「かたな」は,
刀,
と当てるが,今日だと,
日本刀,
という言い方をする。しかし,
「古来の日本では『刀(かたな)』、もしくは『剣(けん・つるぎ)』と呼び、『日本刀』という呼称を使っていない。また、木刀・竹刀・模擬刀に対置して『真剣』と呼ばれることもある。」
という。それはそうだろう。日本刀しかない世界で,他国と比較しない限り,そう呼ぶはずはない。刀は,
刀子,
とも当て,
「『とう』ともいう。長さが約六〇糎以上にして差したときに茎(なかご)の銘が外側に鐎(うが)ってあるもの。無名でもこのようにして差すものをいう。」
とある。腰にぶら下げる,いわゆる佩刀は,
太刀,
と呼ぶ。太刀は,
「刀剣の形式を区分上でいう太刀は,長さがだいたい六〇糎以上で,刃を下に向けて佩いた場合に茎(なかご)の銘が外側に位置するものをいう。」
と定義される。有名な,聖徳太子の画像の佩いているのは太刀である。
よく甲冑に佩いているのは太刀ということになる。
(尻鞘を被せた太刀を佩く武士)
(刀剣の名所と形式)
『広辞苑』は,「かたな」について,
「ナは刃の古語。片方の刃の意」
と載る。『大言海』にも,
「片之刃の約か(水泡(みのあわ),みなわ,呉藍(くれのアゐ),くれなゐ),沖縄にて,カタファと云ふ。片刃なり。西班牙語にも,刀をカタナと云ふとぞ」
とある。「諸刃(もろは)」の対,である。ところが,『日本語源広辞典』に,
「『片+ナ(刃)』です。現在の日本刀は,モロ刃だが,古代は片刃だったのです」
とある。この意味は,切り出しナイフのイメージで,本当に片刃のことを言っているらしい。このイメージが正しいのかもしれない。
一般には,諸刃とは,
「鎬 (しのぎ) を境に両方に刃がついていること」
を指す。だから,「諸刃の剣」という意は,
「《両辺に刃のついた剣は、相手を切ろうとして振り上げると、自分をも傷つける恐れのあることから》一方では非常に役に立つが、他方では大きな害を与える危険もあるもののたとえ。」(『デジタル大辞泉』)
とあり,「両刃」の意となっている。だから,両刃は,
剣(つるぎ),
と呼ぶ。刀は,剣と対比されている。『岩波古語辞典』には,「つるぎ」について,
「(古事記・万葉集にツルキ・ツルギ両形がある)刀剣類の総称。のちに片刃のものができてからは,多く両刃(もろは)のものをいう。」
とあり,「かたな」については,
「カタは片,ナは刃。朝鮮語nal(刃)と同源。古代日本語文法の成立の研究の刀剣類は両刃と片刃とがあった。」
とある。『大言海』の「つるぎ(劒)」の項に,
「吊佩(つりはき)の約,即ち,垂佩(たれはき)の太刀なり。御佩刀(みはかし)と云ふも,佩かす太刀の義。古くは,太刀の緒を長く付けて,足の脛の辺まで垂らして佩けり。法隆寺蔵,阿佐太子筆聖徳太子肖像,又,武烈即位前紀『大横刀を多黎播枳(たれはき)立ちて』とあるに明けし」
とある。聖徳太子の佩いていたのは剣,両刃であったことになる。この「横刀」というのは,
「刀剣を太刀(たち)・横刀(たち)・横剣(たち)と書いているが,現在の遺物例から推定すると六〇センチ以上の身の長さを太刀とし,以下のものを横刀,横剣の区別で記しているようである。『たち』は断ち切る意から生じたのであろうが形式としては帯取りをつけて腰に佩用するものの総称で,横たえる形になるから,『横刀・横剣』の文字が用いられたのであろう。」(『日本の甲冑武具辞典』)
ということのようだ。
語源は,ほぼ,
カタハ(片刃)の意(和語私臆鈔・古事記伝・箋注和名抄・雅言考・言元梯・和訓栞・国語の語幹とその分類),
カタノハ(片之刃)の約か(大言海),
カタナ(片無)の義(円珠庵雑記),
諸刃の太刀に対してカタハナシ(片刃無)の義(腰刀燧槖図記・卯花園漫録・名言通),
片刃名の義(桂林漫録),
カタナギ(片薙)の下略(腰刀燧槖図記・類聚名物考),
カタは片,ナはカンナ(鉋),ナタ(鉈)のナと同じで,ナグ(薙)と同根か(小学館古語大辞典),
等々と,片刃ということに,差異はなさそうである(『日本語源大辞典』)。
太刀は,語源は,ほとんど,
断ち,
から来ている,とされる。「つるぎ」は,『大言海』は,
「吊佩(つりはき)の約」
と,「吊る」という用い方に由来する説だが,『日本語源広辞典』も,
「ツル(吊る)+キ(切る・牙・刃)」
と,腰に吊るという形態からとする。しかし,諸説が微妙に違う。
つむがり(都牟刈)の約転(東雅・冠辞考・万葉考・類聚名物考・古事記伝・腰刀燧槖図記・卯花園漫録・雅言考・桂林漫筆・国語の語幹とその分類)
スルトキ(鋭利)の義か(和訓栞),
鋭い刃で切る意で,スルドニキルの略転(日本釈名),
トガリ(尖)の義(万葉考),
ツラヌキの略か(和語私臆鈔・百草露),
ツラギリ(貫斬)の義か(名言通・日本古語大辞典・日本語源),
ツルはツラツラ(熟)のツラと同源。ツラヌク(貫),ツラギリ(貫斬)のツラも同源(続上代特殊仮名音義),
ツルはツノの転で,突く意,キは鋒刃のある意(東雅),
ツキキリ(突切)の義(言元梯)
しかし,単体の言葉だけで,由来を考えると,どうしても語呂合わせになる。いつも正しいとは限らないが,音韻変化を辿ると,まったく違うものが見えてくる。
『日本語の語源』は,関連ある言葉の音韻変化を,次のように辿る。
「きっ先の尖った諸刃のヤイバ(焼き刃)をツラヌキ(貫き)といった。ラヌ[r(an)u]の縮約でツルギ(剣)になり,貫通・刺突に用いた。これに対して斬りつけるカタノハ(片の刃)は,ノハ[n(oh)a]の縮約でカタナ(刀)になった。上代,刀剣の総称はタチ(断ち,太刀)で,タチカフ(太刀交ふ)は,『チ』の母韻交替[ia]でタタカフ(戦ふ)になった。〈一つ松,人にありせばタチ佩けましを〉(記・歌謡)。平安時代以後は,儀礼用,または,戦争用の大きな刀をタチ(太刀)といった。
ちなみに,人馬を薙ぎ払うナギガタナ(薙ぎ刀)は,『カ』を落としてナギタナになり,転位してナギナタ(薙刀・長刀)に転化した。」
参考文献;
笠間良彦『日本の甲冑武具辞典』(柏書房)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%88%80
s://ja.wikipedia.org/wiki/太刀
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%80
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