2017年06月19日

歩く


「歩く」は,

あるく,

と訓むが,

ありく,

とも訓む。「あるく」は,いわゆる,

一歩一歩踏みしめて進む,

つまり,歩行する意だが,「ありく」は,

あちこち移動する,

意であり,『広辞苑』によれば,

「人間以外のものの動作にも用い,乗物を使う場合もいう。平安女流文学で多く使われ,万葉集や漢文訓読体では『あるく』が使われる」

とある。『岩波古語辞典』は,

「あちこち動きまわる意。犬猫の歩きまわること,人が乗物で方々に出かけてまわることにもいう」

とあるので,「あるく」に比べ,視点が上がって,つまり概念化された言葉に見える。

歩行する意では,

歩む,

とあてる「あゆむ」という言葉がある。『広辞苑』には,

「アは足,一説に,ユムは(教える意)の転か」

とある。やはり「あるく」意である。『岩波古語辞典』には,

「馬や人が一歩一歩足を運んでゆく意。類義語アリキ・アルクは乗物を使うこともあり,あちこち動きまわる意」

とある。

あゆむ→あるく→ありく,

と,足の運びから,動きまわる意へと,と視点が広がっていく,ということになる。

『大言海』には,「あゆむ」は,

「足數(アヨ)ムの轉なるべし。されば,アヨムとも云ふなり(眉(まゆ),まよ。足結(あゆひ),あよい。歩(あゆ)ぶ,あよぶ。揺(あゆ)ぐ,あよぐ)」

とあり(「數(よ)む」とは。数える意),「ありく」は,

「足(アシ)繰(クリ)行クの約略なるべし(身まくほし,見まほし。少なき,すなき。かくばかり,かばかり)。…或は,足(アシ)揺(ユリ)行クの約略とも見らる。アユムとも云ふナリ。アルクと云ふは,普通なり。(栗栖(くりす),くるす,白膠木(ぬりで),ぬるで)。アリク,アルクの二語,同時に,並び行われたるやうなれど,本居宣長は,アリクは後なりと云へり。尚,考ふべし」

と,書く。「ありく」が,女流文学で,意識して訛らせたということであろうか。しかし,『日本語源大辞典』は,「ありく」「あるく」について,

「上代には,『あるく』の確例はあるが『ありく』の確例はない。それが中古になると,『あるく』の例は見出しがたく,和文にも訓読文にも「ありく」が用いられるようになる。しかし,中古末から再び『あるく』が現れ,しばらく併用される。中世では,『あるく』が口語として勢力を増し,それにつれて,『ありく』は次第に文語化し,意味・用法も狭くなって,近世以降にはほとんど使われなくなる。」

とある。「ありく」と「あるく」を区別することは,あまり意味がないのかもしれない。むしろ「あるく」「あゆむ」が使われてきたことから,その語源を『日本語源広辞典』は,「あるく」「ありく」「あゆむ」の「ア」は,「足」としている。これは,『広辞苑』も『大言海』も同じようだ。ただ,『岩波古語辞典』は,「あ(足)」で,

「アの音せずに行かむ駒かも」

という万葉を引用して,

「『足占(あうら)』『足結(あゆひ)』など,多く下に他の語を伴って複合語をつくる」

とある。「足掻き」もその例だろう。

『日本語源大辞典』の「あるく」の語源説をみると,

アユミユキ(歩行)の約(菊池俗言考),
アユク(動)。ア(足)にルがついてカ行に活用したものか(日本語源),
アシユク(足行)の義(名言通),
アは(足),ルはカルキ(転)から(和句解),

と,「あ(足)」の活用と見るか,「あゆむ」の転訛とみるか,ということだろうか。「あゆむ」の語源は,

アヨム(足數・足読)の転(和句解・菊池俗語考),
アユマヒ(足緩)の義(和訓栞),
アシユフ(足結)の略(和語私臆鈔・本朝辞源),
アシユルキ(足動)の略(両京俚言考),

と,やはり,「あ(足)」からどう転訛させるか,かれこれ思案している。『日本語源大辞典』は,「ありく」についても,語源説を挙げている。

アリキは有来,すなわち来アルという意から転じたもの(日本古語大辞典),
アタリユク(足繰行)の約略(本朝辞源),
アリユク(有行)の義(和句解),
アは足,リはカヘリ,クはユク・クルのクか(和句解),

結局,当初「あるく」だったとすれば,その語源から考えるしかない。「あゆむ」が,先かどうかはどこにも言及がないが,「あ(足)」が,

繰る,
のか,
行(ゆ)く,

のか,足の運びの視点の持ち方を見れば,いずれも,解けそうな気がするのだか。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)


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