2017年06月10日

落日


大西康之『東芝解体-電機メーカーが消える日』を読む。

東芝解体.jpg


モノづくり大国という言葉が空々しくなったのは,いつからだろうか。半導体で起きたことは,携帯電話で置き,携帯電話で起きたことは,家電で起き,それはやがて,自動車でも起きるのではないか。本書の中で,シャープを買収したホンハイと日本電産の関係について,こんなことを書いている。

「仮に(ホンハイと日本電産が)手を組んだとしたら,2人はどこへ向かうのだろう。(中略)現時点でもっとも可能性が高いのは電気自動車(EV)ではないか。日本電産のもつモーター技術とホンハイの生産力,そこに電子部品,通信,液晶といったシャープの技術力を加えれば,価格競争力の高いEVの量産が可能になる。
 内燃機関を持たないEVの生産工程は,ガソリン車よりはるかにシンプルだ。床の下に電池を貼り,車輪の周りにモーターをつければ走り出す。組み立て工程は,自動車というよりスマホに近い。ガソリン車に比べ,新規参入のハードルははるかに低い。
 それでもホンハイと日本電産だけでは自動車事業を立ち上げるのは難しいかもしれない。そこで生きてくるのがテリー(ホンハイ会長)の人脈だ。
 「iPhoneの次は車を作ってみないか。」
 2015年,EV大手テスラーモーターズの創業者,イーロン・マスクがテリーにこう持ちかけたことが米国の新聞紙上で報じられた。『冗談半分で』というニュアンスだったが,あながちそうとも言い切れまい。(中略)
 テスラが加われば,EVに欠かせない電池の問題も解決する。テスラはパナソニックと合弁で米国に巨大なリチウムイオン電池工場,ギガファクトリーを立ち上げつつあるからだ。
 テリーの人脈から推測されるもう一つの可能性はアップルだ。アップルはiPhoneの限界を突き破るべく,2019年からEV市場への参入を目指している。」

グーグルが自動運転車で自動車産業への進出を進めている。これから必要なのは,モノづくりではなく,ITとネットである。

「日本のIT,ネット産業における最大の問題は,先行する米国勢を追撃する企業がないことだ。」

と。

本書は,エピグラフに,

Survival of the Fittest(適者生存)

という言葉(ハーバート・スペンサー)を載せる。日本企業は,最先端部門ですでに敗退している,と僕も思う。それは,

変化する力

の欠如だ。日本企業の惨状を尻目に,生き残りを果たした企業の例を,たとえば,ノキア。

「2011年まで従来型携帯電話で世界シェア1位だったフィンランドの通信機器大手のノキア。同社はスマホへのシフトが遅れて2013年に経営危機を迎えた。2014年には主力の携帯端末事業を米マイクロソフトに54億4000万ユーロ(約6500億円)で売却し,事業領域を通信インフラに絞り込んだ。この時日本では『ノキアは終った』とまで言われた。
 しかしノキアはその後,シーメンスとの通信インフラ合弁会社を完全子会社化し,2016年には最大のライバルである仏米合弁のアルカテル・ルーセントを156億ユーロ(約2兆円)で買収した。現在ノキアは世界最強の通信インフラ企業」

であり,

「同市場で世界ナンバーワンに浮上した。世界の通信インフラ市場は,ノキア,エリクソン(スウェーデン),華為技術(中国)の3強」

なのである。また,かつてはCDの規格をつくったオランダの電機大手フィリップスは,

「1990年代に経営危機を迎え,2000年代初頭には半導体やテレビから撤退した。(中略)だがフィリップスは死んではいなかった。デジタル機器の事業を売却して得た資金で医療機器メーカーを次々に買収し,今や『医療のフィリップス』に生まれ変わり,電機メーカーだった頃よりもはるかに高い利益率を叩き出している。(中略)2013年5月,フィリップスは正式にロイヤル・フィリップス・エレクトロニクスからロイヤル・フィリップスに変えた。」

一方,日本の家電メーカーはどうかというと,いまの東芝のように,切り売りしつつ縮小再生産をし続け,消滅しつつある。ただ,わずかに生き残りの可能性のあるのを,

ソニー,

三菱電機,

と,本書は言う。

「世界にはプレステのユーザーが数千万人いる。その数千万人がネットを介してソニーのプラットフォームにつながっているという事実は大きなアドバンテージである。VR,AI(人工知能)など持ちうる全ての技術をそそぎ込み,世界をアッと言わせるリカーリングビジネスを生み出せば,物づくりの呪縛から解き放たれたソニーは再び輝きを取り戻すかもしれない。」

リカーリングビジネスとは,

「『商品を打って終り』のメーカーから,利用者・へのサービスを通じて継続的に利益を上げる」

ビジネスを指す。

「ネットを使ったリカーリングで薄く広く稼ぐ企業を『プラットフォーマー』と呼ぶ。代表的なプラットフォーマーはアップル,グーグル,フェイスブック,ツイッター,アマゾン・ドット・コムなどだ。

三菱電機は,

「デジタル分野での消耗戦を避け,得意のFAに資源を集中した」

ことで,「世界では当たり前」の経営で生き残りを果たしている。そして,結果として,「機械メーカー」に変身した。この電機メーカーから転身しつつある二社を除くと,結果として,日本の電機メーカーは,ほぼ絶滅しつつある,ということになる。

本書は,「おわりに」で,

「お気付きの方もいると思うが,本書のモチーフは第二次世界大戦における日本の敗北の原因を組織論で解き明かした『失敗の本質-日本軍の組織論的研究』である。」

と述べているように,日本企業の組織論的研究にもなっている。恐竜が絶滅,というより鳥に進化していったように,日本企業も生き残りをかけて,変身しない限り,生き残る可能性はほとんどない。

東芝の章で,本書は,

「戦後の高度経済成長期に水俣病を引き起こした『チッソ』が公害の代名詞として記憶されたように,『東芝』の名は原子力ムラの墓標として歴史に残るだろう。」

と締めくくる。

参考文献;
大西康之『東芝解体-電機メーカーが消える日』(講談社現代新書)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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