2017年06月17日

むし


「むし」は,

虫,

の字を当て,いわゆる,

昆虫の意,

で使っている。しかし,漢字の,

虫,

蟲,

は,まったく別の意味である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%99%AB

では,

「虫という漢字の由来は、ヘビをかたどった象形文字で、本来はヘビ、特にマムシに代表される毒を持ったヘビを指した。読みは『キ』であって、『蟲』とは明確に異なる文字や概念であった。
蟲という漢字は、もとは、人間を含めてすべての生物、生きとし生きるものを示す文字・概念であり、こちらが本来『チュウ』と読む文字である。古文書においては『羽蟲』(鳥)・『毛蟲』(獣)・『鱗蟲』(魚および爬虫類)・『介蟲』(カメ、甲殻類および貝類)・『裸蟲』(ヒト)などという表現が登場する。しかし、かなり早い時期から画数の多い『蟲』の略字として『虫』が使われるようになり、本来別字源の『虫』と混用される過程で『蟲』本来の生物全般を指す意味合いは失われていき、発音ももっぱら『チュウ』とされるようになり、意味合いも本来の『虫』と混化してヘビ類ないしそれよりも小さい小動物に対して用いる文字へと変化していった。」

とあり,「虫」の字(漢音キ,呉音ケ)は,

まむし,

を指し,「蟲」の字(漢音チュウ,呉音ジュウ)は,

昆虫,
及び,
動物の総称,

と『漢字源』にはある。で,上記と重複するが,

羽虫は,鳥類,
毛虫は,獣類,
甲虫は,亀類,
鱗虫は,魚類,
裸虫は,人類,

を指す。さらに,

足のあるむし(足のないむしを豸(チ)という),
とか
うじむし(ちいさいもののたとえ),

の意味もある。由来からみると,「うじむし」が先のようで,そこから動物へと意味が拡散した。我が国では「虫」は,

子どもの起こす病気,
あることに熱中する人(本の虫),
人を罵ることば(弱虫),

という独特の意味をもつ。「虫」は,

蛇の形を描いた象形文字,

「蟲」は,

虫を三つ合わせたもので,多くのうじむし,転じていろいろな動物を表す,

である。なお,「虫」の字は,「蝮」の古字ともある(『字源』)

まむし.jpg

(にほんまむし)


『岩波古語辞典』をみると,「むし」の意味は,

人・鳥獣・魚・貝以外の動物の総称。昆虫やヘビ・・カエル・トカゲ・ミミズ・ヒルなど。

とある。「まむし」という言葉も,その流れにある。『日本語源広辞典』には,

「マ(真・本当の)+ムシ(毒ムシ)」

とある。どうやら,中国の漢字の「虫」の発想と似たところから来たものらしい。あるいは,「虫」の字を知って,そういう使い方をしたのかもしれないが。

では,「むし」という言葉の語源は,というと,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%99%AB

では,

「もともと大和言葉の『むし』がどんな範囲を指したのかについてははっきりしたことは分かっていない。大和言葉の『むし』と、中国から何度も渡来する「虫」などの文字、概念が重層的に融合したのでなかなか一筋縄では把握できない。」

とするが,『大言海』は,

「蒸(むし)の義。濕熱の氣蒸して生ず。六書精薀,六『蟲,濕生化生者也,熱氣所蒸,其聚常衆』と見や,虫と書くは,蟲の省字」

とある。『日本語源広辞典』も,

「蒸し(湿気暑気で蒸して生ずる)」

とする(その他,名言通・和句解・日本釈名)。異説には,

生・産の義で,自然に発生するを言う(東雅・言元梯・和訓栞・俚言集覧・国語の語幹とその分類),
ムツアシ(六脚)の義(日本語原学),
ウシに接頭語マ・ムを加えた者(神代史の新研究),
動物の意のマ,宍の意のシの総称(日本古語大辞典),

等々があるが,「蒸す」との関連が,自然に思える。「虫」「蟲」のように,観念として,メタ化するよりは,その状況を説明する言葉で,指示するというのは,文脈依存の和語らしい。

「蒸す」は,『日本語源広辞典』には,

「ム(蒸気,湯気,湿気)+ス(動詞化)」

とあり,「湯気を通し熱する,湿気を多く与える」意だが,『大言海』の,

「気を吹かせず(気を吹き出さしめるフカスに対す)」

の説明がよく分かる。しかし,これは,「蒸す」行為をメタ化した以降の解釈ではないか。

生産の義のムスから(和訓栞),
火水相結ぶの義で,水火の中にムス(生)義(国語本義),

も同類の解釈で,「蒸すなあ」という「蒸す」ではなく,意識化された行為としての「蒸す」から解釈している。それよりは,

ムレス(群)の義(名言通),
内に群れ群れとして体をなす義(日本語源),
コモフス(籠為)の義(言元梯),

の方がまだまし,という感じがする。

「大和言葉の『むし』と、中国から何度も渡来する『虫』などの文字、概念が重層的に融合したのでなかなか一筋縄では把握できない。」

というのは確かだが,概念化された「むし」観の前は,目の前の草むらから,湧き出てくるものを指していたに違いないと思う。その意味で,

「蒸し」

に与したい気がする。なお,「むし」については,わが国では,「虫の知らせ」「虫が好かない」等々,独特の「むし」の意味があるが,これについては項を改めたい。


参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%A0%E3%82%B7


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