2017年05月28日

かお


「かお(ほ)」は,

顔,
貌,

と当てる。顔面のことだが,「かんばせ」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/450264824.html?1495913860

の項で触れたように,『岩波古語辞典』は,「かほ(顔)」の項で,

「表面に表し,外部にはっきり突き出すように見せるもの。類義語オモテは正面・社会的体面の意。カタチは顔の輪郭を主にした言い方」

とし,

表面にあって見えるもの,汚れなど,
容貌,
顔面,
顔つき,
表面,
体面,
(ガオと濁音。接尾語的に用いて)(心の中で)…と思っていることを外部にはっきり示す様子,いかにも…な様子(「所得顔」「したり顔),
(そうではないのに)まるで…かの様子。あたかも…の態度(「馴れ顔」),

と用例が載るが,顔面の意が最初でないところが面白い。表面という意のメタファで顔と使われた,という感じになる。「日本の顔」というような,提喩的な使われ方も,「表面」という原意からみると,意味の外延としてはあり得る使い方になる。

では,「おもて」は,というと,『岩波古語辞典』は,

面,
表,

と当てて,

「オモ(面)とテ(方向)の複合。ものの正面,社会に対する正式の顔,表面が原義。」

とある。「おも(面)」は,

「上代では顔の表面の意。平安時代以後,独立してはほとんど使われず,『面影』『面変わり』『面持』等の複合語に残った。」

とあり,「おも」は,まさしく,

顔面,

の意であり,「かお」とは逆に,

表面,

の意が「おも」(つまり顔)のメタファとして使われている感じなのが面白い。当然,

仮面,

として使われるとき,この「おもて」のもつ,

顔面,

表面,

の意を含んでいることになる。もうひとつ「つら」という言葉がある。

三日月.jpg

(三日月)


面,

の字を当てるが,

頬,

の字も当てる。それは,『岩波古語辞典』に,

「古くは頬から顎にかけての顔の側面をいう。類義語オモテは正面・表面の意。カホは他人に見せること,見られることを特に意識した顔面」

とある。

横面を張る,

というのは,そういう意味では,屋上屋を重ねた言い回しになるのかもしれない。どこか「つら」には貶める言い方があるが,それは,

正面でない,
見られる顔とではない,

という含意を込めているということになろうか。

『大言海』は,「かほ」を,

姿形,

と当てて,「なりすがた」の意と,

顔,

と当てて,「顔面」の意とに分けている。「かほ(姿形)」は,

「気表(けほ)の転。人の気の,表(ほ)に出て見ゆる意と云ふ(鈴木重胤)。」

とし,

身体の姿形(なりふり),かたち,

の意が載り,「かほ(顔)」は,この,

「かほ(容)の転。身體の表示には,顔が第一なれば,移れるなり(朝鮮語に,鼻をカホと云ふとぞ)。人を表示するに,顔ゾロヒと云ふ,是なり」

として,やはり顔面が,メタファとして使われているとする。

語源は,「かお」は,『日本語源広辞典』は,

「カ(気)+ホ(表面)」

と,「気配が面に表れる」の意で,『大言海』と同じ説をとる。『日本語源大辞典』には,

カホ(形秀)の義(和訓栞),
カは外,ホはあらわるる事につける語(和句解),
カは上の義,ホカ(外)で,表面の意(国語の語幹とその分類),
頬と同じく語源は穂(玄同放言),
カミオモ(上面)の義(名言通),
「頬」の別音kapがkapoとなり,kahoと転じた語(日本語原考),

と諸説あるが,原義から考えて,表面に連なる意の,

「カ(気)+ホ(表面)」

に類するところに落ち着くのではないか。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ka/kao.html

は,

「顔の旧かなは『カホ』で、古くは『顔』『顔立ち』『顔つき』のほか、『容姿』や『体つき』の 意味でも用いられた。 顔の語源には、『カホ(形秀)』の意味とする説(「秀」は『目立つもの』の意)や、『か』は『上』の意味で『ホ』は『ホカ(外)』で表面の意味とするなど、諸説 あるが特定し難い。」

としている。

「おもて」の語源は,総じて,

オモ(面)+テ(接尾語 方向),

で一致するようだが,『大言海』は,「おもて」を,

「面之方(オモツヘ)の急呼。後之方(ウシロツヘ)の,ウシロデとなると同じ」

としている。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/o/omote.html

は,

「おもては『面(おもて)』と同源で、時代劇などで『おもてを上げい』という時の『おもて』は『面』のことである。 元々は,『おも』のみで『顔面』『顔』を意味し,『おも』の付く語には、顔 が長めなことを表す『面長(おもなが)』、顔つき・顔立ちなどを表す『面差し(おもざし)』などがある。
おもての『て』は,『方向』『方面』を意味する接尾語で,『おもて』といった場合,直接『顔』をささず,『正面の方』というやわらげた表現になる。のちに物の表面をいうようになり,さらに,物の表面に限らず,二つの物事のうち主だった方を意味するようにもなった。漢字の『表』は,『衣』と『毛』からなる会意文字で,毛皮の衣をおもてに出して着ることを示し,外側に浮き出るという意味を含む。」

とまとめている。しかし,『日本語源大辞典』には,その他に,

テはト(処)の転(国語の語幹とその分類),
オモツヘ(面之方)の急呼(大言海),
オモツヘ(面辺)の約(国語学通論),
オモツベ(面部方)の義,ツヘの反はテ(雅言考),
オモヒデ(思出)の約。人は頭によって思い出すから(和句解・柴門和語類集),
身体の主なところで,眼耳口鼻が具わり足りているところから,オモタレル(重足)の義か(名言通),
オミテ(凡見方)の転(言元梯),
アラハレムカフの転語略(国語蟹心鈔),
オボオボシ(朦朧)から生じたオボシ(覚)から。考えることが現れる場所であることから(国語溯原),
「顔題」の別音um-teiの転化。題は額の義(日本語原考),

と諸説載せる。方向を示す説の他に「思い」が現れる,とする説がいくつかあるが,『大言海』は,「おも」を,

「思(おも)と通ず」

としているところからも,考えられなくもない。しかし,『大言海』は,「おもて」を,

「面之方(オモツヘ)の急呼。後之方(ウシロツヘ)の,ウシロデとなると同じ」

としながら,「おも」を「思い」とつなげるのでは,少し矛盾が過ぎる。「おも」は,『日本語源広辞典』は,

「モ(正面)は,セ(背面)に対する語で,顔面や表面の意」

とする。「おも」も「おもて」も,正面,表面という原義から考えれば,「思い」は,うがち過ぎではないか。

「つら」は,『大言海』は,

「左右に列(つら)なる意」

としたが,「頬」とするなら,『日本語源広辞典』のいう,

「ヨコッツラ,ウワッツラ,左ッツラなど頬の意です。平安期は,側面をいう言葉です。中世以降,顔面全体,さらに表面をも表すようになりました。」

が妥当に思える。その「つら」の由来は,存外,

「ツルツル滑らかであるところから」(国語の語幹とその分類)

という擬態語であるように思える。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)


参考文献;
http://museum.city.fukuoka.jp/archives/leaflet/306/index.html

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

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