2017年06月21日

うつくしい


「いつくしむ」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/451028421.html?1497900825

で触れたが, 『日本語源大辞典』によると,

(いつくしむは)「ふるくは『うつくしむ』であったが,中世末ごろ,『いつくしむ』が生じ」

て,

いつくし→うつくし,

へと転じたことから,「うつくしむ」を「うつくし」との区別のために,「いつくしむ」と転訛させたと想像される。もともと,「いつ(厳)」から派生し,

「本来は神や天皇の威厳を示す意であり,平安朝においても皇族に用いられた例が多い。室町時代以降,『大切にする』意の『いつく』や慈愛の『うつくし』との混同が生じ,更にそれが進むと『いつくしむ』という動詞まで派生し,逆に本来的な霊威の概念は後退する。」

とある。

いつく→いつくし→うつくし→いつくし(慈し),
いつく→いつくし→うつくし(美し)

と,意味に合わせて変化したということになる。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/u/utsukushii.html

には,

「『万葉集』に『父母を見れば尊し妻子見れば米具斯宇都久志( めぐしうつくし)』とあるように、上代では妻子など自分より弱い者に対して抱くいつくしみ の感情を表した。 平安初期以降、小さいものや幼いものに対する「かわいい」「いとしい」といった感情を表すようになり、平安末期頃から『うつくしい』は『きれいだ』を意味するようになった。」

とあるが,「いつくしむ」のもとになった「いつくし」が,

神意がいかめしい,また,威厳がそなわっている,

という意味で,そこから,

品があって,うつくしい

へと広がった。つまり,下から,上へ崇めていた視線が,ほぼ180℃転倒して,上から,下へ,尊崇から,愛護へと転じたということになり,そして,ついには,美しい,という価値表現へとシフトしたことになったという経緯の後の由来を説明しているにすぎない。

こうした,「うつくし(い)」の由来から,

美し(い),
愛し(い),

を当てる。『岩波古語辞典』には,

「親が子を,また,夫婦が互いに,かわいく思い,情愛をそそぐ心持をいうのが,最も古い意味。平安時代には,小さいものをかわいいと眺める気持ちへと移り,梅の花などのように小さくてかわいく,美であるものの形容。中世に入って,美しい・奇麗だの意に転じ,中世末から近世にかけて,さっぱりとしてこだわりを残さない意も表した。類義語ウルハシは端正で立派であると相手を賞美する気持。イツクシは神威が霊妙に働き,犯しがたい威厳のある意。ただし,中世以降,ウツクシミはイツクシミと混同した。平安時代,かわいいの意のラウタシがあるが,これは相手をいたわりかわいがってやりたい意」

とある。『広辞苑』も同趣ながら,

「肉親への愛から小さいものへの愛に,そして小さいものの美への愛に,と意味が移り変わり,さらに室町時代には,美そのものを表すようになった」

とある。

いつく→いつくし→うつくし(美し)

と,180度,上への畏敬が,下への慈しみへと転じ,やがて,その感情表現が,対象への美醜の価値を含み,ついには,対象そのものの価値表現へと転じた,ということになる。『江戸語大辞典』には,現代と同じく,

(対象の)美の評価,

の意味しか載らない。『大言海』には,「うつくし」は,

逸奇(いつく)しの転音。稜威霊(いつくしび)の義,

と,語源を反映させている。

いつく→いつくし→うつくし(美し),

の変化であることは,「いつくしむ」の,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/451028421.html?1497900825

で触れたが,語源説は,

いつく→いつくし→うつくし(美し),

と転じた後を説明しているのが多い。『日本語源広辞典』も,

「語源は,『イツクシビ』『ウツクシム』です。小さい肉親への愛などが,『語源由来辞典』と係っているようです。『ウツ(内面)+クシ(奇し)』内面の良さを称賛する意や,『イトシイ(愛しい)』気持ちをウツクシと表していたようです。小さくて愛らしい,可憐である,きちんとして愛らしい,意が,語源に近いノデス。ウツクシイが,美麗の意になるのは,中世から近世に入ってからであると言われています。」

いつく→いつくし→うつくし(美し),

と変化した後のことを説明しているので,

いつく→いつくし,

の説明が抜けている。『岩波古語辞典』は(「斎き」の項で),

「イツ(稜威)の派生語。神や天皇などの威勢・威光を畏敬し,汚さぬように潔斎して,これを護り奉仕する意。後に転じて,主人の子を大切にして,仕え育てる意」

とあるが,こうした経緯を経て,相手への愛しい気持ちを表現する意味に変った以降の説明に過ぎない。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
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今日のアイデア;
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