2017年06月04日

忖度


「忖度」については,「慮る」と「斟酌」と対比して,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/439036891.html

で取り上げたことがある。今日,

「忖度」

という言葉が大流行(おおはやり)で,改めて出典に当たってみた。今日の使われ方は,

他人の心をおしはかる,

という意味よりは,

茶坊主どもがバカ殿のお先棒を担いでいる,

というふうにしか見えない。あるいは,

鼻息を窺って先回りしている,
鼻毛を読んで御機嫌取りをしている,

という意味でもある。しかし,こういう使われ方は,今に始まったことではないという。

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/what-is-mizuhonokuni31?utm_term=.wmwn5L60B#.whBaeXoBg

によると,「忖度」の意味が,ここ十数年,変わってきたのだという(三省堂国語辞典編集委員の日本語学者飯間浩明氏)。

「従来は「母の心を忖度する」「彼の行動の意図を忖度してみた」などと、「単純に相手の心を推測する」場合にも普通に使われていた」

が,

「『上役などの意向を推し量る』場合に使う用法が増えたように思います。おべっか、へつらいというか。上の者に気に入られようとして、その意向を推測する。ちょっと特別な時に使われるようになった」

として,こんな例を挙げている。

「消費税の引き上げは避けられないが、いまは国民を刺激したくない。しかし、ほおかむりも無責任」。そんな首相の思いを忖度したような党税調。(「朝日新聞」社説、2006年12月15日)

「その籾井氏が政策に関わるニュースに注文をつければ、どうなるか。権力を監視するジャーナリズムの役割が十分に果たせるのかといった疑問も浮かぶ。会長の意向を忖度し、政府に批判的な報道がしにくくなるのではないかとの不信感も出てくるだろう。(「朝日新聞」社説、2014年5月8日)

つまり,「忖度」が,上のものの意向を推し量る,という特別な意味に変じてきた,というのである。昨今の「忖度はまさに,そういう流れで使われている。まあ,

(上のものの)鼻息を窺う,

のと変わらない。「忖度」の出典は,

http://id.fnshr.info/2017/03/30/sontaku/

によると,『詩経』に,

奕奕寢廟、君子作之。
秩秩大猷、聖人莫之。

他人有心、予忖度之。
躍躍毚兔、遇犬獲之。

があり,

他人有心、予忖度之,

は,

他人心こころ有り、予(われ)之を忖度す,

と訓み下されているが,

他の人に(よこしまな)心があれば、私はそれを推しはかる

と,訳される。この句に続く,

躍躍毚兔、遇犬獲之

は,

すばしっこくとびまわるずるがしこいうさぎは、犬に出会って捕らえられる,

の意なので,その意訳は正しいと推測される。

いまひとつの出典は,『孟子』の「梁恵王上」に,その『詩経』を引用して,

王說曰、詩云、他人有心、予忖度之、夫子之謂也。夫我乃行之、反而求之、不得吾心。夫子言之。於我心有戚戚焉。此心之所以合於王者何也。

王說んで曰く、詩に云く、他人心有り、予忖[はか]り度[はか]るとは、夫子を謂うなり。夫れ我乃ち之を行って、反って之を求むれども、吾が心を得ず。夫子之を言う。我が心に於て戚戚焉たること有り。此の心の王に合う所以の者何ぞ、と。

とある。そして,ここで王(斉の宣王)に,孟子の言うことが今日なかなか含蓄がある。

故王之不王、不爲也。非不能也

つまり,

故に王の王たらざるは、爲さざるなり。能わざるには非ざるなり、と。

「忖度」は少なくとも王たるものの心ばえであった。ここでは,上から下への推し量るる心,思いやる心を指している。今日の真逆になっている。

「忖度」の「忖」は,

「寸は,手の指一本のこと。昔は手尺や指の幅で長さをはかった。忖は,『心+音符寸』で,指をそっと置いて長さや脈ををはかるように,そっと気持ちを思いやること」

であり,「度」は,

「『又(て)+音符庶の略体』。尺(手尺で長さを測る)と同系で,尺とは,しゃくとり虫のように手尺で一つ二つとわたって長さをはかること。また企図の図とは,最も近く,長さをはかる意から転じて,推しはかる意となる。」

とある。

孟子の引用を見る限り,「忖度」は,

惻隠,

に近い。

人皆忍びざる所(惻隠の心)あり,之を其の忍ぶ所に達(推し及)ぼせば,仁なり,

とある。今日,「忖度」とはおよそ遠い心ばえであることは明らかである。

参考文献;
http://id.fnshr.info/2017/03/30/sontaku/
http://mokusai-web.com/shushigakukihonsho/moushi/moushi_01.html
小林勝人訳注『孟子』(岩波文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

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posted by Toshi at 05:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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