2017年06月02日
ゆめ
「ゆめ」は,『広辞苑』には,
「イメ(寝目)の転」
とあって,いわゆる,レム睡眠時の「夢」の意であり,それをメタファにして,
はかない,頼みがたいもののたとえ,
に使われ,
空想的な願望,迷夢,
将来実現したい願い,
へと広げて使われる。しかし,「夢」の字は,
「上部は,蔑(大きな目の上に,逆さまつげがはえたさまに戈を添えて,傷つけてただれた眼で,よく見えないこと,転じて,目にも留めないこと)の字の上部と同じで,羊の赤くただれた目。よく見えないことを表す。夢はそれと冖(おおい)および夕(つき)を合わせた字で,よるの闇におおわれて物が見えないこと。」
とあり,
願望,迷夢,
将来実現したい願い,
といった意味は,元々の漢字には含まれない,わが国でのみの意味となるようだ。『岩波古語辞典』にも,夢の比喩として,
はかない,ふたしかなもの,
の意までしかない。また,『大言海』も,同じで,
夢の如く,
という意味までしか広げていない。これは臆測だが,英語dreamには,のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア
「I Have a Dream」
というように,
実現したい理想,
という意味がある。「夢」つながりで,「夢」の含意にそれが加わって使われるようになったのは,英語のdreamのせいではないか,という気がする。
「ゆめ」の語源は,『広辞苑』『古語辞典』ともに,
イメの転,
とする。『大言海』も,
寝目(イメ),又は寝見(イミ)の転,
とする。『岩波古語辞典』『大言海』には,「いめ」の項に,
夢,
が載る。『大言海』は,
「寝見(イミ)の約。沖縄にては,今も,イメ,イミと云ふ」とある。
『日本語源広辞典』も,
「『イ(寝)+メ(目)』
とし,
「イメが,時代を経て,ユメになったものです。寝た目に映るものが夢です。上代には,イメで,ユメの使用例はありません。」
とある。「寝目(イメ)」ないし「寝見(イミ)」が大勢派だが,『日本語源大辞典』には,その他,
イメ(寝用)の転(卯花園漫録),
イミネの略転か(日本釈名),
ユはユウベ(夕),ミはミル(見る)の意(和句解・日本釈名),
ヨルミエの反(名語記),
ユはユルム,しまりのない事を目で見る意から(日本声母伝)
と,諸説載るが,いずれも,
夜見る,
寝て見る,
という含意の解釈の誤差にすぎないようだ。だから,夜見る夢以上の意味の拡大は見られない。しかし,『岩波古語辞典』には,
「夢は予兆として神秘的に解釈され,信じられることが多かった」
とあるから,
予兆夢,
として,未来へ投影される含意が,「ゆめ」という言葉にはあったので,
Dream,
の願望の意と重なる余地があったのかもしれない。因みに,『江戸語大辞典』にも,
夢助,
夢三宝,
夢は五臓のつかれ,
等々の言い回しに見るように,夜見る夢の意しか載らない。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
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