つぼ
「つぼ」は,古くは,
つほ,
と清音であったらしい。
壺,
の字を当てるが,『広辞苑』は,
自然にくぼんで深くなったところ,
の意味を最初に載せる。それに準えて,
容器,
の意味になったものか,その逆に,壺から,それをメタファーに,窪んだ土地をいったものかは,これだけではちょっと分からない。しかし,次いで,
あるものに差し込む部分,
の意味が載り,
つぼがね,
笙の管を立てる椀型の共鳴部分,頭(かしら),匏(ほう),
という意味が載る。「つぼがね」は,「壺金」とあて,
開き戸の釣り元に開閉のために打つ金具。軸となる肘金(ひじがね)を受ける壺状の環のついたもの,つぼかなもの,ひじつぼ,
である。
http://sugiitakunn.blog.shinobi.jp/%E3%81%B2/%E8%82%98%E5%A3%BA%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%EF%BC%88%E3%81%B2%E3%81%98%E3%81%A4%E3%81%BC%E3%80%80%E5%86%99%E7%9C%9F%E5%85%A5%EF%BC%89
をみると,肘壺の上の金物と下の金物を分られていて,
「下の金物が、枠や、柱につき,上の金物が、建具に付く真ん中の座金のような金物は、蛇の目と呼ばれる金物」
と呼ばれたようである。「ひじがね」は,
戸の開閉に用いる金具で,肘形に曲げて作って開き戸の枠に取り付け,柱にある肘壺(ひじつぼ)にさし込んで蝶番(ちょうつがい)のような役をするもの,
となる。こうみると,「つぼがね」とは,窪みのことを指す。笙の,「笙の管を立てる椀型の共鳴部分」というのは,
匏,
と呼ばれるが,雅楽に用いる管楽器の笙は,
「匏(ほう)の上に17本の長短の竹管を環状に立てたもので、竹管の根元に簧(した)、下方側面に指孔がある。匏の側面の吹き口から吹いたり吸ったりして鳴らす。奈良時代に唐から伝来。」
とされる。「匏」とは,「ひさご」の意味で,
http://saisaibatake.ame-zaiku.com/gakki/gakki_jiten_show2.html
を見ると,笙のさまざまな変型があり,笙の匏(ふくべ)の部分が,「匏」と呼ばれている謂れがわかる。ここでも,壺は,
窪み,
に準えて言っていることがわかる。そして,
坪,
とあてる「つぼ」も,また,ここから来ている。『広辞苑』の「坪」の項では,
壺,
とも書く,とある。『大言海』の「坪」の項には,
「殿中の間(あはひ),或いは,垣の内の庭など,一区の窪まりたる地の称(常に壺の字を借書す)」
とある。これも,窪みのアナロジーである。さらに,『広辞苑』は,
ここと見込んだ所,
という意で,
矢を射る時ねらうところ,
すぼし,
急所,かんどころ,
灸で据えるべき場所,灸点,
と意味を載せる。ただ,この「ツボ」は,窪みとつながらず,少し由来が違うのかもしれない。という気がする。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/tu/tsubo.html
は,
「口と底がつぼまっていることから,『つぼむ(窄む・蕾む)』に由来するといった説があるが,『つぼむ』は『つぼ』の動詞化と考えられているため,この説は採用しがたい。壺は丸くふくらんでいるので,『つぶら』『粒』など丸いものを表す『つぶ』に通じる。しかし古形は『つほ』なので,濁音の『つぶら』から清音の『つぼ』が生じ,濁音に戻ったという点で疑問が残り,同語系と考えるにとどまる。」
とし,「急所や勘所,灸などの治療で効果のある体の『ツボ』は別に項を改める」としているので,別系統かと予想できる。『日本語源広辞典』は,
「つぼむ(すぼむ)」
説を取っているが,「すばらしい」「みすぼらしい」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/449516842.html?1493667734
http://ppnetwork.seesaa.net/article/449628311.html
で触れたように,「すぼむ(窄む)」は,「つぼむ(窄む)」の,
tu→su,
の子音交替である。『日本語の語源』に,
「『ツ』の古語は[tu]であった。二つの子音が結合している破擦音のツ[tsu]は子音交替が困難であるが,直音の『ツ』は破裂運動を摩擦運動に変えることによって容易に『ス』に移行した。」
とある。そして,「つぼむ」あるいは「つぼる」は,
は,
つぼ(壺)を活用させた語,
である。その意味で,壺があっての語だから,語源とはならない。『日本語源大辞典』は,
口がツブラ(円)であるところから(東雅,萍(うきくさ)の跡・玄同放言・和訓栞・言葉の根しらべ・日本古語大辞典・蝸牛考=柳田國男),
口がつぼんでいるところから(国語の語幹とその分類・日本語源・上方語源辞典),
つぼむ(莟む)の義(万葉集類林・名言通),
ツツヒロの反(名語記),
土でつくるところから,ツは土の義,ボはクボムの義(和句解),
ウツホ(空)の義(言元梯),
アツボ(虚洞)の義か(和語私臆鈔),
等々載せるが,古形が「つほ」であると考えると,
うつほ→つほ,
に惹かれる。矢を盛って腰に背負う宙空の籠を,
うつぼ(空穂・靫),
と呼ぶが,想像されるように,
うつほ→うつぼ,
と転じたとみられる。さらに,「うつほ(空)」は,
ウツホラ(空洞),
の約で,
うつお(空),
つまり,中かがからである,意である。となると,
うつほら→うつほ→うつぼ,
あるいは,
うつほら→うつほ→うつぼ,
と
うつほら→うつほ→うつお
は別系統,でもありえるように思えてくる。なお,
勘所,
の意のツボ,
壺にはまる,
ツボを押さえる,
のツボは,
壺,
の字を当てたりするが,由来が違う。また,
思う壺,
の壺も,由来を異にするようだ。これは,項を改めることにしたい。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%99
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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