2017年04月26日


「池」は,『広辞苑』には,

地を掘って人工的に水を貯めた所,
自然の土地のくぼみに水のたまった所,

と,ちょっと微妙な説明がある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0

の「池」の説明には,

「池(いけ、英語: pond)は、地表上の淡水で覆われた領域。通常、湖ほどには大きくないものを指す。同様のものを沼(ぬま)と言うこともあるが、特に明確な区別はない。両者をまとめて池沼(ちしょう)と言うこともある。
慣例的には水深が浅いもの(おおむね5m未満)を池、それ以上のものを湖とすることが多い。ただし、最深部まで植物が繁茂するものになると沼扱いされる。」

とある。「うみ」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448421529.html

で触れたように,「うみ」は,いわゆる「海」の意の他に,

湖など広々と水をたたえた所,

という意味があり,いわゆる「湖」も,

「うみ」

と呼んでいた。琵琶湖も,

近淡海(ちかつあふみ),

と呼ばれており,「うみ」「いけ」「ぬま」等々の区別は,

http://chigai-allguide.com/%E6%B1%A0%E3%81%A8%E6%B2%BC%E3%81%A8%E6%B9%96%E3%81%A8%E6%B3%89%E3%81%A8%E6%B2%A2%E3%81%A8%E6%BD%9F/

等々に詳しく,

「沢は、低地で浅く水が溜まり、アシやオギなどの植物が茂っている湿地である。また、山間の比較的小さな渓谷も『沢』という。
池は、自然のくぼ地に水が溜まったところや、地を掘って人工的造ったところ。ふつう、沢よりも大きく深いが、沼や湖よりも小さく、水深5m以下のところをいう。水中植物はあまり生えていない。
沼は、池よりも大きく、湖よりも小さいところ。水深は池と同様に5m以下であるが、フサモ・クロモなどの水中植物が繁茂し、泥土が多い。
湖は、池や沼よりも大きく、水深5m以上のところをいう。
ふつうは自然にできたところを指すが、ダムなどの貯水池を「人工湖」「人造湖」などと呼ぶように、人工的に造られた湖も存在する。」

と区別しているが,

「規模や形態が『湖』であっても、固有名詞では『池』や『沼』となっていたり、『池』のようなところが『沼』と呼ばれていることもある。」

と付言するように,和語は概念としての言葉はなく(メタレベルでの言語ではないので比較対照することはない),文脈に依存しているので,目の前のものしか指さない。従って,そこでは,「ぬま」と「いけ」は,区別されていたはずだ。

池.JPG


http://e-zatugaku.com/minomawari/iketonuma.html

では,湖沼学上の区別について,

湖…天然の広くて深いもの。夏に水温成層がある。
沼…水深が浅く水底中央部にも沈水植物(水草)の生育する水域。
池…人工的に造られたもの。
沼と池については、明確な区別ではなく、両者をあわせて池沼ともいいます。

としている。「いけ」と「ぬま」の区別は,語源からみたほうがいいのかも知れない。

『大言海』は,「いけ」について,

「生(いけ)の義。生水(いけみず)と云ふが成語ならむ(万葉集,二十『伊氣水豆(イケミヅ)に,影さヘ見エテ』)養魚の用を根源としたる語なり(生簀(いけす)同趣),出典の宇津保物語の文を見るべし。桑家漢語抄(文明元年,一條兼良の校本奥書あり)に,地理,池『伊計,或,伊計須,案,字圖云,自川河取魚,而外儲水宇池中,以魚活養玆所也,故以伊計之訓,魚於伊計於具(ウヲヲイケオク)の義也』」

とある(『古語辞典』も「生け」説をとる)。『日本語源広辞典』も,

「生け・活け」

とする。「魚を生かしておく水たまり,溜池などのことをいう」とし,

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/i/ike.html

は,

「語源は、『いけ(生)』の意味と 考えられている。 その根拠には,魚を生かせておくところであるため『いけ(生)』とする説と,水が涸れるのに対して『いけ(生け)』とする説がある。
 寝殿造りや寺院の庭園に見られる池を元にすれば,魚を生かせておくところと考えられるが,地名に『池』のつくところは稲作が普及した地域と重なることから,涸れないため水を湛えておくところで『生け』の意味とも考えられ,特定は難しい。漢字の『池』の『也』は,『蛇』の原字『它』が変化した文字で,長く伸びた爬虫類の姿を描いた象形文字である。『水』と『也』からなる『池』は,帯状に伸びた溝や溜池を表している。」

と,「生け」の意味に含みは持たせながら,「生け」説を取る。『日本語源大辞典』は,その含みについて,もう少し詳説している。

「①イケ(生)の義。魚を生かせておくもの(生けから)(桑家漢語抄,日本釈名,箋注和名抄,雉岡随筆,和訓栞),
②ひでりに水をいけておくために掘るものであるから,水が涸れるのに対し,イケ(生)というものか(和句解),
 従来,語源説①がとられるが,地名におけるイケの分布が西日本に偏在し,それらが稲作関係の地名や普及範囲とも重なることから,イケは必ずしも養魚に限らず,人が生く(生きる)ためのもの,あるいは,水を生かせて(涸らさないで)おくものとも考えられる。」

いずれにしろ,「いけ」は人口の溜池を指すことになる。「ぬま」は,『大言海』は,

「沼間の義か」

とし,「ぬ(沼)」を見ると,

「粘滑(すめる)の義」

とする。「すめる」は載らないが,当てた字から見ると,

ぬめり(滑り),

の意と見える。『日本語源広辞典』も,

「ヌ(ぬめる)+マ(場所)」

と,『大言海』と同説が載る。『日本語源大辞典』には,

人の股までぬかるところからヌクマタの義(日本声母伝),
ナメラマ(滑間)の義(言元梯),
ヌカルマ(渟間)の義(志不可起),
ヌメリ(滑)の義(名言通),
ヌルミヅタメ(滑然水溜)の義,あるいはイネミヅタメ(稻水溜)の義(日本語原学),
水底の泥のさまからヌメ(黏)の義(箋注和名抄・日本語源),
ヌはヌルの反で,ヌルキ水の義(名語記),
雨の降らぬ間も水の有るところから(和句解)

等々あるが,「ぬ(沼)」にも語源説があり,

ヌメル(粘滑)の義(大言海),
ナグの反。波の立たない意(名語記),
粘り気あるいは水気のある意を表す語根(国語の語幹とその分類),
朝鮮語(nop)(沼)と同源か(『岩波古語辞典』)

として,こう付設する。

「上代には,沼を語としてヌマのほかにヌも用いられていた。しかし,ヌマが単独でも用いられたのに対し,ヌは,『隠沼乃(こもりぬノ)』(万葉ニ・二〇一)や『隠有小沼乃(こもりぬノ)』(万葉一二・三〇二二)のように,ほとんどが複合語中に見られるところから,ヌはヌマの古い語形と思われる。」

これから見ると,「いけ」は,人工的と見える。対して,「ぬま」は,明らかに自然であり,使っている人には,歴然とした区別があったに違いないのである。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BC
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

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