2017年06月08日

さざめく


「さざめく」も,擬音語の気配がするが,『広辞苑』には,

中世にはサザメク,

として,

声をたてていい騒ぐ,がやがやいう,騒がしい音がする,ざわざわする,

と意味が載る。『大辞林第三版』には,

「古くは『ざざめく』で、『ざざ』は擬声語」

と載る。『日本語源広辞典』には,

「サザ,ザザ(擬声・波音)+めく」

と載る。『大言海』は,

「サザと笑ふの,サザなり(颯(さと)の條を見よ)ザンザメクと云ふも,此語より起こる」

とあり,「颯(さと)」の條を見ると,

「サは,風の,軽く吹きて,物に触るる音重ねて,サザとも云ふ。字彙『颯(さふ),風聲也』和漢,暗合す」

とある。

この辺りは,「ささやく」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/449925050.html?1494878170

で触れたところと重なるが,『擬音語・擬態語辞典』には,「ささっ」について,

「素早く動く様子」

とあるが,風のサッと吹くという擬音語から,擬態語へと転化したものと見える。

「鎌倉時代から『ささ』の形で見える。本来は弱い風が吹いて立てる音や,水が軽やかに流れる音を表した。」

とある。「さっ」は,「ささっ」と似ているが,

弱い風や雨が一瞬に通り過ぎ,草木などを揺らして発する音,

という「瞬間」に力点があり,

「素早くある行動に移ったり,完結させる様子」
「急にある状態に変わる様子」

という変わり目の意味に焦点がある。

「平安時代には『一たびにさと笑ふ声のす』(宇津保物語)という例のように,『さと』の形で現れる。この語は本来,一斉にある状態が起こったり感じられたりする様子を表すが,やがて風などが立てる軽い音を表す語に変化する。『さ』の撥音が平安時代に[tsa]から現代の[sa]に変ったために,五感も変化したものか。鎌倉時代の『名語記』では,『さときたり,さとちるなどいへる,さ如何。これは,風のふく,さの心か』とあって,この時代には現代と近い使われ方でふったことが分かる」

とある。これが濁って,

さざっ,

となると,

水などが勢いよく流れたり降りかかったりする音,またその様子,

となる。「ざっ」も,勢いや音が増し,さらに,

手早くことを終らせる様子,

の意味が,

大雑把,

の意味へシフトして,

数を表す,

「ざっと何々」という言い回しへと転じていく。この流れから想像されるように,「ささ」と「さざ」は繋がる。『日本語源大辞典』は,「さざめく」と「ささめく」との関連を示唆ている。

「ささめく」は,『広辞苑』には,

声をひそめて話す,ささやく,
心が乱れてさわぐ(『日葡辞典』「ムネガササメク),

が載るが,『日本語源広辞典』は,

「ササ(細・小の意)+めく」

で,さやさやと音がする意,である。それを囁きに準えた。「ささ」は,『岩波古語辞典』には,

後世濁ってサザとも,

とあり,「ささ」と「さざ」の区別は微妙である。本来は,「ささ」は,

細かいもの,小さい物を賞美していう,

という意味だが,『大言海』には,

「形容詞の狭(さ)しの語根を重ねたる語。孝徳紀大化二年正月の詔に,『近江の狭狭波(ささなみ)』とあるは,細波(ささなみ)なり。神代紀,下三十六に,狭狭貧鈎(ササマヂチ)とあり,又,陵墓を,狭狭城(ささき)と云ふも,同じ。イササカのササも,是れなり。サとのみも云ふ。狭布(サフ)の狭布(さぬの),細波(さざなみ),さなみ。又,ササヤカ,ササメク,など云ふも同じ」

とあり,「ささ」もまた擬音語である。

『日本語源大辞典』は,

「『ささ』は擬声語で,類義語『さざめく』は『さざめく』ともいい,がやがやと大声をあげる意であるのに対して,『ささめく』は,ひそひそと小声で話す意であるという違いがみられる。」

とある。『岩波古語辞典』は,「ささめき」に,

囁き,

を当て,『大言海』は,

私語,
耳語,

と当てる。もはや「ささやく」とほとんど重なっていく。

「ささ」も「さざ」も「ざざ」も,目の前で話している限り,違いは明らかである。文字にした瞬間から,その違いを明確にしなければならず,その間隔は,広がっていくが,眼前にしているとき,その差は微妙だったのではあるまいか。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)


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posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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