也』,宇津保物語,藤原君『七日七夜酒宴(トヨノアカリ)してウチアゲ遊ぶ』,栄華物語,四,みはてぬ夢,『酒を飲み,訇(ののし)りて,ウチアゲノノシル』,宇治拾遺,一,第三條『酒をまゐらせ遊ぶありさま,云々,ウチアゲたる拍手の,よげに聞こえければ,さもあれ,ただ走出でて儛ひけむ』」

等々の例を挙げる。「宴」の字は,呉音・漢音ともに,「エン」だが,これに「うちあげ」を当てはめたものと思われる。「宴」の字は,

「晏(あん)は『日゜ラス音符安』から成り,日が落ちること。宴は『宀(いえ)+音符晏の略体』で,家の中に落ちつき,くつろぐこと。上から下に腰を落として安らかに落ち着く意を含む。」

とあり,まさに,「酒盛り」の意である。語源説は,

打上げの約。酒を飲み,手をウチアゲ(拍上)て楽しむから(皇国辞解・雅言考・俗語考・嬉遊笑覧・和訓栞・国語学通論・音幻論・国文学の発生),

が多数派だが,ほかに,

飲酒の義(日本紀和歌略註・古言類韻),
ウタイアゲの略(両京俚言考)
ウタ(歌)から派生した語(日本古語大辞典),

がある。『日本語源広辞典』も,

「『手を打ち合って遊ぶ』ところから,ウタゲが出たとするのが通説です。ただし,ウタとウタゲがほぼ同時に成立した言葉ではありません。ウタゲは,文化が進んでからの言葉であるとすると,ウタが,先に語として固定して『ウタ(歌)+ウ(=歌う)』『ウタ(歌)+ゲ(食事の意)=宴』などと発展したと考えるのが合理的です。」

と「うた」説をとる。しかし,「うた」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448852051.html?1491680024

で触れたように,に,ウタ(歌)とウチ(打)とは起源が別とされ,むしろ折口信夫の「うった(訴)ふ」の,歌うという行為には相手に伝えるべき内容(歌詞)の存在を前提としているという説に惹かれる,と書いた。なにも,「うた」と「うたげ」をつなげる意味が分からない。「うた」は神事であり,「うたげ」は酒宴である。神事の後の「うちあげ」であっていい。

『日本語の語源』は,

「『手を打ち鳴らし声を髙くはりあげる』という意味のウチアゲ(打ち上ぐ)は,『宴会をする,酒宴をする』という意である。〈このほど(名付ヶ祝の間)三日ウチアゲ遊ぶ〉(竹取),〈七日七夜豊の明り(宴会)してウチアゲ遊ぶ〉(宇津保)。名詞形のウチアゲ(打ち上げ)は,チア(t(i)a)の縮約でウタゲ(宴)になった。〈其のウタゲの日を待ち給ひき〉(記)。」

と,通説を音韻変化で傍証する。

ただ,「打ち上げ」の語源を見ると,

打ち明けの意。男女が婚姻生活に入っていることを娘の親に知らせる方式をいったのであろう(綜合日本民族語彙),

という説もあるが,

ウタゲの訛(俗語考),

というのもあって,

ウチアゲ→ウタゲ,

ではなく,

ウタゲ→ウチアゲ,

とする説もある。面白いが,ただ,音韻は縮約が大勢という難はある。因みに,

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1215544107

に,「打ち上げ」について,

「長唄で使われる用語。太鼓を中心として曲の調子を強くする、高めることで曲中に区切りをつける技法を打ち上げといった。また太鼓を打ち終えることも打ち上げると言ったことから、歌舞伎など興行の終わりを意味する言葉に、そして締めくくりの宴会へと結びついたのである。
ちなみに『打ち合わせ』という言葉も元々は音楽用語。雅楽では指揮者がいないため打楽器(打ち物)を中心にリズムを合わせていく。笛や笙、太鼓や鉦といった各雅楽器が、事前にリズムを確認、練習しておくこと、これを打ち合わせと言ったのである。」

とある。「打ち合わせ」は,確かに,

「雅楽合奏の事前の音合わせ」

の意味があるので,それに引きずられた説であろうか。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

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