2017年05月16日

ささやく


「ささやく」は,いちど,「つぶやく」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/448736109.html?1491336613

で触れたことがあるので,多少重複するが,

囁く,
私語く,

と当てる。

声をひそめて話す,
ささめく,
ひそひそと噂をする,

という意味ではあるが,メタファーとして,

梢にささやくく風の音,

というような使い方もする(『広辞苑』『デジタル大辞泉』)。「ささめく」は,

声をひそめて話す,

という意味だが,

心が乱れて騒ぐ,

という意味もある。『日葡辞典』に,

ココロガササメク,

と載るらしい。『岩波古語辞典』には,「ささめき」の項で,

「ササは息まじりの低音を写した語」

とある。で,濁音が付いて,

さざめき,

となると,

ざわざわと音や声を立てる,がやがやいう,

という意味になる。因みに,『擬音語・擬態語辞典』には,

ささっ,

について,

「鎌倉時代から『ささ』の形でみえる。本来は弱い風が吹いて立てる音や,水が軽やかに流れる音を表した。」

とあり,「ざざっ」と濁ると,その音が強まるニュアンスになる。『岩波古語辞典』は,

ささやく,

も,「ササメキと同根」とみなす。つまり,擬音語「ささ」から来ている,とみなしている。しかし「ささめく」を接頭語「ささ」と見なすと,「細波(ささなみ)」や「細雪」の「ささ」で,

細かいもの,小さいものを賞美していう,

と『岩波古語辞典』にはある。『大言海』は,「ささやく」を「ささめく」と同根とし,「細小(ささ)」の項で,
 
「形容詞の狭(さ)しの語根を重ねたる語。孝徳紀,大化二年正月の詔に『近江の狭狭波(ささなみ)』とあるは,細波(ささなみ)なり。神代紀,下三十六に,狭狭貧鈎(ささまぢち)とあり,又陵墓を,狭狭城(ささき)と云ふも,同じ。いささかのサカも,是レナリ。サとのみも云ふ。狭布(けふ)の狭布(さぬの),細波(ささなみ),さなみ。ササメク,ササヤク,など云ふも,同じ」

として,擬音語ではなく,「狭(さ)」を取る。ただ,『大言海』は,濁った,「さざ」を,

「水の音なり,さざらぐ,さざるる,さざら波,さざれ波など。これより出ず。万葉集に,沙邪禮(さざれ)浪とあれば,第二のサは,濁る。水をざっとかけると云ふも,是れなり」

と説き,もう一つ別の「さざ」の項は,風の音として,「さと(颯と)」つなげ,「さと」で,

「サは,風の,軽く吹きて,物に觸るる音。重ねてサザとも云ふ。字彙『颯(さつ),風聲也』和漢,暗合す。」

ちなみに,「さっと」という言い方をするが,これは,

「サザトの下略。」

とある。「さ」が風音なのに,「ささやく」だけは,「狭」とするのは,形の細かさを言う「ささ」と音の「ささ」とは違うのではないか,と「少し解せない。

『日本語源広辞典』は,「ささやく」は,

「細,小の意のササ+動詞を作る語尾ヤク」

で,「音かそのまま後に使われた例」とする。だから,「ささめく」も,

「ササ(細・小の意)+めく」

としながら,「さざめく」は,

「さざ,ザザ(擬声・波の音)+めく」

としている。聴音なのに,「ささ」は,「細」で,「さざ」は「擬音」とするのは,矛盾ではないか。たしかに,『日本語源大辞典』に「ささ(細・小)」について,

(後世は『さざ』とも)狭い意の「さ」を重ねた語,主として,名詞の上に付けて,『こまかい『小さい』『わずかな』の意を表す』

とする。語源は,

形容詞サシ(狭)の語根を重ねた語(大言海),
細小の義(古今要覧稿),
スキスク(透々)の義(名言通),

とあるが,基本,「狭」をつける言葉は形の「細小」を指している。『日本語源大辞典』は,「ささめく」について,

「『ささ』は擬声語で,類義語『さざめく』は『さざめく』ともいい,がやがやと大声をあげる意であるのに対して『ささめく』は,ひそひそと小声で話す意であるという違いがみられる。」

とし,「ささやく」の項で,

「『ささ』は擬声語で,『ささめく』が音が聞こえることに主意があるのに対して,『ささやく』は話し合う行為に主意がある」

と,ともに「ささ」を擬声語とする。でないと,「音」に対する感性が合わない。

念のため語源説を挙げておくと,

「ささめく」は,

ササは細小の意(大言海),
ササメゴト(小言)の略語(類聚名物考),
ササは息まじりの低音を写した語(岩波古語辞典),
ササヤクと同根で,ササはかすかに耳立つ音を表す擬声語(角川古語辞典)

とあり,「さざめく」は,

サザは浪野とで,それが楽の音声に似るところから転義した(俚言集覧・大言海),
サラサラメクの義(言元梯),
サハサハメの義。人そよめくの意(類聚名物考),

とある。さらに,「ささやく」は,

ササは細小。ヤクはツブヤク,カガヤクなどと同じ(和句解・大言海),
サは少の意。ヤクはイフの転声か(和語私臆鈔),
ササヤカ(小)の義(名言通),
ササメクと同根(岩波古語辞典),
ササは擬声語,ヤクはツブヤクなどのヤクと同じ接尾語(角川古語辞典),

とあり,不思議と,「ささやく」になると,「細小」の「ささ」の意となる。これは,類義語「つぶやく」との関連かもしれない。「つぶやく」が,

ひとりごと,

なのに対して,「ささやく」は,相手がいるが,いずれも,

小声なのにかわりはない。その「つぶやく」の「つぶ」が「粒」から来ているからなのかもしれない。「つぶやく」については,項を改めたい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

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