2017年05月02日

すばらしい


「すばらしい」は,

素晴らしい,

と当てるが,もちろん当て字。今日,

大層優れていて,無条件にほめたたえられるありさま,

といった最大級の褒め言葉として使われているが,古くは,よくないことに使い,

ひどい,とんでもない,

という意味とされている(『広辞苑』)。「すてき」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448708392.html?1491250588

で触れたように,「すばらしい」は,

悉皆(しっかい)→シッカリ→スッカリ→スッパリ→スッパラシ→スバラシ,

へと転じたとする語源説がある。一般には,語源は,

「ス(接頭語)+晴らし」

とされる。そして,

「晴れやかなできばえ,みごと,程度甚だしい,などの意です。江戸期の言葉です」

とある(『日本語源広辞典』)。しかし,「素晴らしい」が当て字なのに,その当て字を前提に解釈しているきらいはないか。『江戸語大辞典』には,

驚くべきことである,偉い(文化十年・人間万事虚誕計 女ぎらひの虚「弁慶女にあふ事へその緒きってたった一度ス,なんとこいつはすばらしいぢゃァねえか」)
甚だしい,ひどい(嘉永六年・切られ与三四幕目「お主もこの女故にゃァ,すばらしい苦労をして今の心情」),
聞いてきれる,しゃらくさい(安永九年・多佳余宇字「客三人 おさらばァ,引と出て行女郎三人 ムヽすばらしひ,若い者 モウ一ッぺん塩華」),

とあり,必ずしも,(『広辞苑』のいうような)悪い意味だけではない。「すばらしい」の語源について,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/su/subarashii.html

は,

「晴らしいは、現代では非常に好ましいさまに用いられるが、近世江戸には『ひどい』『とんでもない』といった意味で、望ましくない意味を示す語だった。『狭くなる』『縮まる』という意味の動詞『窄る(すばる)』が形容詞化され、『すばらしい(すばらし)』になったと 考えられる。『すばる』は『すぼる』とも用いられ、形容詞化された『すぼらし』は『細く貧弱である』という意味で、『みすぼらしい』の語源となっている。やがて、『すばらしい(すぼらし)』は接頭語『す』と『晴らし』の語構成と誤解され,現在使われるような好ましい意味に転じた。」

と,「ス(接頭語)+晴らし」説を批判している。「すぼる」語源説は,『笑える国語辞典』

https://www.waraerujd.com/blank-150

も,

「『素晴らしい』は、漢字を見ると、「晴れやかな気分にさせられる」といった意味が浮かぶが、これは後世の当て字だそうだ。『すばらしい』は、縮んで小さくなるという意の『窄む(すぼむ)』や、『みすぼらしい』などと使う、すぼまって狭いという意の『窄し(すぼし)』と同源であり、もとは「あきれた」とか「ひどい」という意味で使われていたのだという。」

とするし,

http://www.yuraimemo.com/977/

も,

「その語源を調べてみると、『すばる』という言葉がでてきました。この『すばる』は『すぼる』とも用いられ、形容詞化した『すぼらし』が、『みすぼらしい』が語源だと考えられております。(すぼらしは、細く貧弱であるといった意味)」

とするし,さらに,

http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%B4%A0%E6%99%B4%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%84

も,

「狭くなる・縮まるという動詞の『窄る』が形容詞化されて、『すばらしい』となったとされる。意味も『みずぼらしい』・『ひどい』といった、今とは反対の意味で用いられていた。しかし語源が忘れさられ、いつしか接頭語の「す」と「晴らし」の語構成と誤解され現在では好ましい意味として使われるようになったとされる。」

等々,「すぼる」語源説が大勢派だ。しかし,「すぼむ(窄む)」は,「つぼむ(窄む)」の,

tu→su,

の子音交替である。『日本語の語源』に,

「『ツ』の古語は[tu]であった。二つの子音が結合している破擦音のツ[tsu]は子音交替が困難であるが,直音の『ツ』は破裂運動を摩擦運動に変えることによって容易に『ス』に移行した。」

とある。そして,「つぼむ」

は,

つぼ(壺)を活用させた語,

である。つまり,「小さくすぼむ」意である。その意味では,「すぼむ」説は取れない。第一,江戸時代,かならずしもマイナスの含意だけでなかったのは,上記で見たとおりだ。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448708392.html?1491250588

で触れたとおり,とすると,『日本語の語源』の,

悉皆(しっかい)→シッカリ→スッカリ→スッパリ→スッパラシ→スバラシ,

という変化が注目される。まず,「すばらし」について,

「『たいそう立派である,たいそう盛大である,たいそうすぐれている』という意のスバラシ(素晴らし)は,スッパリの形容詞化で,スッパラシの転音であろう。」

とし,「スッパリ」は,「シッカリ」から来ている。「シッカリ」は,「悉皆」から来ている,という。

「シッカイ(悉皆)は『すっかり。みな。ことごとく。全部』という意味の漢語である。…仏教の経典に多用されており,仏教用語として流布されていた言葉である。…シッカイ(悉皆)は語尾に子音(r)が添付されてシッカリになり,語尾の『シ』の母音交替(iu)でスッカリになった。さらに多くの語形に転音・転義したので,…整理しておくと,①全部(すっかり),②完全(すっかり),③確実(しっかり),④多数・多量(しっかり),⑤大変(しっかり)に分類されよう。」

「スッパリ」は,「スッカリ」から転音し,上記②の,

まったく,すっかり,

の意味を伝えている。「シッカリ」は,「スッカリ」に転化し,

ことごとく,まったく,

の意となり,「スッカリ」は,「スックリ」に転ずると,

すべて,みな,のこらず,

の意となり,「スックリ」は,その意を残したまま,「ソックリ」に転じて,

全部,

の意となる。また「スックリ」は,「スッキリ」に転じてもいる。

「シッカイ」から転じた「シッカリ」は,「カ」が子音交替(kp)で,「シッパリ」に転じ,「ジッパリ」へと転じ,更に子音交替(r∫)を遂げた「ジッパシ」は,「ジッパ」へと省略され,

すぐれている,みごとである,欠点がない,

という意の「リッパ」に転音する,という。

こういう転訛の背景の中で,「すばらしい」をみると,上記の,

①全部(すっかり),②完全(すっかり),③確実(しっかり),④多数・多量(しっかり),⑤大変(しっかり),

の,

「五義を総合して最高のほめ言葉になった」

という,『日本語の語源』の言い分が,改めて注目される。つくづく,言葉は生きている,生きているとは,音韻変化に着目すべきだと,感心し直した次第である。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)


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