2017年05月07日
わらう
「わらう」は,
笑う,
嗤う,
哂う,
咲う,
等々と当てる(『大言海』は,哄う,莞う,咍うとも当てている)。比喩的に,
つぼみが開く,
意にも使うし,
膝が笑う,
というように,機能しなくなる意でも使う。『岩波古語辞典』には,「わらふ」について,
「愉快さ・面白さに顔の緊張が破れ,声を立てる意。類義語エミは,微笑する意」
とある。『大言海』は,
「顔の散(わら)くる意という。笑は,をかしき也,嗤は,わらひぐさにする也,咲は,笑の古字,哂は,わっと笑う,莞は,ほほえみ笑ふ,咍は,あざけり笑う」
と,字源に触れているが,『日本語源広辞典』は,
「ワラ(割・破る)+ふ(継続)」
で,
「顔の表情が割れ,そのまま継続・反復する状態をいいます。つまり,顔の表情が割れ続けるが,ワラフなのです。」
とする。いずれも,破顔,つまり表情の崩れを指している。『日本語源大辞典』には,多くその系統が並ぶ。
顔がワラ(散)クル意(大言海),
相好が崩れ,破顔する義で,ワルル(破)からか(国語の語幹とその分類),
口を大きく開く意の,ワル(割)から(名言通・笑いの本願=柳田國男),
が,その他にも,
ワイワイ,ワッなどという音声のワに,ラフの活用を添えた語(松屋筆記),
ヱラギイフ(悦噓言)の義(日本語原学),
ワラはヱラ(噓)の転。ヱラ(歓)に通じる(日本古語大辞典),
エラフ(悦楽反)の義(言元梯),
サラハ(童)のコピの義か。あるいはヨロコブ(喜)の義か(和句解),
子どもの生まれると人は優しくなり,それが面に表れるところから,ワラウ(童得)の義(柴門和語類集),
ワレ-アフの義。ラはレアの反(国語本義),
等々載せる。基本,語呂合わせは取らない。音韻変化とすれば,割れ,破れ,散(わ)る,という眼前の表情変化から来たと見るのが妥当ではあるまいか。漢字では,『大言海』も触れているが,笑いごとに意味を変えている。
「笑」は,喜びて顔を解き歯を啓くなり。転じて花の開くを花笑といふ。また冷笑はにがわらひなり。
「嗤」は,あざけりわらふなり。
「哂」は,音シン。微笑なり。
とある(『字源』)。「笑」の字は,
「夭(ヨウ)は,細くしなやかな人。笑は『竹+夭(ほそい)』で,もと細い竹のこと。正字は『口+音符笑』の会意兼形声文字で,口を細くすぼめて,ほほとわらうこと。それを誤って咲(わらう→さく)と書き,また略して笑を用いる。」
とある。「咲」の字を見ると,
「『口+音符笑』が,変形した俗字日本では,『鳥なき花笑う』という慣用句から,花がさく意に転用された。『わらう』意には笑の字を用い,この字(咲)を用いない。」
とある。「哂」の字は,
「西は,ざるを描いた象形文字で,すきまから水や息が漏れ去る意を含む。哂は『口+音符西』で,くちもとから息が漏れること。」
とある。「嗤」の字は,
「『口+音符蚩(シ)』。蚩(シ)は無知な動物を意味するが,ここでは単なる音符である。葉を剥いて息を出してわらう声を表す擬声語。」
とある。われわれには,「わらふ」と「ゑむ」しかないのだか。
ちなみに,「わらう」には,特殊な意味があり,
舞台の上から物を片付けること,
を「わらう」というらしい。
http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/meaning/warau.htm
には,
「元々『わらう』とは、道具の、ある部分が緩んでいる様子を指した言葉でした。縛った部分が緩くなってガタガタとしている、また、釘が緩んで道具が傾いでいる様子を「わらう」と言ったのです。『膝がわらう』などと同じですね。
わらっている道具は直さねばならないですよね。『その道具わらっているから片付けろ』という言葉が後に『わらう』という言葉に略されていったようです。」
とある。それがテレビ業界にも伝播したらしく,
「邪魔なものを片付ける」
という意味で使われているらしい。たとえば,
「そこの椅子わらって」
というように。その謂れには,
「取り払う」が省略されて「はらう」になり、更に音が変換され「わらう」になった,
という説もあるらしい。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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