2017年05月15日

なげく


「なげく」は,

嘆く,
歎く,

と当てて,

(満たされない思いに)ため息をつく,嘆息する,
世の風潮などを憂えていきどおる,慨嘆する,
ひどく悲しむ,悲しんで泣く,悲嘆する,
切望する,哀願する,

といった意味がある(『広辞苑』『デジタル大辞泉』)。どうやら,

(満たされない思いに)ため息をつく,

という状態表現にすぎないものに,意味や,価値を加えた価値表現へと転じ,そこまでは主体表現なのに,ついには,

哀願する,

という相手への感情表現にまで転じた,と想定される。『大言海』には,

長息(ながいき)すの意

とある。

心に思ひ結ぼほるることありて,大息す,溜息をつく,

という意味が,どうやら,原意のようである。その状態表現が,

憂へて息づく,愁へ哀れむ,

という(その状態を憂いと)価値表現へと転じ,最後に,

切に願う,

へと転じる。そのとき,主体の憂いではなく,相手(対象)のそれへと転化されている。『岩波古語辞典』も,

「ナガ(長)イキ(息)の約」

としているが,

「(感にたえず)長い息をする」
「悲しみを大度や言葉の根しらべに表す」
「嘆願する」

と意味の変化が見える。因みに,

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%AA%E3%81%92%E3%81%8D

は,「なげき」の原義を,

「思い通りにならず、ため息をつくこと。その様子。」

とする。それが江戸時代,

「嘆願すること」

という意味で使われた,としている。

「なげく」の語源は,ほぼ「ながいき」につながるが,『日本語源大辞典』によると,

ナガイキ(長息・永息)の義(冠辞考・古事記伝・和訓集説・雅言考・俚言集覧・菊池俗語・言元梯・名言通・和訓栞・大言海・岩波古語辞典),
ナガ(長)と呼吸する意のイク(生・息)とが複合して約されたもの(小学館古語大辞典),
ナガイキハク(投息吐)の義(日本語原学),
ナゲは投の意(国語本義),
ナク(泣)の延(国語の語幹とその分類),

と諸説,微妙な違いはあるが,長嘆息,の意と見ていい。長息,大息は,

溜息,

につながる。「溜息」は,

失望・心配または感心したときに長くつく息,

である。ほぼ「なげき」に重なる。『大言海』は,

「溜めて,後に長くつく息。(思ひつめたる後などに)又,堪へきれずなれる時,鬱積したる息を漏らすこと」

とある。吐く方に注目すると,

ながいき(長息),

で,溜めていたという息に注目すると,

溜息,

になる,ということか。

『日本語の語源』は,

「イタムイキ(傷む息)が語頭を落としたタムイキがタメイキ(溜息)になった。」
「イタムイキ(傷む息)はタメイキ(溜息)に変化したが,溜息をまたナゲイキ(長息)といった。ガイ[gai]の部分では,直音音節『ガ』の母韻[a]と母韻音節『イ』の母韻[i]とが接触することになるが,ゆっくりと通常の八音をしている間は,二つの母韻は共存される。
 早口に発音するときには,大開き母韻[a]と小開母韻[i]との中間の半開き母韻[e]に融合され,ナゲキ(嘆き)になった。融合される母韻は常に半開き母韻[e]・[o]である。ナゲキを動詞化してナゲク(嘆く)という。」

として,

イタムイキ→タメイキ,

ナゲイキ→ナゲキ,

と,元々「イタムイキ」から来た,とする。音韻変化は,疑わないが,

長く吐く息,
長く溜めて吐く息,

という状態表現が価値表現へと変じたとすると,最初から,価値表現とするのには,疑問がある。

ナガクハクイキ→ナガイキ→ナゲキ,
(長く)タメタルイキ→タメイキ,

と,状態表現の中での音韻変化が先のように思うが,まあ素人の臆説である。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)


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