2017年05月23日

昭和の香り


江角健治個展(報美社主催)に伺ってきた。

http://gallery-st.net/

江角展.jpg


江角さんの個展には何度か伺ったし,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/397355525.html

で触れたこともある。なかなかユニークな,独特の世界観のある絵である。

今日ざっとひとめぐりしたとき,ある感慨があった。前にも感じたはずだか,スルーして気に留めていなかった。それは,誤解を恐れずに言うと,

昭和の香り,

とでもいうべきものだ。ある懐かしさを伴う,と言ってもいい。まあ,個人的な感慨かもしれない。作家がどれほど意識的なのかはわからないが,ちょうど,

望遠鏡,

というより,昔風に,

遠眼鏡,

という言い方が似つかわしいが,それで見ている感じである。距離は,

作家と対象との隔て,

つまり,それだけ対象に対する距離がある,ということだ。それは,リアルさからの距離と言ってもいい。さらには,この距離は,

時代(あるいは時間)の隔り,

つまり,時代(時間)の層を貫いている隔たり,でもある。そして,観る側は,その逆を辿って,この絵を通して,時代を遠くからのぞき見る格好になる。この隔てが,ある意味,作品を,

メルヘンチック,

にする。あるいは,

現実の丸め方,

といってもいい。

はや,平成になって三十年近くも経っているので,敗戦後の焼け野原から,四十年かけて築き上げた戦後世界は,遠い彼方にある。あの時代は,まるでバラック建てから始まった古い温泉旅館が,急成長に間に合わず,建て増し建て増しして,迷路のような巨大建物になったような,猥雑で,乱雑で,一種無秩序感の残る世界は,けっして今日のように小ぎれいな家並み,街並み,風景ではない。いま,区画整理や再開発で消えていく世界は,ある意味,ひとつひとつに個性があった。そう言うと,嗤われるかもしれない。

文化住宅,

団地,

のどこが個性的か,と。しかし,今日の林立する高層住宅と比べれば,ずいぶん個性的だ,と僕は思う。そういう時代との距離を突き抜けてくる気配が,これらの絵にある。そんな雰囲気を漂わせる建物群が,会場全体に,ひとつひとつ個性的に,おのれを主張しているのである。

僕には,素人なので技法のことはよく分からないが,現実の対象から,描かれた作品までの距離は,描くときの独特の対象の丸め方(丸めていくプロセス)にあると思う。幾工程かを(作家の頭のなかで)経てからでないと,こういう丸まり方にはならない。いい喩えかどうかからないが,一旦見つめた,あるいはラフに描きとった下絵は,たぶん,リアルなものなのではないか,それを自分の世界観,というより,自分の世界に中に置き直すことで(ここでも何工程かを経ている),こういう造形になる。そのプロセスを,微細に辿ってみるなら,ちょうど,貼り絵をするとき,輪郭に張っていく紙の形や色によって,世界を作り直すような感じ,という言い方のほうが近いだろうか。その時間的な次元の隔たりを経ている,と思えるのである。

今日の,画一化したプレハブ住宅やコンクリートの建物は,丸めても,たぶん,一色の箱にしかなるまい。いかに丸めても,トタンあり,板塀あり,継当てあり,破れ目ありの,昭和の建物だから,こういう丸まり方になる。あるいは,逆かもしれない。こういう丸まり方をしたものを観て,ある感慨を懐ける人の心の中に,昭和の風景がある限り,観る側の思いを膨らませていく。そういう実体験のない世代にとっても,昭和の風景に懐かしい,というように,共有できる感慨を呼び起こすものなのかどうかは分からない。現実の風景が消滅した後に,あるいはそれを知らない人にとっては,たぶん一種のメルヘンとして感じられるものは残るのだろう。そのとき,絵は,別の物に代わっているのかもしれない。

丁度取り壊し前の古い建物を描いた(注文制作の)絵が二点あったが,それが,全体と調和を乱さず並んでいるのである。まことに,今にも取り壊されそうな,古びた,取り残された建物が,真新しい家並み中に,ぽつんと,建っていることがあるが,まさにそんな雰囲気なのである。

いまも田舎に行くと,ボンカレーの古びたポスターや金鳥の看板に,懐かしさを感じる世代と,それを別の世界のものとして受けとめる世代との差,ということかもしれない。しかし,そのとき,絵は,変化を迫られるような気がする。

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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 個展 | 更新情報をチェックする
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