2017年05月01日

山の神


「山の神」は,たとえば,『広辞苑』では,

「山を守り,山を司る神。民間伝承では,,秋の収穫後は,知覚の山に居り,春になると下って他の神となる」

とあり,さらに,

「自分の妻の卑称」

とある。後者の言い方も,最近はあまり聞かないが,そのニュアンスは,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/36ya/yamanokami.htm

に,

「山の神とは山を守る神のことだが、山神は女性神として崇められることが多いことから、(自分の)妻という意味で使われる。山の神というと一見聞こえがよいが、山神が恐れられるものであったように、家庭の山の神も長く連れ添い、口うるさくなった(恐ろしい)妻という意味合いで嘲ったり、からかって言うときに使う。」

とあるのがよく伝わる。『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると,「山の神」は,

「山を支配する神。全国にみられる民間信仰で、多くの土地では山の神は女神だという。しかし男神という所もあり、また夫婦(めおと)神としている例もある。山の神を女神としている地方では、この神は容貌がよくないので嫉妬深く、女人が山に入るのを好まないという。山の神信仰については、山仕事をする木こり、炭焼き、狩人(かりゅうど)などと、農作をする人々との間では多少の違いがある。農民の信ずる山の神は、春先山から下り田の神となって田畑の仕事を助け、秋の収穫が終わると山へ帰り山の神となるという。山仕事をする人々は、山の神が田の神になるというようなことはいわない。」

とある。この「嫉妬深い」といったところが,古女房のメタファに使われたものだろうか。同じ「山の神」でも農民と山民では少し違うようだ。その辺りは,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E3%81%AE%E7%A5%9E

に詳しく,

「農民の間では、春になると山の神が、山から降りてきて田の神となり、秋には再び山に戻るという信仰がある。すなわち、1つの神に山の神と田の神という2つの霊格を見ていることになる。農民に限らず日本では死者は山中の常世に行って祖霊となり子孫を見守るという信仰があり、農民にとっての山の神の実体は祖霊であるという説が有力である。正月にやってくる年神も山の神と同一視される。」

しかし,

「猟師・木樵・炭焼きなどの山民にとっての山の神は、自分たちの仕事の場である山を守護する神である。農民の田の神のような去来の観念はなく、常にその山にいるとされる。この山の神は一年に12人の子を産むとされるなど、非常に生殖能力の強い神とされる。これは、山の神が山民にとっての産土神でもあったためであると考えられる。」

とある。それぞれの生業にとっての必要性の違いから来ているのだろう。

「実際の神の名称は地域により異なるが、その総称は『山の神』『山神』でほぼ共通している。その性格や祀り方は、山に住む山民と、麓に住む農民とで異なる。どちらの場合も、山の神は一般に女神であるとされており、そこから自分の妻のことを謙遜して『山の神』という表現が生まれた。このような話の原像は『古事記』、『日本書紀』のイザナミノミコトとも一致する。」

とあるとし,妻への転用については,

「山の神は女神であり、恐ろしいものの代表的存在であったことから、中世以降、口やかましい妻の呼称の一つとして『山の神』が用いられるようになった。」

としている。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ya/yamanokami.html

も同じ説をとり,

「山の神は文字通り、山を守り、支配する神『山神』のことであった。 山神は、女性神として 信仰されることが多く、恐ろしいものの代表的存在であったことから、中世以降、 口やかましい妻の呼称として『山の神』と言われるようになった。 『古事記』に「大山津見 神(おほやまつのかみ)の娘『石長比女(いはながひめ)』が、山の神の一員であったという説話があり、その説話に基づくとする説もある。しかし,山岳信仰は上代からあり、個の具体的話に断定できるものではないため、山岳信仰全体から見て,『恐れられた神』『女神』であったことを中心に考えるのが妥当である。」

とする。その他,『日本語源広辞典』は,恐ろしい存在という説以外に,

「イロハ歌,有為のオクヤマから,山の上で,奥(カミサン)」
「『里の神(若くて美しい)』に対して,山の神(年上で醜女。悋気で,気難しく,ふてくされて,真っ黒で,大きく怖い存在)」

の二説を取る。「怖い」のか「強い」のかは別にしても,似たニュアンスである。『日本語源大辞典』は,

恐ろしいものの代表として山の神が挙げられ,山嫗がまた山の神であるところから,この両概念が混じったものか(上方語源辞典=前田勇),
多く山の神は女性であり,また山姥の子育て伝説など,山との関係が深かったところからいうか(山の人生=柳田國男),
取り乱した姿をたとえていうか(俚言集覧),
人の妻の敬称としてのカミサマ(上様)を同音の神様にしゃれ,それを山のかみにしたのか。山の神は中世には機嫌のむずかしい醜い嫉妬深い神とされていたところから(国語学論考=金田一京助)
農村では山の神をまつるのは女性がつかさどっていたところから(すらんぐ=暉峻康孝),
醜女のイワナガ姫が山の神の一員であったとの『古事記』の記事から(日本古語辞典=金田一春彦),

等々諸説載せるが,個人的には,

人の妻の敬称としてのカミサマ(上様)を同音の神様にしゃれ,それを山のかみにした,

という説がいい。因みに,山姥については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%A7%A5

に詳しいが,山姥の性質は二面的で,あ山姥は人を取って喰うとする恐ろしい化け物である一方,人間に福を授ける存在でもある。

「両義性を持った山姥の原型は、山間を生活の場とする人達であるとも、山の神に仕える巫女が妖怪化していったものとも考えられている。」

とある。なお,「山姥の子育て」とは,『日本昔話事典』には,

「山姥が子を産み育てるという言い伝え。相模の足柄山の金太郎の話が有名である。しかし金太郎についての伝承は,足柄山にのみ限ったことではなかった。(中略)各地で山姥が火を焚いて子をあたらせたのを見たといい,また今年の冬は特別に暖かいから,山姥が子を育てているなどといい伝える。育てた場所も,山姥石,児生み沢,姥ケ谷,乳母懐などとよばれて,各地に残っている。」

とある。

うは山.jpg

(佐脇嵩之『百怪図巻』より「山うは」)


参考文献;
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%A7%A5

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

ラベル:山の神 山姥
posted by Toshi at 05:00| Comment(1) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして! 『日本語の意味』について駆け廻っていた(サイト検索)らたまさかに引っ掛りました。っと言葉遣いが不丁寧(わるく)て申し訳ありません!! 何せ″性根からがしてガサツ!!” なもんで・・・。ご容赦くださりましませ。

全文を未だ読破させて頂いたわけではありません。がいろいろと勉強をさせて頂きました。“ありがとうございました”。

何れ“何処ぞで引用させていただく機会があるやもしれません”。が予めご承諾賜れますれば是幸いです。今後とも何卒よろしく良しなにお願いいたします。と云(ゆ)う事で。ではでは。                     敬具
Posted by 朱田 月尾(げっぽ) at 2017年05月07日 04:43
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