2017年06月22日

うるわし


「うるわし」は,

美し,
麗し,

と当てる。『広辞苑』には,

「語中のハ行がワ行に変った早い例。奈良時代には『宇流波志(うるはし)』であったものが,平安初期には『宇留和志(うるわし)』となった。事物が乱れたところがなく完全にととのっている状態をあらわす。」

とあり,

端正である,立派である,
(色彩が)見事である,整っていて美しい,きれいである。
行儀が良い,礼儀正しい,きちんとしている,

という意味が載る。『岩波古語辞典』も,「うるはし」の項で,

「この語は,奈良時代にはurufasiと発音されていたが,平安時代に入ると極初期からuruwasiと転じたらしく,当時から『うるわし』『宇留和志』などと表記した例が多い。これは単語の中のハ行子音FがWに転じた最も早い例の一つ」

と説く。『岩波古語辞典』は, 「うるはし」について,

「奈良時代に,相手を立派だ,端麗だと賞讃する気持から発して,平安時代以後の和文脈では。きちんと整っている,礼儀正しいという意味を濃く保っていた語。漢文訓読体では,『美』『彩』『綺麗』『婉』などの傍訓に使われ,多く仏などの端麗・華麗な美しさをいう。平安女流文学では,ウツクシ(親子・夫婦の情愛をいい,対象を可愛く思う気持)とは異なる意味を表した。今日のウルワシは漢文訓読体での意味の流れをひいている。」

とある。ちなみに,「うつくし」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/451058731.html?1497987229

で触れたが,『岩波古語辞典』は,うつくし」の項で,

「親が子を,また,夫婦が互いに,かわいく思い,情愛をそそぐ心持をいうのが,最も古い意味。平安時代には,小さいものをかわいいと眺める気持ちへと移り,梅の花などのように小さくてかわいく,美であるものの形容。中世に入って,美しい・奇麗だの意に転じ,中世末から近世にかけて,さっぱりとしてこだわりを残さない意も表した。類義語ウルハシは端正で立派であると相手を賞美する気持。イツクシは神威が霊妙に働き,犯しがたい威厳のある意。ただし,中世以降,ウツクシミはイツクシミと混同した。平安時代,かわいいの意のラウタシがあるが,これは相手をいたわりかわいがってやりたい意」

と書き,結果として,「うつくし」が,相手への感情表現から,相手の価値表現へシフトし,「うるわし」が,相手の状態表現から,相手の価値表現へとシフトし,価値表現そのものへと転換したということになる。『デジタル大辞泉』は,「うるわし」で,「うつくし」との違いを,

「『うつくし(い)』は、かわいい、愛すべきだ、の意を表し、『うるわし(い)』は、整った、端正な美を表した。『うつくし(い)』が『きれいだ』となるのに対し、『うるわし(い)』は『りっぱだ』に近づく。」

とするが,「りっぱ」というより,「端正」というべきではなかろうか。

『大言海』は,

「心愛(ウラハ)シの転ならむ。うるせし(敏捷)も,心狭(うらせ)しの転と思はる。霊異記,中,第二十七縁『妹,宇留和志』,字鏡八十七『嬋媛,美麗之皃,宇留和志』とあるは,音便に記したるなり」

とある。この説を,『日本語の語源』は,

「『心に可愛いと思う』意のウラハシ(心愛し)はウルハシ(愛し)になった。」

と書く。『大言海』は「うら」の項で,

心,

を当て,

「裏の義。外面にあらはれず,至り深き所,下心。心裏,心中の意」

と説く。『岩波古語辞典』は,「うら」に,

心,
裏,

を当て,

「平安時代までは『うへ(表面)』の対。院政時期以後,次第に『おもて』の対。表に伴って当然存在する見えない部分。」

とある。「こころ」が見えない部分として,

うら,

と訓んだのは,なかなか意味深い。上記で,十分語源として説明できている気がするが,『日本語源広辞典』は,二説載せる。

説1は,「ウル・ウラ(心)+ハシ(愛し),
説2は,「ウルホフ(潤う)+シ」

である。しかし,説2は,意味が転じて以降の後解釈に過ぎない。「うるはし」にみずみずしいという意味はない。『日本語源大辞典』にも,

ウラクハシの約(万葉考別記・隣女唔言・言元梯・菊池俗言考),
ウルハシ(潤)の義(日本釈名・天朝墨談・和訓栞・国語溯原・国語の語幹とその分類),
ウルハシ(潤好)(日本古語大辞典),

等々の説が載るが,やはり「ウラハ(心愛)シ」に与したい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
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