「きら」は,
キラキラと見えるもの,また光のきらめき,
の意であるが,また,その状態から,
雲母(うんも),
を指す。あるいは,モノとしての雲母から,「きら」という言葉ができたのかもしれない。雲母は,
きらら,
とも呼ぶ。『大言海』には,
「煌煌(きらきら)の約。うらうら,うらら。きはきは,きはは」
と載る。因みに,「雲母」の項,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B2%E6%AF%8D
に,吉良氏の,
「『吉良』の語源は、三河国守護足利義氏の末裔の氏族が支配した吉良荘(愛知県西尾市及び幡豆郡)から『きら』すなわち雲母が採れた事である、とされる。」
とある。
(雲母)
ところで,「きら」には,例の,
綺羅星の如く,
と使われる,「綺羅」と当てる「きら」がある。『岩波古語辞典』には,「綺羅」について,
「『綺』はあやぎぬ,『羅』はうすぎぬ」
とあり,『大言海』には,
「綺(かんはた)と,羅(うすぎぬ)」
とあり,『デジタル大辞泉』は,
「綺」は綾織りの絹布、『羅』は薄い絹布の意」
としている。いずれも当時最大級の「美しい衣装」の意である。
綺羅を磨く,
という言い回しは,華美を凝らす,という意であり,
綺羅星,
は,「綺羅,星の如く」で,「暗夜にきらきらと光る無数の星」を意味する。
ところで,『日本語源広辞典』には,「綺羅」について,
「中国語で,『綺(あや絹)+羅(うす絹)』が語源です。美しい衣装や,美しい衣服を着た人のことをいいます。キラは,キラキラ,キラメク,という日本語の語源です。キラキラ星などといいます。」
とある。しかし,「綺羅」は確かに華美ではあっても,輝くというのには程遠い。「きら」は擬態語ではあるまいか。『大言海』は,「きら」に,
華麗,
の字を当て,
「煌煌(きらきら)しき意」
とする。『大言海』には,「きらきら」は,
呵呵,
と当てて,「笑ふ聲」の意と,
煌煌,
と当てて,「物の煌めく状」を指す意と載る。
「からから」は,「ころころ」とも通じ,高笑いを指す,とあるが,『擬音語・擬態語辞典』には,
「きゃあきゃあというような笑い声」を指した例もある,とあるので,嬌声に近いのかもしれない。「きらきら」の形容詞形は,
きらきらし,
だが,『大言海』には,「きらきらし」は,
端麗,
端正,
と当てて,
「(キラキラは,清らきよらの約なるべし)容姿(すがた),厳かにて,麗し,威厳,正し」
の意味を載せ,
煌煌,
と当て,
煌めく状,
の意とする。後者から,光り輝く意の,
きらめく,
になるし,前者からは,『岩波古語辞典』に載る,「立派で輝くばかりである意(古くは容姿について言うことが多い)」である,
きらぎらし,
に通じるようである。「きらきらし」について,『日本語源大辞典』は,光り輝く意と,容姿,大度が整っている意を合わせて,
「語根『きら』は,物が瞬間的に輝くさまを表し,『きらきらし』はそれを重ねて形容詞化したもの。人物の容姿・態度・性格,建物の様子などについて,その美しさを表すのに用いられる。『書記-允恭二三年三月』『霊異記-中・三』で『佳麗』『端正』の訓に『きらきらし』があてられているしころなどから,整った荘厳な美しさと考えられる。」
と,語源について,書く。こうしてみると,この「きらきらし」の「きら」は,
綺羅,
ではないか,と思えてくる。『擬音語・擬態語辞典』は「きらきら」の項で,
「輝く意の『きら』は,『きらめく』『きかつく』『きらびやか』や,『ぎんぎらぎん』等の語が派生している。但し,『綺羅』は美しい衣服のことで,『綺羅,星の如し』は,美しい服の人が居並ぶ様子。『綺羅星』で輝く星とするのは誤解から生じた。」
とし,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B6%BA%E7%BE%85
も,「綺羅」の項で,
「綺は綾織りの絹織物の意。羅は薄織りの絹織物の意。美しい衣服全般を指す。上記の意味から、美しい衣服で着飾っている人を指す。衣服だけでなく、権力者や優れた人に対しても用いる。上記のような人々が星のように多く集まっているのを形容して、『綺羅、星のごとく居並ぶ』と言う。『綺羅星のごとく』と綺羅と星をつなげて言うのは誤用であるが、現在では『綺羅星』と独立した単語として用いられる例も多数見られる。」
しかし,どうも,「きら」は,
擬態語としての「きら」,
と
綺羅の「きら」と,
とが,まじりあってしまったのではないか。「きらきらし」に,
容姿,
の意味があり,「きらぎらし」では,
容姿が整って美しい,
光り輝いている,
きちんとしている,
という意味が重なっている。「綺羅,星の如く」とは,
輝く意,
と
威厳の意,
とが含まれていておかしくはない。誤用というより,必然である。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B2%E6%AF%8D
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
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