2017年05月25日

はず


「はず」は,

筈,
弭,
彇,

と当てる。『広辞苑』には,由来に関わって,三例が載る。ひとつは,

弓の両端の弦を掛けるところ,弓を射る時に,上になる方を末筈(うらはず),下になる方を本筈(もとはず)

という,とある。

ゆはず,

ともいい,

弓筈,
弓弭,

と当てる。

弓筈.gif

(弓の名称)


なお,和弓の名称については,

http://ecoecoman.com/kyudo/item/yumi_meishou.html

に詳しい。

いまひとつは,

弓に矢をつがえる時,弦からはずれないために,矢の末端につけるもの,

を指す。

やはず,

と言い,

矢筈,

と当てる。『デジタル大辞泉』

http://dictionary.goo.ne.jp/jn/222435/meaning/m0u/

には,

「矢柄を直接筈形に削ったもの」

とあるので,「はず」の意味が推測される。この形は,デザイン化されて,紋所に使われたりする。

矢筈.jpg

(矢の名称)


並び矢筈.jpg

(並び矢筈)


丸に違い矢筈.jpg

(丸に違い矢筈)


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2

によると,

「矢の末端の弦に番える部分。古くは箆(の)に切込みを入れるだけだったが、弓が強力になると引いた際に箆が裂けてしまうため、弦がはまる溝が頭についたキャップ状の筈という部品をつける。筈は金属や、現在では角やプラスチックで作られ、箆を挿し込んだ後に筈巻(はずまき)という糸を巻きつけて固定する。鏃と同じく、長く使用していると抜け落ちたり、欠けたりするのでその時は交換しなければならない。
筈が弦にはまるのは当然のことであるから、当然のことを『筈』というようになった。これは今でも『きっとその筈だ』『そんな筈はない』といった言い回しに残っている。
ちなみに、同じ『はず』でも『弭』と書いた場合、弓の上下の弦を掛ける部分を指す。この混同を避けるため、筈を矢筈、弭を弓弭(ゆはず)ということもある。」

とある。

三つ目は,

和船で,帆柱先端の帆を巻き上げる滑車のある部分に,綱が外れないように作った木枠,

を指す。和船の,「弁才船」については,

https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/00033/contents/028.htm

に詳しいが,「千石船」と俗称される「弁才船」は,江戸時代前期以降、国内海運の主役として活躍し,

「大坂(大阪)より木綿、油などの日用雑貨を江戸にはこんだ菱垣廻船から分離して、おもに酒荷をはこぶようになった樽廻船、そして日本海側で活躍した北前船(北前船型弁才船)も弁才船の代表です。」

とある。そして,帆は,

「重い帆桁の上下も、帆柱の先端の蝉(せみ)とよばれる滑車を通して船尾に縄を通じ、轆轤(ろくろ)と呼ばれる人力の巻き上げ機を使って船内から行いました。帆桁の方向は桁の両端につく手縄(てなわ)と呼ばれる縄を、帆のふくらみは帆の両脇につけた両方綱(りょうほうづな)と呼ばれる綱を操作して行いました。」

その蝉を止めていたのが,筈である。

和船.jpg

弁才船.jpg


だから,船の帆柱の先端から船首にかけて張る太い綱を,

筈緒(はずお),

と呼ぶ。さらに,四つ目は,

相撲で押すときに,親指と人差し指とを矢筈の形に開いて,相手の腋の下,脇腹などにあてる,

技を指す。

どうやら,いずれもその形から由来しているらしいことが想像される。『大言海』は,

端末(はすえ)の略,

とするが,それだと,位置を示しているにすぎない。「はず」の意味には,

(弓の筈と弦が合うことからいう)当然のこと,道理,

さらには,

約束,予定,

という意味まである。室町末の『日葡辞典』には,

バズヲアワセル,
ハズガチガウ,

という用例があるらしいが,「端末」の略では意味が通らない。ぴったり合わない,という意味で使う,

筈が合わない,

という意味にもつながらない気がする。『日本語源広辞典』は,

やはず,
ゆはず,

という,弓や矢の凹部から来ている,というが,その

凹部,

を「はず」と呼んだから,弓や矢にその呼称を当てはめたのではないか,前後が逆なのではないか,と思う。

『日本語源大辞典』には,

ハズレ(外)の義(柴門和語類集),
ハヅレヌ意か(和句解),
ハスヱ(大言海・和訓栞),
手筈の上略(日本語原学),
ハズ(羽頭)の義か(和句解),

と諸説載るが,結局よく分からない。で,漢字「筈」を見ると,

やはず(箭末),

の意で,

「竹+音符舌(カツ くぼみ,くぼみにはまる)」

とある。「はず」は,漢字の「筈」からきただけのことということになる。筈は,

矢の先端の,弦を受けるくぼみ,

の意であり,「弭」の字は,

ゆはず(弓筈),

を指す。つまり,

弓の末端に,弦をひっかける金具,

を指す。結局,「筈」は「カツ」と訓むので,わが国で,「ハズ」と呼んでいたものに,「筈」を当てはめたと見なしうる。弓矢は,銅鐸に絵が描かれているほどなので,古くからあったと思われる。古墳時代の埴輪,弓残片などから,

「後世のような大弓ではなかったらしい。これらの弓は自然木を利用した丸木弓で,上等なものは黒漆塗,樺皮巻などを行ったり,弭金物をつけたりしたが,たいていは上下を削って弦を掛けやすくしただけのものであったらしい。」

とある。それが,銅製の弭を用いるようになる。少なくとも,「筈」そのものが中国から由来したとまでは言えないが,その仕掛けと金属製の弭は,「弭」という言葉と一緒に伝わったということを,想像させる。

そう考えると,『大言海』の,

ハスヱ(端末),

という語源説は意味を持ってくる。もともと端に引っ掛けているだけだった原始的なものが,

筈金具,

の仕掛けを中国由来で手に入れて,「筈」という言葉を知ったというようなことなのではないか。

ちなみに,「はず押し」については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%BA%E6%8A%BC%E3%81%97

に,

「ハズ押し(はずおし)は、相撲の基本的な技術のひとつ。本来は手の形のことを言う。親指を立て、他の4本の指を伸ばした形のことで、それが矢筈に似ていることから、この名がある。この手が逆ハの字を描くように傾け、相手の脇の下や胸、腹などにあてがって、押して出ることが、つまりハズ押しである。特に親指以外の4本の指を脇に入れて腕を掬い上げれば攻守を兼ねた効果が出る。近年では、大相撲関係者の中でも『相手の脇に手をあてて押すこと』がハズ押しとの誤解も多くなってきている。」

とある。まさに,

やはず,

の形である。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
笠間良彦『日本の甲冑武具辞典』(柏書房)
http://ecoecoman.com/kyudo/item/yumi_meishou.html
http://dictionary.goo.ne.jp/jn/222435/meaning/m0u/
https://www.kaijipr.or.jp/mamejiten/fune/fune_2.html
https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/00033/contents/028.htm
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2
https://kotobank.jp/word/%E7%AD%88%E7%B7%92-601366
http://www1.cts.ne.jp/fleet7/Museum/Muse026.html


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