2017年06月29日

SFT


インスー・キム バーグ&ノーマン・H. ロイス『解決へのステップ―アルコール・薬物乱用へのソリューション・フォーカスト・セラピー』を読む。

解決へのステップ.jpg


同じソリューション・フォーカスト・アプローチによるDVへのセラピーについては,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163302.html

で触れたことがある。今回は,ソリューション・フォーカスト・セラピー(SFT)による,アルコール・薬物乱用者へのセラピーである。

本書の特徴は,監訳者(磯貝希久子)のあとがきで,

「『臨床現場からの質問』『臨床現場からのヒント』には,私がワークショップやレクチャーしている時によく受ける質問と同じような問い(SFTを学び始めた方が抱く疑問は世界各国共通のようです)に対する具体的なアドバイスが記述されています。くしくも,インスーの日本語版へのまえがきにもあるように,これらはインスーとノームから,ソリューション・フォーカスト・セラピーを学ぼうとする読者の皆様へ贈られた『宝物』です。これらを何度も目を通されると,SFTの哲学を理解する助けになると思います。」

と述べた通り,随所で,「キーポイント」「臨床現場からのヒント」「臨床現場からの質問」が示される。たとえば,冒頭の「キーポイント」は,

治療前の変化を逃さないこと,

というタイトルで,

「予約の電話の際には,クライエントの生活の中で今起こっていることで,これからも続いてほしいと彼らが思うことを見つけ,それに注意を払うようにたのみましょう。クライエントとの初回面接では,これからも続いていく価値あることを詳細に見つけ出すのを忘れないでください。」

とある。解決志向の出発点である。同じ「スタート」のところでの「臨床現場からのヒント」には,

幸先のよいスタート,

と題して,こうある。

「クライエントが初回の予約のために電話をかけてきたときに,インスーの受付には次のように伝えます。『ご予約は水曜日の午後2時で,インスー先生の担当になります。インスー先生から,今から今度お逢いするまでの間,あなたの生活でうまくいっていることに,注意を払っていてくださいとのことです。』」

このことの背景は,冒頭の,本書の書き出しに明らかである。

「ほとんどのクライエントが,酒をやめなくてはと毎日自分に言い聞かせている。(中略)ある女性が,今日我々に援助を求めて電話をかけてきた。彼女にはそうしようと思ってもできなかった日々があったからこそ,今日それができたのである。回復というのは,クライエントが我々のオフィスを訪れた日に始まるのではないし,ましてその人が実際に酒を飲むのをやめた日から始まるのでもない。回復は,その人が『お酒を飲むのをとにかく何とかしなければ』と初めて考えた,まさにその日に始まる。この変化は,援助を求める電話をかける前にすでに起きていることなので,これを活用しない手はない。たとえクライエントが強制されて面接を受けに来たとしても,あるいは彼女は誰かをなだめるため,例えば夫が彼女を非難するのをやめさせるだけの目的で電話をしてきたに違いないと考えたくなるような時であってもである。彼女が電話をかけようと考え,実際にこの電話をかけてきたということは,今までとは違うことをしたことになる。そして彼女は,今までの試みがうまくいかなかったことを認めたからこそ,そうしたのである。今や行動は起こされたのだから,我々は彼女が回復に向けて既に歩み出したこの重要な一歩を活用する方法を考えなければならない。我々は,この最初の一歩を“治療前の変化”と呼び,クライエントがどうやってこの第一歩をふみだせたのかを,できるだけ知りたいと望んでいる。」

そんな大変な状況で,どうやって電話をしようという気持ちをふるいおこしたのですか? 

などといった,例のコンプリメントの質問から,面談が始まるのだろうということが,目に見える気がする。この一文の中に,ソリューション・フォーカスト・アプローチのエッセンスがつまっている。

「臨床現場からの質問」の最初は,

「ソリューション・フォーカスト・セラピーはケア・マネジメントの要請に合うように発展したのですか?」

という問いである。それに対して,

「ソリューション・フォーカスト・セラピーとブリーフ・セラピーとの区別を注意深く付けてください。多くのブリーフ・セラピーは,ケア・マネジメントの要請に合うように発展してきました。ソリューション・フォーカスト・セラピーは,ブリーフ(短期)になるために発展してきたものではありません。このモデルには25年以上の歴史があります。私たちは自分たちのアイデアをいろいろ試してきましたが,そうするとクライエントの回復が早くなっていったのです。技法が洗練されていくにつれ,面接回数が減っていきました。ソリューション・フォーカスト・セラピーの発展のある時点では,意図的に治療を長引かせようともしてみました。この実験は裏目に出て,実際には治療はさらに短くなったのです。ソリューション・フォーカスト・セラピーの手法に従えば,わざわざブリーフ・セラピーを自らに強いなくても,治療は自然に短期になることでしょう。」

と。こうした質問は,もっと切実に,たとえば,

「望んでいるのは運転免許証を返してもらうことだけ,というクライエントが言う時には,どうしたら良いのでしょう?」

という問いに,

「そう望むのは良いことだと考えましょう。運転免許証を取り返すために,州が要求する面倒なことをやろうという人ばかりではないからです。このクライエントは,返してもらうためには何でもしようという動機づけが強いのです。クライエントがこんなふうに言う時には,免許証を返してもらうということについて,カスタマー・タイプの関係性にあります。もちろん,目標を達成するためには,酒をやめるための行動を起こすということを含んだ大変な課題を成さなければならないのですが。」

と応える。そこには,明確に方法の確立したソリューション・フォーカスト・アプローチがある。これと比較して,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/451280217.html?1498593150

で取り上げた,ソリューション・フォーカスト・アプローチの開発者スティーヴ・ド・シェーザーの,手法確立前の試行錯誤のプロセスと比べてみると,その一貫した姿勢と方向性が確立しているのがよく分かる。

本書の前半は,アルコール乱用者へのソリューション・フォーカスト・セラピーによる基本的な対応を整理し,セッション例で,まとめている。このパート1だけで,アルコール乱用者に対しても,いつものソリューション・フォーカスト・アプローチと変らず,コンプリメントがあり,例外探しがあり,ミラクル・クエスチョンがあり,スケーリング・クエスチョンがあり,それでアルコールにも薬物にも対応して解決していく。
後半は,共依存,常習再発者,リソースとしての家族との関係,命令されてきたクライエント等々の特別な治療例を展開する。

たとえば,「命令されてきたクライエント」の章の「臨床現場からの質問」には,

「まったく信じられないデタラメ話を語る,命令されてきたクライエントにどう対処しますか?」
「クライエントがあなたに嘘をつく時にはどうしますか?」

といった興味深い質問にも,ソリューション・フォーカスト・アプローチならではの答えが出る。前者には,

「こんなふうに,止めるのがとても簡単だった(という噓をついているのだが)ということが,あなたにはどうやってわかりますか?」
「あたなにとって止めることがそれほど簡単だということを,(あなたの奥さん,保護観察官)はどんなことから気づくでしょうか?」

という質問で向かう,という。ソリューション・フォーカスト・アプローチらしい対応である。後者だと,

「嘘をつくことで得たいとのぞんでいること,彼らのその望んでいる意を共有するように促す」

という。噓もまた,使えるリソースなのである。

参考文献;
インスー・キム バーグ&ノーマン・H. ロイス『解決へのステップ―アルコール・薬物乱用へのソリューション・フォーカスト・セラピー』(金剛出版)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 04:41| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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